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LOST ②

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 身だしなみに関して、特に髪については美容院に月3回以上通っているほど気を使っている平古場が、生え際が黒く伸びたままの状態で放置しているなど、余程何か特別な理由があるのだろうかと木手はあまり深く考えずに疑問を口にしていた。それが、平古場にとって最も聞かれたくない事だとは知らずに。
「つ、次に小遣い貰ったら、染めに行こうと思ってたんどー」
 焦った様に背を向けて階段を降り始めた平古場の背中で、伸びた金色の髪がさらりと揺れる。その髪を見つめていた木手は、無意識に手を伸ばして触れようとしたが指先を掠めるだけで終わってしまった。
 その手を見つめて「何がしたかったのだろうか」という疑問が心に残ったが、それよりも平古場が髪の毛を染めない理由が気になり後に続いて階段を降りた。
「他のものに使うなんて珍しいですね。よほど気に入ったものを見つけたのですか?」
「べ、別にぬーだっていいやっさー」
 妙に焦ったような態度を見せる平古場を不信に思った。いつもだったら、買ったものを聞かなくても言うくせに、今回は聞かれたくないとばかりに会話を終わらせようとしている。
「……ああ、成程。此処では言えない様なものですか。それならその不信な態度も納得出来ますね」
「ぬぅ?違う!そんな訳ねーらん!!」
 思いもよらない言葉に平古場は足を止めて振り返る。そこには 呆れた様な顔で見つめる視線とぶつかった。
「何を今更、照れているのですか。あれほど、部室で甲斐クン達と大っぴらに話をしているのに」
「だから、今更そんなことで照れるか!って、違う!!やーが考えているのとは違う!!!」
「でも、言えない様なものなんでしょう?」
「違うってあびてぃるやっさー!それに、言えねーらん様なものってぬーよ!!言えるに決まってるやっし!!」
「だったら言いなさいよ」
 気がついたら木手の誘導尋問にまんまと引っ掛かっていた。見上げた先には、有無を言わせない凄みのある笑顔が待ち受けていた。引き攣る口元を何とか押さえて、どうすれば逃げ切れるかを必死に考えた。けれど妙案は浮かぶはずもなく、木手から漂う威圧感にじりじりと精神的に追い詰められて、焦る気持ちばかりが募り背中をいやな汗が一筋伝う。
 一段、また一段と木手がゆっくりと降りてくる。迫る距離が縮まるごとに心の余裕が奪われて、プレッシャーが大きくなり平古場に余計な考えを思いつかない様にする。
「言えるものなんでしょう?だったら、教えて下さい」
 口調こそ丁寧で優しげだが、逆らうことを許さない強さがあった。平古場の心臓が早鐘を打つ。木手には言いたくないこと、知られたくないこと、そんな部類に属する事柄なのに、目の前の存在は平古場に逃げることを許さない。
 こうなった木手はどんな手を使ってでも口を割ろうとする。次は、おそらく、平古場の一番嫌いなゴーヤを持ち出す。
 間違いなく。絶対に。
 背中を流れる汗がまた一つ流れる。もう、覚悟を決めるしか他に道はなかった。平古場は半ば自棄気味に、叫ぶように理由を口にした。
「やーが悪いんだろうが!!」
「……はい?」
 謂れの無い糾弾に木手は意味が分からないと首をかしげた。あまりにも予想外の理由だった所為か、木手が悪いと言う理不尽な理由に怒る気力さえも起こらず、その真意を確かめる為にじっと平古場の目を逸らさず見つめていると、気まずそうに視線を先に逸らした平古場だった。苦々しい表情に込められた幾つもの感情の葛藤が見てとれる。
 ふいに制服のジャケットの内ポケットへと手を入れて、小さな四角い箱を取り出し木手へと突きつける。きっと受け取って貰えないし、渡せるかどうかさえ分からない状況だったから、平古場は最後まで買うかどうか迷っていた。けれど、捨てきれない可能性をどこかで願ってしまった。
「やーへのプレゼント買ったからやしがあびてぃるんやっさー!先月とぅしびーやたんし、今月はクリスマスやっさー、2ヶ月連続だったから髪染める金がなくなっただけやっし!!」
 もう一度、視線を合わせて真っ直ぐに言葉を木手へと向けてくる。ほんのりと顔を赤くした平古場を見ると、あの日の記憶が脳裏に蘇る。
 きっと、あの日と同じ意味で平古場は木手の前に立っている。
 目を細めて、少し眉間に皺を寄せた木手の顔を見て平古場は、「ああ、やっぱりまた受け取られないんだろうな」と諦めと失望が心に入り混じる。
「君も懲りませんね。俺が受け取るとでも?」
「……思ってねーらんしが」
「だったら、そんなもの買う前に、髪を染めれば良かったでしょう」
「そんなものって言うな!!」
 痛いほど鋭利で真っ直ぐな視線を全身で受け止めながら、木手の言葉に反論する。どうすれば、己よりも木手を優先した理由が伝わるのだろうか。
「わんにとってみれば、ぬーより大切なくとぅだ!!」
「髪を染めるよりも?」
「当たり前やっし!!」
 にらみ合いの様な沈黙が数秒続いた。その時、下校時刻の放送が二人の耳に流れてきた。二人の間の緊張が緩み、先に口を開いたのは木手だった。
「やはり、俺には理解できません」
「……やんやー」
 平古場は、どこか諦めた様な悲しげな表情を浮かべて優しく笑う。木手へ背を向けて階段を一足飛びに駆け下りた。
 どうすれば、この想いが届くのかが分からなくて苛立つ。
 この気持ちに嘘は無いのに、相手に伝わらなければ何の意味も為さない。けれど、だからと言って諦めることはもうしたくなかった。本気だと伝えるまでは諦めない、そう決めたのは平古場だった。
 未だに平古場の心の中には、不安や恐怖が渦巻いていたけれど、前に進むことに迷いはなかった。

 たとえ、二人が二度と同じ関係に戻れなくても。


 下駄箱の近くにあったゴミ箱が視界に入り、平古場はそこへ手に持っていたプレゼントを投げ入れた。どうせ受け取って貰えないのなら持っていても無駄だと思ったからだった。
 そして、そのまま振り返ることなく校舎を後にした。



 ***



 木手は、平古場が駆け下りた階段をぼんやりと見つめていた。最終下校の放送が流れ始めてやっと足を動かして階段を降りていく。
 平古場の想いが理解できないといった言葉に嘘はなかった。けれど、あの身だしなみについては、人一倍労力とお金を惜しまない平古場が、木手へのプレゼントを買う為にそれら全てを我慢するなんて意外だった。たとえ、好きな相手の為だろうとそういうことをするタイプには見えなかった。
 だからだろうか、平古場の『本気』だという言葉を疑う気持ちが薄れてきているのは。
 下駄箱へ辿り着くと、そこは誰の気配もなく冷たく静かな空気だけが存在していた。靴を履くために向った先の視界にゴミ箱が映り込む。そこには、ゴミとは不似合いな綺麗なラッピングの箱が捨ててあることに気がついた。
 傍に寄って見てみれば、先ほど平古場が木手へと渡そうとしていた箱と同じものだった。何処にでも売っているものだと言えばそうだけれど、このタイミングでここにあるということは平古場が捨てた可能性が高い。
 木手は数秒見つめた後ゆっくりと手を伸ばしかけたが、すぐに引っ込め靴を履くためにゴミ箱から離れた。
作品名:LOST ② 作家名:s.h