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とある二人の無能力者3話

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立ち上る黒煙。
遅れて響いて来る衝撃音。突然の出来事に呆気に取られて動けない自分。

そして・・・

「・・・お前はここで待ってろ」

少年の声。
その声にはっと我に帰った彼女は声のした方に目を向ける。
その先には先程まで話していた少年が走り去る姿があった。

「え?ちょ!?待ちなさいよ!」

声は聞こえているのだろうが振り向かず行ってしまう彼。

彼女はただ彼の背中を見ることしか出来なくて…しかし。
今までの彼に関する記憶がそれを許さない。


「・・・そんな事・・・出来る訳ないでしょ!」


彼女・・・御坂美琴もまた、
彼の後を追ってその場から姿を消した。















キィィィィン!という無機質な音で彼女は目を開けた。
まず最初に目に映ったのは先程の場所とは思えないほどの光景。
辺り一面にアスファルトの瓦礫、爆風で砕け散ったガラスが散乱していた。

朦朧とした意識の中彼女は次にごそりと動く何かを目にした。
人影らしきそれはゆっくりと動き、


「・・・初・・・春・・・?」
「佐天・・・さん」


声をかけると初春はこちらを振りむき安堵した声で呟く。

「良かった・・・無事だったんですね」
「私は大丈夫・・・初春!足怪我してる!」

もともと丈の長いスカートだからか傷が直接見えないが左足から血が垂れている。
佐天は急いで駆け寄り友人のスカートを半分くらいまくし上げてみた。
案の定膝を擦りむいている。

「これくらいヘッチャラですよ。風紀委員の訓練で何度も体験してますし」
「早く応急処置しないと・・・ハンカチみたいなのは・・・」
「それよりさっきの人は?」

そこで言われて彼女ははっと思い出した。
顔を上げ辺りを見回した。
すると・・・


「・・・何だ、生きてたのか」

ぞっとするほど低く冷めた声。
ばっと振り向くとそこには先程路地裏から出てきた少年がいた。

「・・・!」
「んだよ。人の顔見てそんなに驚いて・・・失礼だろ」
「・・・さっきの・・・人は?」

隣の初春が少年に問いかける。

「さっきの?・・・・ああ、あいつか。そりゃあお前見りゃあ分かるだろ」

佐天と初春の視界に映っているのは今や鉄くずと化したトラック。
そしてその下敷きになっていた男。
言うまでもない。

「こ・・・殺したの?」

恐る恐る佐天は尋ねる。

「だからどうした?」
「だからどうしたって・・・あなた!」
「うるせぇな・・・いいだろ、苦しむ間もなく死ねたんだからよ」
「そういう問題じゃありません!」

この少年は何を言っているのか。
まるで道端で蟻を踏み潰してしまった・・・そんな時のような顔をしていた。
上半身を起こしただけの状態の初春が青年の顔を真正面から睨みつけながら質問を投げかけた。

「何で・・・こんなことするんですか?」
「さあな・・・別にただ単に殺してまわってる訳じゃあねえよ。そういうイカレタ奴とは違うし一緒にされても困る」

彼は冷たくあしらうと今も轟々と炎を上げているトラックの方を見る。

「それにしても・・・液化燃料でも積んでたのか?妙に爆発するからびっくりしたじゃねぇか」

さっきまであった人影も嘘のように消えていた。
ここにいるのは佐天達と彼の3人のみだろう。

(・・・とにかく逃げないと、初春は足を怪我してるからそんなに速く走れない・・・)
周りの様子を伺いながら何とかこの場から逃げる算段を立てる佐天。
その時、

「おい」
「え・・・?」
「言っとくが・・・別にお前らをどうこうしようって気はない」

少年は袖についた汚れをはたきながら言う。

「俺にもあまり時間はないしその時間を無駄にするつもりもねぇ」
「・・・」

(え・・・見逃してくれるって事?)

予想外の事に驚きはあったが今は初春を連れてここを離れることだ。
そうして肩を貸し初春を起こすと佐天は公園の方へと歩き出す。



「だけどな」

もう一度響く少年の声。
その肩をびくりと震わせ振り向く。

「その貴重な時間に仕事だからとか言って介入してくる風紀委員の野郎どもにはどうも腹が立つ」


「ひ・・・人の友達に手を出しておいてよくそんな事言えるわね!」
「ああ?」

ついカッとなって叫ぶ佐天。
その瞳は目も前にいる少年をしっかりととらえていた。

「ほう・・・お前もこの俺に説教をたれるわけだ」
「当然よ!」
「だいたい人を殺すことの何が悪い?そこら辺の虫なんかは殺しちまったって何の罪にもならないだろ?ペット何ざ車に入れて留守番させてたら熱中症で死にましたーとか言っとけば法律にも引っかからないしな。けどこれが人間だった場合。留守番させてたやつは殺人罪で逮捕だ。そこに意思があったか無いかで罪の重さも変わるがどちらにせよ犯罪の範疇なんだよ。分かるか?」
「・・・・」
「んじゃあここで質問だが、人間とその虫やらペットの違いは何だ?」
「え・・・何を言って・・・」
「数か?それなら昆虫類なんて数え切れないほどいる」


突然に喋りはじめた青年に対し呆気を取れれてしまう佐天。



「結局のところ、頭脳なんだよ。人間はそうやって昔から今まで優劣関係を作ってきたんだ、弱肉強食じゃねぇがここは学園都市。頭良いやつが下にはびこってる馬鹿どもの上に立ってんだ。んでもってそういう馬鹿どもに限ってキャンキャン吠えては食いついてくる、面倒くさいったらありゃあしねぇ。法で決まってるからか?理性がそう言ってるのか?そういう奴は自分だけじゃあ何も出来ないから他のもんにすがってるだけさ」
「私は・・・」

そう言って言いよどむ。
咄嗟に頭に浮かんだ言葉は?違う?だった。
何に対しての言葉なのか、それは佐天自身が一番分かってはいたがそれでも今まさにその言葉が出ようとしたことに驚きを隠せずにいた。自分がレベル0だから、自身を持てるものが無いから、そう言われている気がして仕方がなかった。


「ったく・・・どいつもこいつも」

すると少年は不意に前にあった鉄製の板を軽く見やると、


「こういう時だけ出しゃばってきやがってよ、いちいちうるせぇんだよ」

コンという彼がした動作は単純なものだった。
目の前落ちている鉄の板を軽く蹴った。
ただそれだけの行為だ。
それなのに・・・

それは凄まじいスピードと共にこちらに吹き飛んできた。

(ッ!!避けられない!?)

視界は真っ暗になった。
どんという衝撃が体に走る。
自分が倒れているんだと何となくだが分かる。
しかし・・・

(あれ・・・痛くない?)

彼女が想像していた痛みは全くやってこない。
それどころか五体満足でいられている。
(どうして・・・?)
その時・・・


「ふぅ・・・なんとか間に合ったみたいだな」
「え?」

何となく見覚えのある声にその方を見ると。


「大丈夫か?」

その人は数日前に公園で出会った、
初対面なのにおんぶしてもらった、
大きな背中で、

「上・・・条さん?」
「え?何でおれの名前知って・・・ああ!佐天か!?」
「そうですよ・・・そこまで驚かなくても」
「いや、気づかなくてさ・・・それより怪我とか大丈夫か?」
「私は大丈夫です・・・ッ!!初春!?」