二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

サプリメント

INDEX|12ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 

 帰国後、サガはしばらくメディアを賑わしていた。私としてはまったくの他人事のように思いながらも、編集作業の傍らネットでその情報を得ていたが。
 ある程度出来上がって、サガに草稿をメールで送りつけた後のこと。
 眠気眼で受け取った城戸沙織からの雑誌を見て飲みかけの水を盛大に噴き出した。
 
「サガの失踪にスレンダー美女の影あり!」そう銘打たれた雑誌の表紙。どこか見たことのある風景にサガの恰好。恐る恐るページをめくれば……官能的な言葉の羅列と共に、サガの影となって顔まではわからなかったが、まごうことなく己がそこにきちんといたのだった。

 ばりっと勢いよく雑誌が引き千切られたのは言うまでもない。手は打ってあるとか言っていたがこういうことか!と怒り心頭しているとき、携帯電話が鳴った。表示名はむろんたった今引き裂いた雑誌に名をでかでかと飾っていた男である。

『あーー、シャカ?雑誌見たか?すまないが迷惑をかける』
「何がすまないだ、おい。この落とし前、どうつけてくれるのかね?」
『そうだな……とりあえず、玄関のドアを開けてみるというのはどうだ?』
「はい?」
 壊れかけのチャイムの音が鳴って、まさか…と恐る恐る玄関へと向かう。
「嘘、だろ…」
『嘘じゃない、開けてくれるか、シャカ』

 かちゃりと鍵を開けると、そこにはワイン片手にサガが立っていた。彼の活動拠点と私の住処はそんな易々と来れる距離ではなかったはずなのだが。まるで近所に遊びにきたという風情だ。当然のようにするりと入り込んできたサガの首根っこを「ちょっと待て」と掴む。

「まったく君はこんなところまで何しに来たのかね?」
「何しにって、むろん、シャカ、君に会いにきたのだが」
「いや、そうじゃなくて」
「……原稿、読ませてもらった。うん、とてもいい出来だと思うよ、シャカ」
「それはまぁ、どうも」
「まるで、シャカ、君が傍らで囁いてくれているかのような感じでね…ゾクゾクした。読み進めていくうちにどんどん会いたくなって……この手で抱きしめたくなった」
「……ええと、サガ?」

 みるみるうちに距離が縮まり、壁へと押しやられる。これは危険かもしれないと思った時にはもう逃げ場を失くしていた。

「―――約束を果たしにきたよ、シャカ。君の言葉巧みな愛撫はじゅうぶん私に火をつけてくれたのだから」

 極上のワインのような甘さを含ませながら与えられた口づけ。するりと脇から差し入れられたサガの指先が、直接肌に触れ、悪戯に書かれた誓いの言葉をゆっくりと愛でるように辿った。まるで今度は私が陥落する番とでもいうように……。




 あの日からサガとは時折、会うようになったが、べったりというような関係ではなかった。それが不満らしいサガは会うたびごとに自分のもとへ来ないかと誘ってくれたが、私は頑なに辞した。
それでもしつこいくらい繰り返すサガに「もし、君が世界一になったら、その時考えてやろう」と冗談交じりに私が言ったことをサガは本気で実践するつもりになったらしい。

 面白いことにサガは俳優業では世界一にはなるつもりはなかったから……と、あっさりその世界から身を引いた。そんな彼は今、養父の世界へと足を踏み入れていた。
 元々華のある男だ。巧な話術で人心をあっという間に掌握する術や嘘さえも突き通す厚顔さを持っているのだから、とてもその世界に向いていたのだろう。水を得た魚のようにサガは活き活きとしていた。
 多忙な最中、わずかな隙間を縫って連絡を寄越すサガに時間の融通が利く私が、仕方なく合わせることとなっていた。

 そして今日。

 寒波襲来している日。
 できることならば、一歩たりとも家から出たくないというのにサガに呼びつけられたのだ。選りにもよって、外での待ち合わせ。

 しんしんと冷え込み増す公園は私を除き、一人として人の姿はなかった。いい加減このままでは凍死しそうだと真剣に思った時、ようやく遠くから駆けてくるサガの姿が見えた。

 さて、今日はどんな恨み言をいってやろうかと考えながら、とりあえずは冷え切った身体をまずはサガに押し付けてやろうと私は口元を緩めたのだった。





Fin.



作品名:サプリメント 作家名:千珠