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こらぼでほすと 年末風景6

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 ちょっと難しい話らしいと、歌姫様はこたつに座り込んで、みかんを手にする。ママは眠っているし、話を聞くだけ聞いてから起こそうと思ってのことだ。いきなりの発言でも、歌姫様は慌てない。普段から、天然電波な大明神様の発言で慣れている。
「僕たち、イノベイドってさ・・・細胞の劣化を抑制して長い時間、生存できるように調整されている。」
「ええ、そうお聞きしておりますよ。それで、私の遺伝子情報は、なぜ? 必要なのでしょうか? 」
「イオリア・シュヘンベルグは、時間を飛び越えるために冷凍睡眠に挑戦したんだ。結果として、蘇生はされなかったけど、二百年後の世界へやってくるつもりだったんだよ。・・・・でも、それって、独りじゃないか。寂しくないのかな、って思ったんだけど・・・・僕ら、イノベイドは、おそらくイオリア・シュヘンベルグの関係者の遺伝子情報を元にして作られているはずなんだ。同じ人間ではないけど、見慣れた顔ではあるよね? だから、寂しいとか考えなかったのかもしれないって気付いたんだ。」
 実際は、どうであるかは闇の中だが、遺伝子情報を提供してくれる相手となれば、イオリア・シュヘンベルグに関係する人物ではあるだろう、と、予想はつく。今でこそ、データとして電脳空間に存在するが、二百年前なら、そんなものはなかったはずだからだ。無作為に抽出することはできなかっただろうから、協力を仰いだり、何かしらのデータを手に出来る関係にあった人物のものだ、と、予想できる。
「つまり、イオリア・シュヘンベルグは、自分の知っている人物をイノベイドとして作り出したんだと思うんだ。それなら、本人じゃなくても、親近感もあるし性格も、それほど変わらないだろうから、寂しくはないよね? 」
 何百年先の未来であろうと、見知った相手の本質を継いだイノベイドがいると思えば、孤独ではない。リジェネも、それに気付いた。
「きみたちの寿命は、概ね百年だ。僕らは、その後も生き続ける。・・・だから、僕の仲間として、きみたちの遺伝子情報を持ったイノベイドを作りたいと思った。ママじゃないけど、ママみたいなイノベイドなら、僕は、仲良くなれる気がする。きみだって、シンやレイだって、そうだ。同じじゃないけど、近いものだ。・・・それが欲しい。もちろん、きみたちが死んでからのことだよ? ただ、今の状態の遺伝子情報を保存しておきたい。」
 やがて、リジェネにも終わりは来る。不老不死に近いとはいえ、正常に機能しなくなれば、ヴェーダは容赦なく、リジェネを抹消するだろう。それまでの間、自分の傍に今、親しい人間の性質を受け継いだイノベイドがいれば、その後のことも任せていける気がする。まったく同じモノではないが、それでも、似たモノが傍に居てくれれば、いなくなったことを嘆かなくても済むと思うのだ。それこそが、イオリアがイノベイドを開発した目的だったのかと考えた。
「そのようなことでしたら、どうぞ。お好きになさってくださいな、リジェネ。私が死んだ後のことなら、それは、私が、どうこうするものではありません。・・・・ただ、ママのデータの採取は・・・いえ、まあ、保存するだけなら、問題はございませんね。」
 ラクスは、簡単に許可を出した。まあ、自分の死後、自分のコピーが存在したところで、影響はない。それこそ、自分ではないのだから、好きにしてくれ、と、いうところだ。
「あれ? かなり議論が展開すると思ったんだけど? 」
「だって、私自身に影響があるわけではございませんもの。それに、遺伝子情報だけでは、私と似たものになるとは言えません。本質は変わりませんが、経験が違いますからね。・・・ですが、リジェネ。ヴェーダには、かなりのイノベイドが存在するのではないのですか? それが、全てイオリアさんの関係者なんですか? 」
「ああ、イノベイドでも水先案内をする長命なものだけが、そうだと思う。人間と同化しているのは、ヴェーダが勝手にデータを検索して作っているはずだ。なんせ、僕らでも正確な数字は把握できないほど、数が作られているからね。」
 おそらく、リボンズを筆頭に、長い時間をかけて、ヴェーダで活動していたものだけが、そうなのだろう。だから、リジェネも、イオリアの関係者の遺伝子情報を元にしているはずだ。
「先のことは、刹那にお任せいたしますわ。・・・・私が生きている間に製造しないと約束してくださるのなら、許可いたします。他の方にも、ちゃんと、それぞれに許可を取ってください。おそらく反対はされないと思いますが。」
「しないよ。ラクスは、ここにいるじゃないか。」
「そうですね。・・・では、ママを起こして年明けの挨拶をいたしましょうか? 」
「ああ、『あけまして』だね? そうだね。それが終わったら、ちゃんと布団で寝よう。さすがに、僕も眠いよ。」
 というか、ラクスから許可を貰ったので、気が抜けたが正しいかもしれない。立ち上がったラクスが、そうそう、と、ひとつ付け足した。
「リジェネ、三蔵さんたち肉弾戦組の方の遺伝子情報は無理です。あの方たち、健康すぎてドクターもデータをお持ちではないし、あんな方たちが複数いらっしゃると、何かと大変ですから。」
「あーそうかも。・・・・他にも何か理由がある? 」
「いずれ、判明いたしますので、お楽しみに。」
「わかった。」
 遺伝子情報という点で、たぶん問題があるだろう。人外枠のモノたちなんて、遺伝子情報があっても、組成はできないだろうからだ。リジェネも、悟空たちには、何か違和感はあるのか、それには大人しく頷いた。
 
 ふたりして、ニールを揺すって起こした。ぐっすりと寝ていたらしいが、ラクスの声は届いたのか、はっと目を明けた。歌姫様がママの前で正座して深くお辞儀すると、リジェネも、それに習ってお辞儀する。
「あけまして。おめでとうございます、ママ。本年も、よろしくお願い申し上げます。」
 口上を聞くと、ニールも正座してお辞儀して、「おめでとう、こちらこそ、今年もよろしく。」 と、返す。リジェネは、さっき、トダカ家で挨拶したから、口上はなしだ。
「おかえり、お疲れさん。腹は? 」
「いえ、ママは眠いでしょう? 」
「ちょっと寝たから、大丈夫だ。年越し蕎麦は食ったのか? 」
「残念ながら、いただけませんでした。今年は、カウントダウンパーティーにも出席しておりましたので。」
「じゃあ、とりあえず、シンとレイからの差し入れでも食って寝よう。」
 ちょうど、シンとレイが用意して持たせてくれたお菓子がある。お茶を用意して、とりあえず、それを食べておくことにした。
「今年は、二日の午後まで、プライベートエリアは、私たちだけの貸切にしております。ですから、ぐうたら寝正月というものをやってみようと思っておりますの。とりあえず、起きたら、私が、お雑煮を作りますね。」
 山盛りの和菓子を、バクバクと消費しつつ、今年の正月のコンセプトを歌姫様が説明する。とりあえず、食って寝て、ぐうたらしてやろうと思ったらしい。厨房には、御節や中華、洋風オードブルが、すでに用意されていて、食材も冷蔵庫に大量にあるし、雑煮の出汁もある。これで一日ぐらいなら、何もしなくても餓える事はない。