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こらぼでほすと 年末風景4

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 シンも、それだけではない。たまに魘されていることもあったから、レイも、それは叩き起こしていた。『吉祥富貴』に所属している人間が、マトモなわけはない。レイだって、夢に魘されることもある。誰だって、心の傷なんて大なり小なりあるのだ。
「ママ、喋ってばっかりで食べてない。あーんするよ? 」
「ごめんごめん、食べる食べる。」
 リジェネが、スプーンで、ちょんちょんとニールの口を突付くので慌ててニールも食事を再会する。
「僕、夢なんて見ないなあ。」
「そうなのか? 忘れてるんだろ? 俺も、夢なんて覚えてないぜ、リジェネ。」
「いや、おまえは見てる、シン。たまに笑い声が聞こえる。」
「ええっ? 俺、そんなん知らねぇーぞ。」
「朝、起きると忘れてるんだろ? ・・・・まあ、覚えてるのもあるけどさ。」
 ニールは、その自覚がある。トダカが聞いているのだろうと思うものもある。いきなり叫んで、自分が飛び起きることが何度もあるからだ。子猫たちが、傍に居ると、そういうことはなくなったが、独りの時は、今でもある。迷惑かけてるんだな、と、ちょっと反省はするが、こればかりは制御できる代物ではない。
「娘さんは、可愛い寝顔だから、お父さんは楽しいよ? 」
 それを承知の上で、トダカはそう言って頷いている。大丈夫、と、言われているようで、ニールも軽く瞑目して礼を返した。




 午後にアマギたちがクルマで送ってくれたのは、以前とは違うホテルだった。和食だろうと思っていたら、多国籍料理の店で、ちょっと驚いた。トダカのチョイスなら、和食だろうと思っていたからだ。
「人を年寄りのように言わないでくれ。私だって、こういう料理も興味はあるんだ。」
「でも、とーさんが洋物って珍しいぜ? 」
 個室に案内されて、シンが口を開く。大概、トダカが口にしているのは和食だし、酒にしても家にあるのは極東の吟醸酒なんかだ。
「娘さんの快気祝いだから、うちの娘さんが食べられるものにしたんだよ。ハイネが、いろいろと知ってて教えてもらったんだ。」
 食道楽着道楽なハイネは、いろいろと詳しいので、トダカは教えてもらったのだという。すでに、酒も料理も選んであるのか、すぐに食前酒やら前菜が運ばれて来た。
「あ、これって・・・」
 出てきたのは、ニールの故郷の料理だ。特区でも、アイルランドの料理を出す店は少ないし、カジュアルなレストランが多い。本格的な料理となると、こういう店しかなかったらしい。多国籍料理だか、リクエストしておけば、ちゃんと、その国ごとの料理に固定したコースも用意できるのだそうだ。
「だって、娘さんの快気祝いなんだから、馴染んだものがいいだろ? ということで、酒も、そちらのを用意してもらった。少しぐらいなら飲んでもいいからね。」
 食前酒は、リンゴ酒だった。みな、口をつけて、へぇーという顔をする。甘い味の炭酸が入った酒で、呑み易いものだ。ホテルの高層なので、周囲の景色も綺麗なものだ。今日は小春日和で、暖かい日差しが都市を照らしている。
「完治おめでとう、ニール。でも、まだ無理しないで、ゆっくりしていなさい。来年の春には、かなり楽になってるらしいから。」
 乾杯の音頭はトダカだ。本格的なフルコースなんてものは、ニールですら初めてだ。なんせ、若い頃に国を出ていたし、戻ってもパブに立ち寄って簡単な食事をするぐらいが関の山だった。
「俺、こういうのは初めてですよ、トダカさん。」
「そうかい、それはよかった。自分の故郷の料理を、きちんと味わっておくのも大人への一歩だ。」
「すでに、かなり草臥れた大人ですけど? 」
「私からすれば、まだまだ若いさ。リジェネくん、食べられそうかな? 」
「うん、おいしいよ? トダカさん。ママの故郷の料理って、僕も初めてだ。特区の料理とは、ちょっと違う。」
 魚介類や野菜が豊富な国なので、軽い味付けのものが多い。もちろん、メインは羊やら魚やら牡蠣やらが並ぶが、それでも味付けとしては、欧州ほど濃厚なものではないから、食べやすい。のんびりとコースを片付けてデザートまで終わると、トダカが思い出したように口を開いた。