とある2人の無能力者4話
「このサイト見たことあります?って、ありませんよね。んーそうですね、簡単に説明すると毎回何らかの事件や都市伝説が浮上するとそのたびにそれに関する情報を書き込んでいって今までの書き込みをもとに推理する・・・って感じなんですけど」
「そのサイトで例の事件について調べていたんですの?」
「はい。まぁ書き込みの大半は嘘だったりしますけど」
苦笑しつつ話を続ける。
「昨日もこのサイトを使って調べてたんです」
「・・・、っていうことはそのサイトの書き込みで何かに気づいたってこと?」
「普通そうなりますよね。でも違うんですよ、これを見て下さい」
突き出された携帯。
佐天以外の3人はしばらくその画面を眺め、
「え・・・?これだけ?」
最初にいぶかしげにそう言ったのは白井だった。
「はいこれだけです」
「あの、非常に申し上げにくいんですけど・・・このサイトって人気はありますの?」
そう言われるのも無理はないだろう。
すでにこの書き込み自体は事件の翌日から開始されているにも関わらず今までに至るまでの間、
その数は100を超えた程度だった。
当然誰が見ても同じことを聞いただろうが。
「じゃあ、今の書き込みを踏まえて次にこれを見て下さい」
次に彼女が表示したのは同サイト内の別の事件に関する書き込みだった。
そしてまた同様にその書き込みに目を通し始めて数分。
一同は目を通すのをやめ顔を見合わせる。
「・・・」
短い沈黙。
「この違いは・・・何ですの?」
そう違いだ。
正直なところ普段からこのサイトに目を通している佐天でなければ分からない違いだったろう。
簡単に言えば、
「書き込み数の違いが明らかですね」
先程から無言で佐天の話を聞いていた初春が口を開いた。
極端すぎて笑えてくるレベルだ。
書き込みが開始されてからのおおよその平均数は一日100は軽く超えている。
「まぁ事件の内容から考えても普通逆よね」
「そうですね。これだけの差が出ているのも気になりますし」
それに・・・と初春は短い前置きをし、
「ジャッジメント(風紀委員)の管理サーバーに全く情報が入ってこないのもきがかりで、佐天さんがこの話をしだしたときから私も思うところがあったんです」
意外なことに2人ともやけに話にのってくる。
(つまり・・・私の話に賛成してくれてるんだよね?)
自分でこの話を持ちかけておいて何だが、不安になってきた。
よくよく考えてみれば、もしこの話が本当ならそれはかなり深刻な状況だということ。
ジャッジメント、アンチスキルでさえ何の足がかりも掴めていないのだ。
相手がどれほどの者なのかは分からないが、
中学生の干渉できるレベルではないとははっきり言える。
御坂と白井はともかくとして自分にいたっては無能力者だ。
「仮にそれが本当だとしたら犯人側による隠ぺい工作ということになりますけど・・・いささか信じにくい話ですわね」
「私たちが普段担当している事件とは大違いですからね。規模も内容も桁違いです。少なくとも今回の事件は能力者によるもの・・・それも死人が出ています。統括理事会も何らかの対策は取ってくれるとは思いますけど」
「統括理事会って・・・そんな人達まででてくるの?」
「そうですよ。最悪の場合、現時点で発覚している犯人に関する微細な情報をもとに統括理事会に申請を出してツリーダイアグラム(樹形図の設計者)による犯人特定をしてもらわなければいけませんし、それに」
「でもさ!」
その声は不意にほかの声にさえぎられる。
3人は声の主、御坂に視線を合わせた。
「え〜っと、御坂さん?」
御坂はほんの一瞬だけ困った表情を浮かべまた笑顔に戻った。
「あくまで本当だったらの話、よ?そんな深刻にならなくてもいいじゃない」
「で、でも」
「佐天さんに初春さんの気持ちは分かるけど、大丈夫よ。学園都市はそんなに広いわけじゃないし学区ごとによる強い規制も始まってる。それに何より、もし本当にそんな組織みたいのがあるんだったら統括理事会が黙ってちゃいないと思うし。そんなに心配しなくても犯人はすぐに捕まると思うわ」
いつにもまして明るい声。
ただそれは、これ以上その話はやめましょうという意味にもとれて。
結局その後、件の類人猿さんの話へと移行し暗かった雰囲気もすっかり和んだ。
ただ。
最後の最後まで。
御坂の目が笑っていないことに佐天は気をとられっぱなしだった。
「え〜っと・・・今日の特売は・・・んーこれといって無いか」
時刻は夕刻。
白井、御坂と別れた佐天達はいつものように家路についていたのだが、どうも急に呼び出されたとかで初春は支部へと向かっていった。
そのまま1人で途中まで歩き、いちものスーパーが目に入ったので店内にいるというわけだ。
しかし今日はいつもの特売の日ではないのでただあてもなくブラブラとしているだけだった。
こうして店内をめぐること30分。
最終的に佐天はアイスコーナーにきていた。
時間が時間なのと季節の関係もあってすでにほとんどの商品が無かったが目星のものを見つけた。
(最後の1個!私って運良いなー)
「おお!最後の1個」
そう言って近づき、
(きっと私に食べられるために最後まで残ってたんだね)
「いつも不幸な俺に対する神からのささやかな贈り物だな」
アイスにてを伸ばして、彼の手に触れた。
「あわわわっ、すっすいません!」
慌てて手を引っ込め顔も見ずに謝った。
「こちらこそ、そのなんて言うかごめん!良かったら・・・?」
何を思ったのか不意に声をひそめる男の人。
不思議に思い顔を上げると、
「あっ、か・・・上条さん!?」
「えーっと、んー?・・・そうそう!佐天だ」
「お久しぶりです。名前覚えててくれたんですね」
「まぁな、出会い方が出合い方だったし、再会も再会だったからそりゃあ覚えるよ」
「あはは、そうですね」
予想外の相手に嬉しいやら驚きだの複雑な心境である。
「でさ、どうする?」
「え?何がです?」
「いや、だからこのアイス」
「ああ、アイスは上条さんがどうぞ」
「俺はいいから佐天が。この前も少しだけ食べたし」
「でも・・・」
2人とも譲り合い精神が高過ぎてなかなか決まらなかった。
佐天がもう一度、上条にどうぞと言おうとして。
「よしっ。俺にいい考えがある」
「いい考え?」
そう聞き返した佐天に上条は胸を張って言ったのだった。
「んーっ!いや、本当にこれは美味いな」
「そうですね」
場所は変わって公園。
時刻はちょうど6時。
日もだいぶ落ちてきてあちこちのアスファルトを朱に染めている。
遠くでは狙ったかのようにカラスの鳴き声。
そんあ公園内で2人はベンチに座ってアイスを堪能していた。
「買いだめしてもいいレベルだな」
「私このアイスしったの最近なんですよ?」
より正確には。
「でもやっぱり2人で食べると減りも早いな」
「まぁ一カップ分ですし、しょうがないですね」
同じアイスを2人で食べいた。
作品名:とある2人の無能力者4話 作家名:ユウト