二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

こらぼでほすと 年末風景6

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 
八等分に分けられたケーキがテーブルに並べられた。イチゴがピカピカと光っておいしそうだ。
「あ、俺の、小さいっっ。」
「俺のを半分やるって、シン。」
「やあ、ケーキなんて久しぶりだなあ。」
「ママ、ミルクティーです。」
 トダカの親衛隊も一緒に、ホールのケーキを切り分けて、おやつにした。リジェネにしてみると、ホールのケーキを切り分けて、みんなで食べるというのも、ママのところへ来てからの体験だ。どの顔も、おいしいおいしいという顔で、和やかに感想を漏らしている。イノベイド同士には、こういう交流はない。ひとつのものを分けて食べるという感覚がないのだ。
「これで、夜は遅くできるな。アマギさん、また天麩羅とかするんですか? 」
「年越しは、ソバだから、天麩羅はやるよ。他は、適当に惣菜を買って来たので、どうにかなるだろう。」
「俺、手伝いますよ。」
「ああ? ねーさんは、これから昼寝だろ? ちょっと寝ろ。でないと、初詣に参加できないぜ? 」
「そうだよ、娘さん。里では、のんびりしてなさい。」
「氏神様への初詣は初めてですね? ママ。結構、賑わってて楽しいんです。体力は温存しないといけません。」
 これからの予定を聞いていると、どうやら、年明けしたら、すぐに外出するらしい。初詣という特区の行事で、リジェネも知らないものだ。どんなもの? と、尋ねると、レイが説明してくれる。
「極東の風習なんだが、年明けしたら、近所の氏神様に、今年もよろしく、と、挨拶するんだ。別に、神様に対して、何かあるというわけではなくて、年が明けたことで、気持ちも新しくするというイベントだ。」
「まあ、とりあえず、挨拶したら、露店をひやかして買い食いしたりもするけどさ。」
「極東では、クリスマスよりも、年越しと年明けのイベントのほうが重要なんだよ、リジェネ。年越しに、お蕎麦を食べて、神社にお参りに行くのが流れなんだ。俺も、こっちに来てから知ったんだけどな。」
「神様なんていないのに? 」
「俺らの考えではいるんだ。風の神とか雨の神とかさ。自然現象を神に例えるものもあるぜ。なんていうか、まあ、いると思ってたほうが楽しいんだろうな。」
「どんなものにも心があるっていうのが、極東の考え方なんだよ、リジェネくん。まあ、そこいらは形骸化しているんだが、もう私たちの身体に染み付いている感覚なんだ。例えばね、モノは百年すると心ができるという考え方がある。それをツクモ神というんだ。長い年月を壊れずに存在するものに対する尊敬というか憧れみたいなものだと思ってもらえばいいんだが。」
 極東の風習は独特のもので、ヴェーダにも記録されているのだろうが、そんな些細なことまでは知らなかった。ただ、百年という言葉に、ひっかかった。百年すると、今、ここでケーキを食べている人間は、リジェネを残して消えてしまうのだ。それが、すとんと心の奥に落ちてきた。
「うちでは、妖精がいるぜ? リジェネ。あいつらも年は取らないし、極東の神様みたいなもんだ。」
「ケルト神話も楽しいですね? ママ。働き者の妖精が、お酒で堕落したりして。とても人間味のある妖精だ。」
 レイは、ママの地域の神様についても調べたらしい。ほんとだな? と、ママも頷いて笑っている。
「極東にもいるよ? 娘さん。若い女性が水浴びしてるのを眺めていて雲から落ちた仙人がいる。」
「あーそりゃ、うちのと似てますね。リジェネ、別に本当に居るとかいうんじゃないんだよ。ただ、そういうのがいるって感じてるだけだ。」
「人間の進化したとかじゃないんだね。」
「うーん、進化じゃないな。基本的に不老不死ではあるけど。」
「俺、本当に居るなら、どうにかしろって言いにいくぜ? リジェネ。」
「何をしてもらうんだ? シン。」
「そりゃ、平和にしてもらうさ。でも、それは難しいよな。人間は、戦わないで相互理解できるほどに清らかな生き物じゃねぇーんだから。そうなると、人間そのものを作り変えるってことになるんだろうから、それは阻止だ。」
 シンが、そう言うと、周囲も同意するように頷いている。人間の本質に戦うという性質があるから、解消するものではない。それを、どうにかするとなれば、そういうことになるのだろう。



 初詣の後で、迎えが来て、歌姫様の本宅へ移動した。まだ、帰宅していないとかで、プライベートエリアの一室に案内された。和室にこたつが設置されていて、ちゃんとこたつの上にはミカンやお菓子が置かれている。そこに、シンとレイの差し入れも置いて、一息つく。
 ちょっと横になるよ、と、ママはこたつに入ると横になった。初詣というものに繰り出して、騒いでいたから疲れたらしい。ちゃんとテレビもあるので、リジェネのほうは、そちらで暇を潰すことにした。お気に入りのものをデータから探して鑑賞する。ただ、夕方の会話が耳に残っていて、しばらくしてママのほうへ顔を向けた。
 百年という時間が過ぎれば、この楽しい時間はなくなってしまう。これから、また新しい知り合いができて、同じように時間が繋がっていくのだとしても、ママはいない。お節介で世話好きで、ちょっと壊れているママは、たぶん、もう同じ人は現れない。そう思うと、寂しくなった。イノベイドは素体さえ取り替えれば、シンたちが言う神様のように不老不死に近い状態で生きている。

・・・・僕は楽しいモノを貰ったけど・・・でも、すぐに終わってしまうんだね? ・・・ママの治療は終わったけど、それでも百年もすると、ママは消えてしまう・・・・・


 病気は治療できても老化を止める術はない。人間は、そういうものだと理解していたが、現実に、ママの存在がなくなった時のことを考えたら、かなりブルーだ。刹那とは、これから長く付き合える。だが、残りは・・・アレハレたちですら、百年という時間の後ではいなくなっているだろう。ティエリアと刹那だけは残る。それだけだ。


・・・・イオリア・シュヘンベルグは孤独じゃなかったんだろうか。冷凍保存されて、新しい世界で目が覚めて・・・それでも・・ああ、そうか・・・・


 リジェネたちを作り出したイオリアのことを考えて、ちょっと新しい考えが浮かんだ。そうだ、それなら、寂しくはないのかもしれない。もしかしたら、イオリアは、そのためにイノベイドを作り出したのかもしれない。イノベイドは、用途別に細胞の劣化速度が違う。リボンズは、自分が上位種だと勘違いするほど長い時間、生存し続けた。それは、そういうものなのかもしれない。



 テレビの音も聞こえないほどに考え込んでいたら、扉が開いた。はっとして顔を上げたら、歌姫様だ。
「ただいま、戻りました。」
 他は誰もいない。歌姫様一人が戻って来た。扉の開く音にも、ママは寝たままだ。あらあら、と、歌姫様が、毛布をどこからか運んで来て、それを掛けている。そして、リジェネが、おかしな顔をしているので、どうかしましたか? と、尋ねてくれた。
「ラクス、ちょっとお願いがあるんだ。」
「どんなことでしょう? 」
「きみの遺伝子情報が欲しい。」
「はい? 」