こらぼでほすと 年末風景1
外野がツッコミしているが、どこ吹く風だ。最後に、ニールの唇を舐めるようにして離れる。
「どうだ? 美味いだろ? 」
「たったっ鷹さんっっ。あんたねっっ。俺は、ノンケだって言ってるだろーがっっ。」
「もちろん、味見させただけだぞ? タラすつもりなら、そのままディープに突入してるぞ? 俺の白猫ちゃん。」
「そこまでやったら、あんたの舌を噛むよっっ。味なんて、全然しなかったじゃないかっっ。」
「しょうがないなあ。じゃあ、もう一口いこうか? 」
「いらねぇーよっっ。グラス貸せ、ハイネ。」
高級品と聞いて、ニールも興味が出た。ハイネのグラスを取上げて味見する。だが、あまりにも濃厚で、ぐふと噎せてしまった。長いこと、アルコールを飲んでいないから、味がどうとか言う問題ではない。
「まだ、娘さんには早かったみたいだね。」
おやおや、と、トダカがミネラルウォーターを調達に走る。まだ三十路に成り立てのニール辺りだと、こういう深い酒は、味なんかわからない。酒を呑んで、そこそこの年齢にならないと、味わえない領域だったらしい。
「酒は呑むな、と、言っただろ? じじいーずの飲む酒なんて、俺たちには合わねぇーんだよ。」
グフグフと噎せているので、坊主が背中を擦っていたりする。ウワバミ連中の飲んでいる酒なんて、マニアックすぎて坊主も好まないものが多いのを経験上知っている。
「だっだって、ワインなら・・俺は・・・飲んでたし・・・」
「おまえが飲んでたのは、飲みやすい若い年代のだろ? ママニャン。これは、それとは全然違う代物だ。」
「まあなあ、度数は弱いが、醸造酒並のものだからな。」
虎も苦笑しつつ、ワイングラスを飲み干している。なかなか、お目にかかれない逸品のサカナが、噎せている白猫というのも乙なものだ。
「俺は、ここまで行くと、ブランデーかバーボンのほうがいいな。」
「そうかなあ、俺は、こういうのも好きなんだが。」
鷹と虎は、そのワインについて批評しつつ、白猫を鑑賞している。トダカが、ミネラルウォーターを運んできて飲ませているのも、そのまま鑑賞継続だ。
「娘さんには、今度、もっと 好みに合いそうなのを用意するよ。これは無理だ。」
「・・・すっすいません、トダカさん・・・」
「いや、これはマニアックすぎるからね。普通は、そうなるんだ。・・・そこいらの人たちは、マニアだから気にしなくていい。」
「マニアの総本山は、お父さんだと思いますがね? 」
「きみらも大概だと思うよ? 虎さん、鷹さん。」
トダカの趣味の逸品を、おいしいと思うには、それなりに修行が必要だ。ハイネはグルメだから、年の割りには、マニアなものを好んでいるので、鷹たちよりも年下でも参加できる。
それを遠目にしている年少組も、ニールの姿に和んでいたりする。じじいーずに構われているニールは、とても可愛い代物だったりするのだ。
「とりあえず、春までは療養態勢だ。俺たちもヘルプはするが、悟空、シン、レイ、メインはおまえたちだ。しっかり管理してくれ。」
「僕を忘れてるよ? アスラン。」
「リジェネは、とりあえずママニールが動き回るのを阻止するのが担当だ。家事のほうは出来る範囲でフォローしてくれ。」
チューリップをアムアムと食べつつ、リジェネが抗議すると、アスランも訂正はする。だが、実際の家事のほうは、やはり三人が担当するしかない。
「まあ、なんとかなるさ。シンとレイは時間があったら、うちに来ればいいぜ。無理することはないからな。・・・当分は、おやつは作らせないからな? キラ。来るなら持参しろ。」
「しょうがないよね。」
とは言っても、なんだかんだと作るのがニールだから、キラは適当に顔は出すつもりだ。
「冬休みだから、そっちに居候する。年明けのレポート提出とかはあるから、その資料探しとかの時は留守するけど、そんなとこでいいか? 悟空。」
「おまえ、トダカさんとこにも帰れよ? シン。」
「わーってる。俺は、父さんとこと寺を適当に行き来するさ。レイは、どうせ寺に居座るつもりだろ? 」
「そうなるな。ママのほうは、俺が担当する。」
アカデミーも冬休みだ。悟空も、そのアカデミーの一員なので、シンたちと同じようなスケジュールだから調整もしやすい。
「年明けは、いつも通り二日に初詣だからね。ママ、本宅だよね? アスラン。」
「たぶん、そうなるんじゃなかな。どうせ、初詣の後は別荘だし。」
例年通りの予定だと、そういうことになる。年明けギリギリに歌姫様のスケジュールが消化されたら、ニールは本宅へ拉致される。元旦は、そのまま寝正月を決め込んで、二日から初詣に出て、後は四日まで別荘で騒ぐ。別荘のほうは自由参加だから、誰でも参加オッケーだから、例年、年少組が集合して正月らしい遊びをやっている。
「あ、キラさん、うち、大晦日は夜まで留守だから来ても、アマギさんたちしかいないから。」
「え? どこ行くの? シン。」
「ねーさんの快気祝いを家族オンリーでやるんだ。」
シンの宣言に、ああ、そうか、と、キラも頷く。今年の騒ぎも然ることながら、ニールの遺伝子治療が出来たのは、本当に喜ばしいことだ。家族オンリーの祝いをやるのも当然のことだろう。
「すいません、キラさん。トダカさんが家族だけって、親衛隊もシャットアウトなんです。」
トダカとしては、家族だけで食事をする、というのが前提条件で、アマギが企画した忘年会は親衛隊も参加の方向だが、食事会は出禁にした。たまには、家族でゆっくりさせろ、ということらしい。
「それなら、しょうがないよね。別に、いいもん。」
「まあまあ、キラ。お正月はのんびりしようよ。」
「どうせ、初詣からは騒ぎにすんだからさ、キラさん。」
「そうですよ。別荘でも、やればいいでしょう? 」
「てか、キラ。退屈なら、うちに遊びに来てもいいぜ? 麻雀大会やってるからさ。」
「たぶん、悟空のとこには行けないと思うよ。アスランがしつこいから。」
「あーそうだよなあ。じゃあ、初詣から全開で騒ごうぜ? 」
「オッケー。」
どうせ、これから四、五日すれば顔を合わせる。それほど時間が空くわけでもない。だから、キラも頷く。
今年は、二十九日の夜は忘年会というものをやるので食事の準備はしなくていい、と、トダカからのお達しがあった。とはいうものの、午前中に、トダカーズラブは手伝いに来てくれるから、お昼の準備は必要だ。さて、と、思っていたら、シンとレイが顔を出した。
「おまえら、自分の部屋の掃除は終わったのか? 」
「いや、三十日にやろうと思ってる。それより、何をやらかそうとしてるんだ? ねーさん。」
台所の食卓には、山盛りのジャガイモとかニンジン、タマネギが鎮座していて、一番大きな鍋も設置されている。
「明日の昼飯な、カレーとトン汁だけでも用意しておこうか、と、思ってさ。」
で、一応、明日の昼は出来合いの調達ということで、八戒とも打ち合わせはしていたのだが、寒い季節だから暖かいものがあるほうがいいだろう、と、用意しておくことにしたのだ。これなら、うどんと白メシがあれば、どちらにも活用できる。
「ちょ、待て。これ、全部、独りでやるつもりだったのか? 」
作品名:こらぼでほすと 年末風景1 作家名:篠義