第8Q 歓迎会しよーよ
「か、買ってきました―」
フグ田くんが相田先輩たちに差し出し、日向先輩が言った。
「いや、それはお前らが食っていいぞ」
「マジっすか?!!」
「ああ。で、よーく見てろ、一年共」
と、日向先輩が体育館のドアを開けた。
そこには、3つくらいの丸机の上にお菓子が広がっていた。
「とりあえず、コガの言うように歓迎会、な」
「え、これ、先輩たちがやったんですか?!」
感嘆の声をあげるクリ旗くん。駆け寄ったのは小金井先輩で、胸を張り、言った。
「そうだよ!!」
と。
賞賛の目を惜しげも無く注ぐ一年トリオ。それを横目で見ながら、日向先輩・伊月先輩はボソッと言った。
「「絶対これがしたかっただけだろ、コガ」」
と。
苦笑する私と、静かに冷ややかな視線を送るバカ神くんとホクロくん。
そして、男子たちは一斉にバカ騒ぎを始めた。
ポッキーで鬼瓦を作る小金井先輩とおどおど制止しようとする水戸部先輩、どか食いするバカ神くんと喰いっ気をなくす伊月先輩、ポテチを食べながらキセキの話をしているらしいホクロくんと日向先輩、馬鹿話に華を咲かせる土田先輩と一年トリオ。
宴会は賑わっていた。
少し離れたところからみんなを眺めていた私のもとに、相田先輩が来た。
「ホント、男子ってすごいわね。エネルギーありすぎよ」
ため息をつきながら、机によりかかる。
パッと見は呆れているが、目は笑っていた。
「えぇ。私もそう思います」
私も机にもたれ、ジュースを煽った。そして、独り言のように言った。
「私、このチーム好きです。帝光は、勝利するバスケでよかったから、仲良しはあんまりいなかったし、むしろ反目しあってました。それなのに、誠凛はみんな協力し、仲がいい。おもしろいチームです」
相田先輩は私の言葉を心地良さそうに聞いていた。
「そう言ってもらえてよかったわ」
先輩が私の顔を見る。そして満面に笑みを浮かべ、
「さあ、今日の放課後もシバくわよ!」
はりきったのだった。
歓迎会が終わり、次の日の朝。
さぁ、今日は私の週番だ。で、黒板消しの任が与えられていたわけだけど、
「なんで今週に限って黒板めいいっぱいに書きまくってんのよ……」
練習で体中きついのに……。
とか思いながら背伸びしながらてっぺんを消す。
そして都合よく、バカ神くんとホクロくんはいづこやら。
はあああぁ、と深くため息をつく。
それで半分位消し終わったところで、私の隣でもうひとつの黒板消しが動いた。
驚いて横を見ると、藍沢さんだった。
「な、なにしてんの?」
「次移動教室でしょ。早くしないと遅れるでしょ、と思ってね」
そう言いつつ藍沢さんは綺麗に上から消していく。
「藍沢恋華。恋華でいいよ」
「ってか、あなたも早く行きなよ。私は歩くの早いから大丈夫。それに、」
背後で軽い舌打ちが聞こえた。
私は勢いよく言った。
「私に構うと大変よ」
「いじめのことなら、気にしないわよ、あたし。それに、あたしが友達になりたいだけなのに、紺野さん以外に何か言われる筋合い無いし」
私は腕を止め、目を見開いた。
「……早く行こうよ、紺野さん」
私は何も口にできず、腕を振った。
消し終え、私たちは教材を持つ。先に待っていた藍沢さんと教室の電気を消し、歩き出す。
柱の方でちょうど現れたホクロくんがこちらに気づいて微笑んでいた。
今日は、少しいい日かも。
作品名:第8Q 歓迎会しよーよ 作家名:氷雲しょういち