サプリメント
「……少し時間をもらうが、経過報告は必ずするから」
「いいものができるのを待っているよ。いらぬ怪我までさせてしまって、本当にすまなかった。追い金を近いうちに振り込んでおくよ」
エアポートに降り立ち、次の乗継がある場所まで少し離れていた。あまり余裕のない乗継時間だから、足早に歩きながら、サガと話す。
短いような長いような共同生活の時間はあっという間に過ぎ、なんとかかんとか、私たちは無事にごく平穏な日常生活へと戻ろうとしていた。
彼だけのために過ごしたとも言えるこの旅路。
若干の心残りはあったが、それは今度改めて確認することにした。あまりにも危険を伴うことで、サガと共に行動するにはリスクがありすぎたから。近々にでも時間を作って、もう一度、こっそり私一人であの土地に訪れるつもりだ。
とにかく、今回の目的であるクライアントともいえるサガを唸らせるだけの自伝なるモノを作り上げなければならなかった。これからが本当に頭の痛い作業だ。
「それはかまわないが。ところで、サガ、君はこのあと大変だぞ」
「何が?」
「何がって……君の本国では君の失踪がメディアを賑わせているようじゃないか。いいのかね?」
「今に始まったことでもないし。ちゃんと手は打ってあるさ」
「そうか、ならいいが」
「心配してくれているのか?」
「……仕事が無駄になるのが怖いだけだ」
「なるほど」
「では、ここで別れよう。君はとっとと元の世界に戻りたまえ」
「つれないな。ま、いいだろう。最後にハグぐらいはさせてくれるか」
「そんなもの、いらぬだろう?」
サガはサガの煌びやかな世界へと戻るために繋がれたファーストクラスの窓口へ、私は私の地味~な世界へと繋がっているエコノミークラスの窓口へと別れるだけなのだ。
「いるに決まっている!向こうについたら、私はパパラッチに追い回されるんだぞ?向こうでシャカと悠長に別れを惜しむことなどできないのだから!」
鬼気迫る形相で、身から出た錆のようなことを力説する男に仕方なく、「はいはい」と生返事しながら、両手を広げてやる。満面の笑みを浮かべて飛びつくサガ。正直せいせいすると同時に、少しだけ寂しさも感じたが。
「……!」
油断したのは一生の不覚であった。熱烈すぎるハグに『おまけ』がついたのである。驚きすぎて一瞬我を失い、立ち尽くした。
その時、目の端で何か光った気がしたが、ようやく我に返って、とにかく吸い付いて離れないダイ○ン並みの吸引力を持つサガを何とか引き剥がし、「しっかり今のキス代も請求するからな!!!」と叫ぶのがやっとだった。