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こらぼでほすと 年末風景1

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『吉祥富貴』も、忙しいクリスマスウィークを無事に終えた。本日は今年最後の打ち上げで、店でスタッフが宴会状態に突入している。
「三蔵さん、大掃除なんだが、二十九日の朝からでいいかい? 」
 ホールのソファにどっかりと腰を下ろして、酒をかっ食らっていた坊主の許へ、トダカがやってきた。毎年、トダカと、その親衛隊が、寺の大掃除の手伝いに来てくれる。その予定の確認だ。
「そうだな。」
 坊主の女房が里帰りすんのが二十九日だと言ってたので、まあ、そういう予定になる。トダカたちが掃除を手伝って、夕方にニールを拉致するのが毎年のことだ。
「それで、今年は夜に忘年会をするから、きみたちも出席してくれ。」
「ああ? 俺は関係ないだろ? トダカさん。忘年会なら、親衛隊とやりゃいいじゃねぇーか。」
「もちろん、うちのが今年はいろいろと手助けしてくれた礼も兼ねているんだが、うちの娘の亭主を紹介しておこうと思ってね。八戒さんと悟浄くんも誘っているから。」
「しちめんどくせぇー。」
「この間、婿殿に譲ってやっただろ? 今回は、舅に花を持たせるべきだと思うんだがね? 」
 この間というのは、寺の女房拉致事件のことだ。その時は、救出を肉弾戦組だけで出張った。トダカも参加すると言ったのだが、女房の奪還は亭主の役目だ、と、坊主がトダカを退かせた。それが借りということらしい。それを言われると、坊主も、ちょっと考える。
「あの時は、うちのが動いてくれたから、そのお礼をしたくて忘年会を開くわけだが、私としては、きみたちにもお礼を申し上げたいわけだ。年寄りのお願いなんて、滅多にないんだから頼むよ。」
 さらに、追い討ちをかける言葉に、坊主も苦笑する。トダカは、奪還後にユニオンの関係各位に打撃を与えたおした。その手助けをしたのが、トダカーズラブの面々だ。現役軍人様たちだから、そんなものはお茶の子さいさいだから性質が悪い。もちろん、トダカたちだと気付かせるヘマもしていない。どこかのエージェントたちに被害を蒙ったという体にはしてある。まあ、実際は、ユニオン側も気付いてはいるだろうが、証拠は一切ないから言及もできないし、反撃も難しい。トダカに対して反撃すれば、今度は、母体のウヅミーズラブのメンバーたちまで関わってくることは想定内のことだからだ。
「しょうがねぇーな。サルの腹一杯になるように料理は用意してくれ。」
「ははは・・・もちろんだ。食べ放題メニューにしておいたから、悟空くんのお腹も膨れるはずだ。」
「俺は、あんたに礼を言われるつもりはない。」
「まあね、共犯者だとは思ってる。」
 どちらも、自分たちのできることをした。実際の奪還は坊主たちだが、今後、ニールに手を出したら、とんでもない報復をするぞ、と、脅しておいたのは、トダカとキラたちだ。だから、どちらも感謝するつもりはないのだが、トダカにしてみるとケジメという感覚だ。
「うちの娘さんは、一人じゃ生きていけない。末永く頼んだよ? 婿殿。」
「言われなくても、こき使うさ。もう、うちしか居場所のないヤツなんだ。気長に付き合うことになる。」
 いずれ、と、言われているが、本山の上司たちの様子からして、女房も、こちらに巻き込まれることは確定している。トダカも、それを知っているから、こういうのだ。
「トダカさん、呑んでばかりはダメですよ。ちょっとは召し上がってください。」
 婿と舅が並んで飲んでいる席に、女房が料理を運んで来る。傍にはハイネもついていた。何品かの料理を席に下ろすと、坊主の横に腰掛ける。
「おまえは飲むなよ? 」
「はいはい、飲みませんよ。」
「トダカさん、何呑んでるんですか? 」
 ハイネもニールの隣りに座り込む。珍しくトダカがワイングラスを持っているから興味を示した。
「これは、フランスのだ。味見するかい? ハイネ。」
「いただきましょう。」
 ワイングラスを用意して、傍においていたデキャンタから、その液体を注ぐ。真っ赤で濃厚な色の液体だ。
「赤って珍しいな。」
「かなり古いヤツなんで、年寄り好みだとは思うがね。当たり年のワインだが、年々、深い味になったものだ。」
「ああ、だから、デキャンタですか。なるほど。」
 クルクルとワイングラスを回してティスティングすると、確かに深みのある味だが、かなり濃厚な代物だった。古いワインは、沈殿物があるからデキャンタ容器に、その沈殿物を入れないように移し変えて飲むのが決まりだ。だから、ハイネにも飲んだだけでは銘柄まではわからない。銘柄を言われて、へぇーと声を出す。それは、高額ワインの銘柄だったからだ。
「こんな無礼講で飲むのは、もったいないな。」
「いや、今年が恙無く終わるからさ。それを、私は寿いでいるんだ。」
「まあ、そうですね。なんとか今年も無事息災に終われました。お疲れ様です、お父さん。」
「きみもね? 間男くん。」
 寺の夫夫を挟んで、トダカとハイネがグラスを掲げて挨拶して飲む。イレギュラーな騒ぎはあったが、無事に終わった。それを祝いたいというトダカの意見には、ハイネも賛同する。
「おまえが食え。ほら。」
「あ、もう。・・・これは、あんたが好きでしょ? 俺はいいから。」
「ここで、ちょっとでも食って元は取れないまでも消費しろ。」
「わかりましたよ。」
 で、挟まれている寺の夫夫は、イチャコラと料理を食べさせあっていたりするが、気にしてはいけない。すでに、トダカもハイネも慣れっこの光景だ。くくくく・・と、ハイネは笑って、ワインを口に含む。
「来年も、俺は間男のままらしい。」
「そうだろうね。」
 そこへ、今度は虎と鷹だ。こちらも、トダカの酒に興味を示したのか、空っぽのワイングラスを持参している。
「一杯恵んでくれませんか? お父さん。」
「やれやれ。目敏いな、きみたちも。」
「そりゃ、トダカさんがワインとくれば、値の張るヤツしかないだろうから。何年ものです?」
「軽く二百年は経過してる。一杯だけだよ。私の飲み分が足りなくなる。」
 しょうがないな、と、トダカがワインを注ぐと、ふたりもテイスティングして、ほおう、と、感心した声を出す。
「なるほど、ここまでくると、コニャック並ですな。」
「結構、渋みのある味だなあ。これ、お父さんの秘蔵コレクションでしょ? 」
「ああ、一本しかないものだ。だから、一杯だけだ。」
 店のワインカーヴには、トダカが趣味で集めている秘蔵品が収納されている棚がある。そこだけは、鍵がかけられていて、トダカ以外は出し入れできなくされている。ワインは開けてしまったら、飲み尽くさないとならない。一本しかないのなら、今後、滅多なことでは口に出来ない代物だ。
「ママニャン、味見するか? 」
「いや、俺はアルコール厳禁です、鷹さん。」
「まあまあ、味くらいはさ。」
 ソファの背後に廻って、鷹がニールの顎を持ち上げる。ワインを一口含むと、ちゅっと、その唇を塞ぐ。げぇーー、と、ニールは慌てているが、鷹も慣れたものだ。少しだけワインを舌で、ニールのほうに流し込んだ。
「くくくく・・・さすが、鷹さんだな。」
「もう、あんたは本業がホストでいいんじゃないか? 鷹さん。」