第11Q この試合、絶対勝ちたいです
私のシュートは…よし、入った。
と、隣にいるクリ旗くんが恐々と口を開く。
「や、やべぇ……超びびってきた。普通に観客いるし、会場も今までみたいな学校体育館じゃねえし」
「なら帰れ」
「しかも王者二連戦。ってか、連戦以前に、一つ勝てるかもキツいよ」
「なら死ね」
「待って、オレはどういうポジションなの?」
「ううん……フリハタ、カッコ笑い?」
「ちょっ!!」
「冗談冗談」
「ああ、よかったー」
「帰れ、だけわね」
「死ねは?!」
そんな彼を無視し、なんとなくおは朝魔くんに目をやる。
あちらも私たちを見ていた。
バカ神くんやホクロくんも、目を鋭くしていた。
そのバカ神くんの頭は、
「ガン飛ばす相手が違ぇよ、ダアホ」
日向先輩にグリッと回された。
痛そうだ。
「痛てぇ!」
そりゃそうだ。
「お前な、いくら飛ばしても、次負けたらただのアホだろうが」
バカ神くんは首をマッサージしながら、日向先輩の言葉に応える。
「ちょっと見てただけだ!です!ちゃんと次の相手に集中してるっすよ」
その言葉とともに、私も背後でパスやシュートをしあっている正邦選手たちへ振り返った。
黒々とした服装の男子たちが投げ合う。ってかなんか威圧感が……。
って、なんか雰囲気はあるけど、秀徳とは全く種類が違う……。
「正邦って思ったより普通というか、あんまり大きい人いないんですね」
フグ田くんの呟きに相田先輩が応じる。
「まぁ、全国クラスにしても小柄かもね。一番大きいのは首相の岩村くん。187よ」
一年の視線が相手選手の一人に集まる。
「ああ、水戸部先輩と同じくらい、ってごつっ!!すげぇパワーありそう!!」
「あと、司令塔は春日くん。あの金髪の子ね。その三年二人がチームの柱よ」
ヒョロリと細身の男子を指してそう言ったのだった。
「あー、君が火神くんっしょ!」
そのとき、突然バカ神くんのもとに、あの坊主君が来た。
キラキラとした笑顔で向かっていく。
「うわー、マジで髪赤ぇー!こえ~~~!」
「あんっ?!」
バカ神くんはなんとなくイラっとしていた。
坊主くん、たしか津川くんは、正邦側を見て、叫んだ。
「誠凛超弱いけど、一人すごいの入ったって、こいつっしょ?主将!」
正邦は一同ギョッとしていた。まぁ、無理もないだろうが。
それに対し、誠凛の一同はプチ怒り気味だ。
「おーおー、言ってくれるわね、クソガキィ……」
「ハァ、なんでお前、いつも他校さんと絡むんだよ」
「いや、今日は違うっすよ!!」
そこでようやく正邦の主将さんが坊主の頭をグーで突いた。
「チョロチョロすんな、バカたれ」
「あいてっ」
そのまま日向先輩のもとに来た。
「すまんな。コイツは、空気読めんから本音がすぐ出る」
うわぁ、本音って……。
「謝んなくていいっすよ。勝たせてもらうんで。去年と同じように見下してたら泣くっすよ」
「それはない。それに、見下してなどいない。お前らが弱かった。ただ、それだけだ」
5-岩村努
正邦の控え室。選手一同着替え中である。
俺は、春日に言った。
「どうだった、春日?あいつらの印象は」
「上級生はやっぱ力つけてそうだよー。あとは、一年の火神が要注意、かな」
「じゃ、同じ一年だし、今のお前ならどんな奴でも止められるだろ」
俺は、満面の笑みを浮かべた津川を見上げた。
「ほい、やったぁ!楽しくなってきたああああああぁぁぁぁ!!!!!」
その神々しいまでの笑みを見ながら、引き気味に春日が言った。
「うわっ、出たよ、津川スマイル」
首を振る春日に、後光の眩しい津川、ため息をする俺。
「世界中見渡してもお前だけだよ、笑顔でDFする奴」
6-火神大我
誠凛控え室。みんな緊張しているのか、固い。
その空気を感じてか、カントクが口を開いた。
「全員、ちょっと気負い過ぎよ。元気でるご褒美考えたわ!」
全員の視線がカントクに集まった。
そして、頬に手をやり、頬を染め、星を出した。
「次の試合に勝ったら、みんなのほっぺにチューしたげる!どーだ!」
……………………場は静まった。さっきよりさらに深く。
「ウフってなんだよ…」
「星出しちゃダメだろー」
カントクの顔がひきつる。
「バカヤロー!そこは義理でも喜べよ!」
あ、止め刺された。
「ぐっ……な、なら、紺野さんのチュ」
「ようし、みんな頑張るぞー!」
「「「おう!!」」」
「そこの無視って、何気に私にもダメージ来るんですけど?!!」
流した誠凛の先輩たちに突っ込む紺野である。
「流されるなんて、かわいそうだな、紺野」
「?火神くん、今のは先輩たちが興奮しただけですよ」
「そうなの?!」
流されるのもかわいそうだけど、いや、積極的にされたくもない、かな。
そう思っているうちに、カントクはキレた。
「ガタガタ言わんと、シャキっとせんか、ボケーーー!!!!去年の借り返すんだろうが、ええ?!おい!!一年分利子ついて、えらい額になってんぞ、コラァアアア!!!」
そう暴れるカントクをドウドウ、と水戸部先輩が諌めた。
主将らも苦笑しながら言う。
「わりーわりー。わかってるよ」
そして、なにか覚悟を決めたように「おっしゃ」と告げ始めた。
「行く前に改めて言っとくけど、試合始めればすぐ体感するだろう。けど、一年は腹くくっとけ」
腰に手を当て、続ける。
「正邦は強い。ぶっちゃけ、去年の大敗で俺らはバスケが嫌いになって、もうチョイでやめそうになった」
無言で言葉を胸に染み込ませる俺ら一年。
そのまま、沈んだ。
「うわ、暗くなんな!立ち直ったよ!元気だよ!むしろ喜んでんだよ!――去年とは同じには絶対ならねぇ。それだけは確信できるくらい、強くなった自信があるからな」
笑みを浮かべ、二年の面々は力強くうなづいた。
そして、締める。
「あとは勝つだけだ!行くぞ!!!!」
「「「おう!!」」」
その声と共にコートへ向かう俺たち。だが、黒子が止まっていた。不思議に思って、声をかける。隣には紺野がいた。
「どうした?」
「どったの、ホクロくん?」
「火神くん、君は、バスケを嫌いになったことはありますか?」
「は?」
一度考え込む。
「いや、ねえけど」
「僕はあります。理由は違うけど、気持ちはわかります」
暗い顔で黒子は続ける。紺野は、悲しげな視線を黒子に送っていた。
「今はあんなに明るいけど、好きなものを嫌いになるのはすごく辛いです」
二年生たちは既に出っ張らった。
「緑間くんと話した時、過去と未来は違うといったけど、切り離されてるわけじゃありません。この試合は先輩たちが過去を乗り越える、大事な試合だと思うんです。だから、」
そう切ってから、一度ドアをまたいだ。
そして、試合は開始のアイズがなされた。
『それではこれよりAブロック準決勝、第一試合、誠凛高校対正邦高校の試合を始めます!』
5人ずつが向かい合う。俺は、ジャンプボールの準備をしながら、先ほどの黒子の言葉を回想する。
〈バスケを嫌いになったことありますか?〉
俺はバスケが嫌いになったりとかはねーし、全部理解は出来てねぇ。
〈だから、改めて思いました〉
けど、最期の言葉だけはわかったぜ!!
〈この試合、絶対勝ちたいです〉
さぁ始めようぜ、死に物狂いの王者二連戦!!最初の王者、正邦!!!!
作品名:第11Q この試合、絶対勝ちたいです 作家名:氷雲しょういち