第8Q 歓迎会しよーよ
1-紺野舞
さて、ニセを倒した次の日。今日も朝、いつものように廊下を歩く。
でも、”あれ”が始まった。
「ねぇ、知ってるー?紺野ってさぁ、バスケ部で先輩とか男子とかとイチャついてるらしいよー」
「うっそー、あんな障害者のどこがいいんだか」
「ギャッハハッ、紺野きもっ」
「紺野じゃないよ、コンブだよ!」
「コンブ?」
「ほら、同中のやつがさ、そういうあだ名だったって言ってたよ」
「ああ、紺、舞ね。ってか、陰険なのがぴったしー」
「ぎゃははっ、コンブコンブー」
彼女たちは爆笑しながら私の真横を通り過ぎた。
私の歩みは止まらない。
一瞬だけ速まった鼓動が憎い。
私は肺炎のせいにするために歩調を早めた。
教室の手前で一人の女子とぶつかった。
「あ、ごめんなさいっ」
目の前で藍色の髪が揺れた。
顔を見る。たしか、同じクラスの藍沢蓮華だ。
「大丈夫よ、藍沢さん」
藍沢さんは一瞬驚いた顔をして、笑みが戻った。
「よく私の名前知ってたねぇ。えっと、紺野さん、だったよね」
「…………ええ」
「バスケ部、だよね?」
私の顔はこわばった感覚がする。それでも、なんとか頷く。
藍沢さんは私の変化に気づかないのか、笑みのまま、
「がんばってね!」
と言った。
私の心に少しだけ悲しみがよぎる。
そして、思いを吐き出した。
「私と仲良くしないほうがいいよ」
と。
私は藍沢さんの反応も聞かず、去った。
2-火神大我
『させねぇっスよ!!!!』
『お返しは、もういらねぇんだよ!!!これで、終わりだからな!!!!』
ガッと、ボールを叩きこ……あれ、なんか下がらねぇ?
「んがっ?」
薄目を開ける。前の奴らがみんな振り向いてオレを見ている。
前の奴ら?教室?……試合は?黄瀬は?
手を見る。たしか、ここにはボールを……あ、
「なにが終わりだって?火神ぃ。授業中に、よくもまぁ寝られるなぁ」
――そこからグチグチと文句を垂れる教師。う、うるせぇ。ってか、
横目で黒子を見る。いびきがなく静かに寝てやがる。
――なんで黒子はスルーなんだよ!?
とりあえず流し、授業が終わる。
そこでメールが来ていた。カントクだ。
『緊急連絡!』
『1年全員、2年校舎に集合!』
とりあえず、紺野と黒子に振り向く。しかし、紺野はいない。
「紺野さんなら、保健室ですよ。気分が悪いと。たぶん、昼休みには間に合うでしょう」
「ふぅん」
と話に区切りがついてから、オレたちは二年校舎へ向かった。
で、
「歓迎会しよーよ」
とりあえず集合した一年・二年を前に小金井先輩が言った。
「「「はっ?!!」」」
伊月先輩、日向先輩らが同時に突っ込む。
「オレたち、昨日試合あったばっかだぞ!!」
「でも、部活に歓迎会はいるじゃん!」
「IH予選いつからだと思ってんだよ!一ヶ月はねぇよ!!」
「でも、初の女子も入ったことだし!」
「先輩面したいだけだろ、ダァホ!!!」
と悶着の末、ってか途中でカントクの、鶴の一声が挙がった。
「じゃあ、ちょうどいいから、参加条件として一年!ちょっと、パン買ってきて」
「「「はいっ?!!」」」
オレたちは目を剥き、先輩たちは振り向いた。
「実はね、誠凛高校の売店では、毎月27日だけ、数量限定で特別なパンが売られるの」
「ああ、イベリコ豚カツサンドパン三大珍味のせ、か」
「三大珍味って、まさか、」
「そうよ、キャビア・フォアグラ・トリュフよ!たしか、2000円の」
「高ぇ!!……し、やりすぎて、逆に品がねぇ!!!ってか、どっから仕入れてんだ、それ?!」
意外なスケールに驚きを隠せない一年一同。そこで日向先輩が小金井先輩の襟をつかみっぱなしで続ける。
「たしかに、ちょうどいいな。海常にも勝ったし、練習も好調。ついでに幻のパンもゲットして、弾みつかせよう、ってのか」
「そうよ!――でもね、いつもよりちょっと混むのよ」
カントクはため息をつき、先輩たちはなぜか冷や汗を掻いていた。
「ってか、パン買ってくるだけっしょ。チョロいじゃん。ですよ」
隣の黒子も、なにやら思案顔だ。
オレたちは金をもらい、言われた。
「まぁ、金は俺らが出す。ついでに昼飯買って、体育館な」
「紺野さんに言っときますね」
「ああ、黒子頼む。で、もし失敗したら、……釣りはいらねぇよ。今後筋トレとフットワークが3倍になるだけだ」
こえぇぇぇ!ってか、お昼の買い出し、クラッチタイム?!
……オレたちはとりあえず、紺野のいる保健室を経由して、食堂へ向かうこととなった。
3-紺野舞
授業の終了のチャイムが鳴った。
身体をあげると、ちょうどホクロくんが来た。
「あ、紺野さん、起きましたか」
「うん、だいぶ調子よくなったかな」
「実は、先輩たちが……」
あらかた聞き、「じゃ、行こうか」と保健室を後にした。
まぁ、といっても私の役目と言えば……
「はっ、見るだけかよ?!!」
「だって、私バカ神くんたちみたいに人混み大丈夫じゃないもん。ってか女子だもん」
「それに、バスケスタイルだって、”避けるバスケ”ですしね」
「そうよ、ホクロくん!」
「…………」
男子たちは沈黙し、背後の軍勢を見た。
ほぼ全校生徒というイベリコ豚カツサンドを追い求めた者たちの軍勢を。
みな思った。(か、カオスだ…………)と。
で、誰から行こうか、と話していると、
「じゃ、オレから行くぜ。火神ほどじゃないが、パワーには自信がある」
と瓦くんが走っていった。そして、軍勢の最後列に触れて3秒後、
スコーン…………
空しい音で瓦くんは吹き飛ばされた。
「あの、とりあえず、河原くんをちゃんと呼んであげてください」
「読むな心を!ってか、ホクロくんには通じてるからいいじゃない。クリ旗くん、瓦くん、フグ田くん」
「最後の福田くんは、某名作アニメからですね」
「その通り!」
っていってる間にバカ神くんが突入するも、
ワラワラドンッ
ってことではねられた。
「こ、こりゃあ……this is a japanese rash!」
「英語かよ」
「そいや、帰国子女だったな、一応」
「ってか、バカ神くん、もう一発!」
「はっ?this is a japanese rash?」
「「「もういいよ、英語は!」」」
悶着の末、とうとう男子勢全員で挑むこととなった……けど、
「「「「マジで歯が立たねぇ…………」」」」
まぁ、柔道アメフトラグビーと、いろいろな巨漢たちもうごめく集団だ。歯が立たないのも仕方ない、か。
「ってか、やべぇ、フットワークに筋トレ3倍は死ぬし……」
「へっ?!そんな条件あるの?!」
初耳だ。ちっ。ホクロくん、あえて言わなかったな……。
そう思ったところで、
「あの……」
と後ろからホクロくんが声をかけてきた。
見ると、手には目的のパンである。
「買えましたけど……」
「「「「なんで?!!」」」」
みんなが詰め寄ると、ホクロくんは言った。
「人混みに流されてたら、先頭に着いたんで、お金置いて、パン取ってきました」
ポンッとバカ神くんの手にパンを置き、呆然としている三人に向く。
「どうしました?」
「いや、さすが、幻のシックスマンは違ぇなぁ……と」
ボロボロな三人と髪ボサボサになったバカ神くんを連なり、体育館へ足を運んだ。
さて、ニセを倒した次の日。今日も朝、いつものように廊下を歩く。
でも、”あれ”が始まった。
「ねぇ、知ってるー?紺野ってさぁ、バスケ部で先輩とか男子とかとイチャついてるらしいよー」
「うっそー、あんな障害者のどこがいいんだか」
「ギャッハハッ、紺野きもっ」
「紺野じゃないよ、コンブだよ!」
「コンブ?」
「ほら、同中のやつがさ、そういうあだ名だったって言ってたよ」
「ああ、紺、舞ね。ってか、陰険なのがぴったしー」
「ぎゃははっ、コンブコンブー」
彼女たちは爆笑しながら私の真横を通り過ぎた。
私の歩みは止まらない。
一瞬だけ速まった鼓動が憎い。
私は肺炎のせいにするために歩調を早めた。
教室の手前で一人の女子とぶつかった。
「あ、ごめんなさいっ」
目の前で藍色の髪が揺れた。
顔を見る。たしか、同じクラスの藍沢蓮華だ。
「大丈夫よ、藍沢さん」
藍沢さんは一瞬驚いた顔をして、笑みが戻った。
「よく私の名前知ってたねぇ。えっと、紺野さん、だったよね」
「…………ええ」
「バスケ部、だよね?」
私の顔はこわばった感覚がする。それでも、なんとか頷く。
藍沢さんは私の変化に気づかないのか、笑みのまま、
「がんばってね!」
と言った。
私の心に少しだけ悲しみがよぎる。
そして、思いを吐き出した。
「私と仲良くしないほうがいいよ」
と。
私は藍沢さんの反応も聞かず、去った。
2-火神大我
『させねぇっスよ!!!!』
『お返しは、もういらねぇんだよ!!!これで、終わりだからな!!!!』
ガッと、ボールを叩きこ……あれ、なんか下がらねぇ?
「んがっ?」
薄目を開ける。前の奴らがみんな振り向いてオレを見ている。
前の奴ら?教室?……試合は?黄瀬は?
手を見る。たしか、ここにはボールを……あ、
「なにが終わりだって?火神ぃ。授業中に、よくもまぁ寝られるなぁ」
――そこからグチグチと文句を垂れる教師。う、うるせぇ。ってか、
横目で黒子を見る。いびきがなく静かに寝てやがる。
――なんで黒子はスルーなんだよ!?
とりあえず流し、授業が終わる。
そこでメールが来ていた。カントクだ。
『緊急連絡!』
『1年全員、2年校舎に集合!』
とりあえず、紺野と黒子に振り向く。しかし、紺野はいない。
「紺野さんなら、保健室ですよ。気分が悪いと。たぶん、昼休みには間に合うでしょう」
「ふぅん」
と話に区切りがついてから、オレたちは二年校舎へ向かった。
で、
「歓迎会しよーよ」
とりあえず集合した一年・二年を前に小金井先輩が言った。
「「「はっ?!!」」」
伊月先輩、日向先輩らが同時に突っ込む。
「オレたち、昨日試合あったばっかだぞ!!」
「でも、部活に歓迎会はいるじゃん!」
「IH予選いつからだと思ってんだよ!一ヶ月はねぇよ!!」
「でも、初の女子も入ったことだし!」
「先輩面したいだけだろ、ダァホ!!!」
と悶着の末、ってか途中でカントクの、鶴の一声が挙がった。
「じゃあ、ちょうどいいから、参加条件として一年!ちょっと、パン買ってきて」
「「「はいっ?!!」」」
オレたちは目を剥き、先輩たちは振り向いた。
「実はね、誠凛高校の売店では、毎月27日だけ、数量限定で特別なパンが売られるの」
「ああ、イベリコ豚カツサンドパン三大珍味のせ、か」
「三大珍味って、まさか、」
「そうよ、キャビア・フォアグラ・トリュフよ!たしか、2000円の」
「高ぇ!!……し、やりすぎて、逆に品がねぇ!!!ってか、どっから仕入れてんだ、それ?!」
意外なスケールに驚きを隠せない一年一同。そこで日向先輩が小金井先輩の襟をつかみっぱなしで続ける。
「たしかに、ちょうどいいな。海常にも勝ったし、練習も好調。ついでに幻のパンもゲットして、弾みつかせよう、ってのか」
「そうよ!――でもね、いつもよりちょっと混むのよ」
カントクはため息をつき、先輩たちはなぜか冷や汗を掻いていた。
「ってか、パン買ってくるだけっしょ。チョロいじゃん。ですよ」
隣の黒子も、なにやら思案顔だ。
オレたちは金をもらい、言われた。
「まぁ、金は俺らが出す。ついでに昼飯買って、体育館な」
「紺野さんに言っときますね」
「ああ、黒子頼む。で、もし失敗したら、……釣りはいらねぇよ。今後筋トレとフットワークが3倍になるだけだ」
こえぇぇぇ!ってか、お昼の買い出し、クラッチタイム?!
……オレたちはとりあえず、紺野のいる保健室を経由して、食堂へ向かうこととなった。
3-紺野舞
授業の終了のチャイムが鳴った。
身体をあげると、ちょうどホクロくんが来た。
「あ、紺野さん、起きましたか」
「うん、だいぶ調子よくなったかな」
「実は、先輩たちが……」
あらかた聞き、「じゃ、行こうか」と保健室を後にした。
まぁ、といっても私の役目と言えば……
「はっ、見るだけかよ?!!」
「だって、私バカ神くんたちみたいに人混み大丈夫じゃないもん。ってか女子だもん」
「それに、バスケスタイルだって、”避けるバスケ”ですしね」
「そうよ、ホクロくん!」
「…………」
男子たちは沈黙し、背後の軍勢を見た。
ほぼ全校生徒というイベリコ豚カツサンドを追い求めた者たちの軍勢を。
みな思った。(か、カオスだ…………)と。
で、誰から行こうか、と話していると、
「じゃ、オレから行くぜ。火神ほどじゃないが、パワーには自信がある」
と瓦くんが走っていった。そして、軍勢の最後列に触れて3秒後、
スコーン…………
空しい音で瓦くんは吹き飛ばされた。
「あの、とりあえず、河原くんをちゃんと呼んであげてください」
「読むな心を!ってか、ホクロくんには通じてるからいいじゃない。クリ旗くん、瓦くん、フグ田くん」
「最後の福田くんは、某名作アニメからですね」
「その通り!」
っていってる間にバカ神くんが突入するも、
ワラワラドンッ
ってことではねられた。
「こ、こりゃあ……this is a japanese rash!」
「英語かよ」
「そいや、帰国子女だったな、一応」
「ってか、バカ神くん、もう一発!」
「はっ?this is a japanese rash?」
「「「もういいよ、英語は!」」」
悶着の末、とうとう男子勢全員で挑むこととなった……けど、
「「「「マジで歯が立たねぇ…………」」」」
まぁ、柔道アメフトラグビーと、いろいろな巨漢たちもうごめく集団だ。歯が立たないのも仕方ない、か。
「ってか、やべぇ、フットワークに筋トレ3倍は死ぬし……」
「へっ?!そんな条件あるの?!」
初耳だ。ちっ。ホクロくん、あえて言わなかったな……。
そう思ったところで、
「あの……」
と後ろからホクロくんが声をかけてきた。
見ると、手には目的のパンである。
「買えましたけど……」
「「「「なんで?!!」」」」
みんなが詰め寄ると、ホクロくんは言った。
「人混みに流されてたら、先頭に着いたんで、お金置いて、パン取ってきました」
ポンッとバカ神くんの手にパンを置き、呆然としている三人に向く。
「どうしました?」
「いや、さすが、幻のシックスマンは違ぇなぁ……と」
ボロボロな三人と髪ボサボサになったバカ神くんを連なり、体育館へ足を運んだ。
作品名:第8Q 歓迎会しよーよ 作家名:氷雲しょういち