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サプリメント

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「ええっと……アイオロス?」
「ようやくお目覚めだな、シャカ」

 目を開けて動揺する。間近にアイオロスの顔があったことと、いつの間にか眠っていたらしいという事実に。ここに来る前に片付けておかなければならない仕事が急に入り、睡眠時間を削ったことも大いに影響したのだろうが、古巣に戻った安心感もあって、あっさりと眠りこけていたらしい。

「はふ……っ…今、何時かね?」

 背伸びをしながら、窓の外を見れば、すっかり暗くなっていた。折り曲げていた腰を伸ばしたアイオロスはにんまりと笑みを浮かべて「19時だ」と告げた。

「すっかり安心しきっちゃってまぁ……いいんだか、悪いんだか。こりゃ扱きがいがありそうだ」
「報酬以上に頑張らなくていい。ほどほどで頼む。取材先に辿りつく前に病院送りは遠慮願いたい」

「ま、そのことについてもよく話し合おうじゃないか。とりあえずは飯だ。今日は俺が作ったが、明日からは前のように交代でよろしくな」
「わかった」

 のっそりとベッドから起きて準備されている夕食のある先へと向かう。テーブルの上に置かれた豪快なディナーに「相変わらずだな」とだけ告げると閉口した。質より量を絵に描いたような、とでも言えばいいだろうか。それでも昔に比べて野菜が多めなのは助かるが。

「先ずは体作りだ。しっかり食って、身体動かして、寝る!……そういえば、行先はR国っていってたよな?なんでまた、あそこへ行くんだ?いい噂聞かないぞ、というかキナ臭い話ばかり耳にするし、やめておけ。いいことないぞ」

 次々に口の中に食事を放り込んではムシャムシャと豪快に食べるその姿はサガとは正反対である意味笑えた。シャカはいつものようにいつもの量をゆっくりと口へ運んだ。

「だから此処にいるのだろう。キナ臭いのは重々承知だ。その中心に入り込まないといけないのでね。身を守る術をきちんと身に着けておかなければならない。そういうわけだが、きみをそこまで言わせる何かがあそこにはあるのかね?確かに厄介な場所ではあるが」
「俺も気になったから、こっちの情報網で色々調べてみたんだが……」

 もぐっと大きな肉の塊を口に放り込んだアイオロスはそのまま噛み砕くのに専念して押し黙った。

「きみ独自の情報網で何かわかったのかね?」

 アイオロスは軍事関係方面に顔が利くので、けっこうな機密情報を掴んでいたりするので侮れなかったりする。シャカが知らないことも知っていることが多分にあるのでしっかりと聞き出しておかなければならないと思った。アイオロスは洒落たワイングラスなどないのだろう、大き目のグラスにワインを入れて、ボルドーの深い色合いをしばらく見つめた後、ごくりと一口飲み込んだ。

「―――ケルベロス」

 アイオロスはシャカを見定めるようにじっと凝視し、静かに告げた。すぅっと冷気に包まれたような薄ら寒さを覚えながら、シャカはぐっと奥歯を噛み締めた。

「なるほど」

 そう答えるのが精一杯なのをわかってか、アイオロスはすっと視線を外し、半分以上減ったサラダに手を伸ばし、再びムシャムシャと口を動かし始めた。

「近年、奴ら好みの鉱物がやたらと採掘され、取引されるようになってな。案の定、嗅ぎ回って、しっかりマーキングしてたっていうわけだ。最近の話じゃ、政府にちゃっかり根回しして、当初利用していた武装勢力とは手を切り始めたらしいがな。ま、奴らの常套手段だろうが、面白くないのはさんざん利用されてきた方だ。騙し討ちみたいなことされて黙っちゃいられないのだろう、あちこち輸送ルートや採掘場が襲撃されてるみたいでな。そこで『爪』や『牙』たちが動き出しているようだ」

「まさしく『らしい』やり口だ」
「もう一度言うが。やめておけ、シャカ」

 やんわりとした口調だが、眼差しは厳しかった。アイオロスの言いたいことは百も承知の上だが、そこで引くわけにもいかないのだ。

「アイオロス、きみの言いたいことも十分わか―――」

 すっとテーブルの上に差し出された写真を見て言葉を失った。一枚、そしてまた一枚。何枚もの写真。そこに映し出されていたのはシャカ自身とそしてサガ。
 シャカやサガが住まいとする場所やその周辺であったり、二人同時に映っているものもあれば、一人でいる時を隠し撮りされたものであったりと多様ではあったが、そのどれもに、赤く切り裂くような印が施されていた。昔、幾度も目にした印。ターゲットの証だ。
 そしてアイオロスは手にしていた最後の一枚をじっと眺めた後、ゆっくりとシャカの目の前に差し出した。


作品名:サプリメント 作家名:千珠