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マスコット・ラン

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「……何よ、五体目のぬいぐるみと五人目の落とし主なんて。そんなのわかるわけないじゃない。やっぱ、折木って変」
 伊原がそう言いつつ睨みつけてくる。失敬な。この普通を愛する折木奉太郎に向かって。でも言っても伊原の俺に対する変人扱いは直らないだろう。何も言うまい。俺は無駄を省くのが好きなのだ。
「まあ、まずそれで間違い無いと思うよ。手芸部の僕が言うんだから確かさ。さあ、職員室まで届けにいこうか」
三人が同時に立ち上がる。俺は座ったまま。
「折木さん。行きますよ、職員室」
 千反田の呆れ声。
「落し物届けに行くのに四人もいらないだろう。俺は留守番しておくよ」
「折木、あんたってやつは」
「まあまあ。摩耶花。ホータローのおかげで持ち主がわかったんだ。今回は多めにみようよ」
「福ちゃんはあいつに甘すぎるのよ、全く」
 机に肘をつきながら部室を出て行く三人を見送る。再び戻ってきた静寂。そう、俺が求めていたのはこれだ。無為に過ごすことの出来る午後。ふと窓からの光に顔をしかめる。雨雲は完全に去り、気持ちのいい秋晴れの日差しが体を温めていた。そう、それは心地よくて、心地よくて……。

「いやー、しかし凄いね。一針入魂ってああいうことを言うんだろうね」
「ええ!私、見入っちゃいました」
「やっぱり裁縫が上手な女の人って憧れるよね。生地とかわけてもらったから、私も挑戦してみようかしら」
「もうこうなりゃ古典部もぬいぐるみを作って、マスコットキャラでも作ろうか!この福部里志、尽力するよ!」
「悪くはないけど、ますます部の活動目的が不明になっていっちゃうよね……」
 わいわい言いながら、三人は部室の戸をスライドさせる。
「あら?」
「折木の奴、留守番とか言っときながら寝てる!」
 三人の目の前には肘を立てたまま、机に耳を当てるかのような奇妙な体勢で眠る折木奉太郎の姿が。
「全く!これだからコイツは!……何?福ちゃん?」
 福部里志が伊原摩耶花の肩をつつく。
振り返った伊原の目に入ったのは、サインペンとさっき職員室で分けてもらったクズ布を手に微笑む里志の顔。
 凶悪な顔で頷き合う福部里志と伊原摩耶花に、千反田えるは右往左往するばかりだった。

「折…さ…。折木さん!」
 千反田の声に目が覚める。
 ……夢を見た気がする。誰にも気付かれず、邪魔されず、ただただ透明にみんなを観察していたような夢を。そして最後には千反田にその安寧を壊され、無色の世界から引きずり出されるような、そんな夢を。
 どうしてだろう。そこには俺が求めていたものがあったはずなのに、千反田と手を繋いだ瞬間、安心したような、眩しいと思ったような、そんな感傷が胸に残っていた。だが、所詮は夢の残滓。そんな感傷は印象すら残さず跡形もなく溶けて消えていく。
 というか、狭いな。視野が。まだ眠り足りないのか?
「折木さ、ぷっ!」
 狭い視野で捉えた千反田の顔は必死に笑いを堪えている。どうしてだ?何がおかしい?部室全体を見ようと窓ガラスを見てみれば、そこには頭に丸めたティッシュをねじ込まれ、顔のところどころにワッペンのようなものを貼り付けられた間抜けな自分の姿があった。そしてその背後に会心の笑みを浮かべている二人の姿が。
 瞬間、全てを理解した。
「里志!伊原!」
「まずい、逃げるよ!摩耶花!」
「待ってよ。福ちゃん!ぷっ」
「逃げるな!」
 教室の外に逃げ出す二人を慌てて追いかける。寝起きの頭には廊下から差し込む夕焼けの光が眩しすぎて、少し目がくらんだ。
…………
「ところで。置いていかれた私はどうしたらいいのでしょう?」
古典部部長、千反田えるは夕暮れの中独りごちた。


作品名:マスコット・ラン 作家名:cafca