とある2人の無能力者4話
過去に初春と同じパフェを食べたり弟と同じ飲み物を飲んだりとはしているが、それは相手が同性の友人であり、家族であるからであって今回のような相手が異性で先輩で、ましてや3回しかあったことのない人だなんて平常心を保っていられるわけがない。
事実、声色や表情は普通のようでいてその胸はひどく高鳴り顔をほのかに赤く染めていることに、鈍感な上条は気付いていない。それに加え同じアイスを食べるという行動関係上肩がくっつくかくっつかないくらいのギリギリの距離でいつ胸の高鳴りを聞かれるのではないかと心配で仕方がない。
「それにしても色々大変なことになってるみたいだな」
「え?・・・ああ、あの事件のことですか?」
「確か・・・4日くらい前だっけ?死人も出たとからしいし」
「はい。あの時はすごく不安でした」
「そういえばあの足を怪我をした子は平気?」
「おかげ様で。上条さんのおかげですよ?」
あの時の彼は本当に格好良くて、素敵で。
まるでテレビに出てきそうなヒーローだった。
「そんな、当然のことをしたまでだ。佐天達が無事で良かったよ」
佐天のアイスをすくう手が止まる。
しばらくそのまま固まり、
顔を真赤にして意を決するようにして上目遣いで言った。
「本当に・・・あの時はありがとうございました。えっと・・・何ていうか、その・・・あの時の上条さんすごく格好良くて、惚れちゃいそうでした」
自分でも何故いきなりこんなことを言ったのか理解できなかった。
言って恥ずかしくなり下を向く。
(あぅぅぅぅっ・・・私何でいきなりあんなことを・・・)
上条は黙っている。
痛いくらいの沈黙が流れ佐天が後悔の念に悩まされそうになった時だ。
「えっと・・・何ていうかさ。俺はこういうとき何て言ったらわかんないけど・・・」
しばし間をおいて。
彼は言った。
「お世辞でもうれしいよ。ありがとう」
佐天は顔を上げ少年を見る。
そこには彼の素敵な笑顔があった。
「その・・・特に、佐天みたいな子に言われるとなおさらうれしいっていうか・・・」
「ふぇっ!?」
「えぁ・・・っと、その!今のはなかったことに!」
何口走ってんだぁーーー!!??、と上条が自責の念に悩まされている中彼女のなかで何かが崩壊した。
(こんな時だから・・・ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから勇気を)
「あの・・・・」
「ん?」
「その・・・め」
「め?」
佐天は深呼吸をする。
そんな彼女を半ば心配するように覗き込んできた彼に向って精一杯お願いした。
「めめめメールアドレスと電話番号を、お、お教えて下さい!!!」
一陣の風が公園内に舞った。
二つ返事で応えはYESだった。
「そっ、そんな!」
ちょうどそのころ。
とあるジャッジメントの支部内で悲痛な声が上がった。
時刻はすでに6時半を過ぎようとしていた。
「そんなことが・・・それは本当なんですの?」
「残念だけど、さっき正式にそう報告が届いたわ」
その場にいるのは3人。
初春、白井、そして固法だ。
すでにこの3人は帰宅していても構わない時間なのだが。
「そんなことって・・・何とか出来ないんですか?」
「事件の真相解明の進行状況もそうだし・・・決め手は先日の事件ね・・・」
ひどく落ち込んだ顔をしてイスに腰を下ろす初春。
「今回の死者は3人。現場の検証から同一の能力者による犯行と見て間違いなし」
「でもっ!・・・せっかく落ち着いてきたと思ったのに・・・」
憔悴したかのような初春を横目に白井が問う。
「それにしてもおかしくはありません?どうしてそんな大変な事件があったことをもっと早く伝えて下さらなかったのです?」
「私も事件の話はさっき聞いたばかりなの・・・正直もう手に負えないわ」
短い・・・しかし彼女達にとっては長い沈黙が訪れ、
「・・・今ここにいる2人に伝えます」
2人が不安のまなざしで彼女をみつめる。
「先程、アンチスキル側より正式に報告が届きました。これは統括理事会側からの強い要望であり覆ることはありません」
しばらく2人を交互に見据えて、
「数日前の事件、そして先日の事件でジャッジメントの及ぶ領でないこと、またジャッジメントの構成員が学生であることを踏まえて・・・」
彼女は言った。
強く。
そして弱々しく。
「本日、現時刻をもって学園都市治安維持機関風紀委員全支部は当事件に関する一切の捜査から降りることに決定しました」
それ以上は言わない。
だが、それだけで十分彼女達の心は折れていた。
作品名:とある2人の無能力者4話 作家名:ユウト