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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL

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プロローグ


Prolog
    ※※※
 ここは霊峰アルファ山の麓にある村ハイディア、その村の民は皆エナジーという力を持っており、その能力者を「エナジスト」とよぶ。
 エナジーは地、火、風、水の四元素でできており、この村の民の大部分が地か火のエナジストであった。
 エナジーの主体は物体に干渉する力だが、破壊、治癒の力も持ち合わせている、広く世間で「魔法」と知られる力に近いかもしれない。 そんなハイディア村に異変が起きようとしていた。
    ※※※
「ロビン」
 聞き慣れた声がどこかうっすらと聞こえる。
「起きるのよロビン!」
 今度ははっきりと聞こえた。どうやら自分は眠っていたようだ。
「だいぶ嵐が強くなってきて危ないわ。早く広場へ避難しましょう」
 嵐、そういえば今日の夕方辺りから雨が降り出してきていた。今はすごい嵐になっていたのか。
「ほら、寝ぼけてないで早く起きなさい」
 母親は言うと同時にロビンの腕を掴み、ベッドから引きだそうとした。
「痛いよ母さん、そんなにしなくても起きるよ…」
 ロビンは眠たげな声で抗議する。言った後ベッドから這い出て自分の部屋を出ようとした。
「あ、ちょっとまって」
 母親は壁のフックに掛かっているコートに手のひらを向けて、念じた。『キャッチ』
 すると母親の体から光が発せられ、エナジーの力がコートを持ってきた。
「外は大雨なんだからレインコートをわすれちゃだめよ」
 既に手元まで来たコートをロビンに着させながら言った。
「さあ、行きましょう忘れ物は…ないわね?」
 訊かれてロビンは心当たりを探ってみた。
「あ!」
「どうしたの?」
「ボクの日記帳…」
「…可哀想だけど、時間が無いの。諦めてちょうだい…」
 そんな、とロビンは反論しようとしたが、母親に手を引かれ日記帳との別れを余儀無くされた。
 外は窓から見た風景よりも遥かにすごい状態だった。
 大雨によって地盤がゆるみ、各地で落石が起こり、強風によって木がなぎ倒されていた。
「キニー、ロビン!」
 ふと2人の後方から声が投げかけられた。2人とも声の主がすぐに分かった。
「ドリー!」
 キニーの夫、すなわちロビンの父親である。
「君達まだ避難してなかったのか、早く避難するんだ」
「えぇ、それよりもそっちの方はみんな避難したの?」
「いや、まだ六軒ほど避難が終わってない」
「なら、私も手伝うわ」
「でも、ロビンが…」
 ドリーはロビンに目を向けた。
「大丈夫、ロビンはもう大きいわ。きっと一人で広場まで行けるわ」
 行けるわよね、とキニーがロビンに確認する。
「うん、ボクは大丈夫だよ」
 本当はキニーと一緒に行きたかったが、ドリーの前で恥は晒すまいと力強く答えた。
「ほら、ロビンもこう言ってる訳だから…」
「分かった、ロビンを信じよう。私は向こうを、君はあちらをたのむ」
「えぇ!」
 2人はすぐさま避難の終わっていない家に向かった、するとキニーがこちらを向いた。
「分かってると思うけど、広場は南よ!」
 遠くからキニーが大声で叫ぶ。
「うん、大丈夫だよ!」
 ロビンも大声で答えた。
 両親が駆けていくのを見送り、ロビンはまっすぐ広場に近い道を行こうとした。すると突如として地響きがなり、ロビンの上方から岩が転がってきた。そしてそれは巨大な音ともにロビンの目の前に停止した。
「うわ!?」
 岩はかなり大きく、とてもロビンの力ではどうしようもなかった。
「危なかった…、もしもこんなのが当たっていたら…」
 考えただけでもゾーッとする。
 これによって広場に一番近い道は使えなくなってしまった。仕方なくロビンは遠回りになる道を行くことにした。
「う〜ん、重たいなぁ…」
 今度はどこからか声が聞こえた。声にはまだ幼さが残る、声の主はロビンと同じくらいの年頃だろうか。ロビンは声のする方へ行ってみた。声はだんだん聞こえやすくなってきた、それでも周りの雨音のせいで誰の声なのかまでは分からない。そのうちに姿が見えた。遠目からだったが、雨の中にも関わらす逆立った真っ赤な髪型が見えた ロビンの知る限りではそのような人物は一人しかいない。
「ジェラルド!?何してるのさ、早く逃げようよ!」
 ロビンは迷わず少年のもとへ駆け寄った。
 ジェラルドは大きな箱のようなものを引きずって持ち出そうとしていた。
「何してるって、ロビン。ボクの宝物を運ぼうとしてるんだよ」
 ジェラルドは苦しそうな表情でこたえた。
 ロビンにはジェラルドの気持ちがよく分かった。自分も先程大切に使っていた日記帳を置いてきたのだから。
「あちこちで落石が起きているんだ、そんなものを持って歩いたらあぶないよ」
 ロビンはジェラルドに冷静に諭す。
「宝物よりも命。そう言うのかロビン」
 ロビンは頷いた。
「う〜ん、そうだな、死んじゃったらもう宝物みつけられないもんな。よし、一緒に行こうロビン!」
 二人顔を合わせ頷くと駆け出した。
 それにしても、ジェラルドは諦めが早ものである、自分はまだ日記帳のことが諦めきれてないというのに。
 ロビンは心の中に未練を残していた。
    ※※※
「準備は出来ましたかな?」
「いや、まだ息子と娘が準備出来ていません」
 ドリーは河辺にあるシェルス家の避難の援助をしていた。
「できるだけ急いでください。ここは川に近い、いつ氾濫を起こしてもおかしくはありませんぞ」
 ドリーの言う通りシェルス家のウッドデッキは川に面している。実際に一部浸水が始まっていた。
「ガルシア、ジャスミンまだ準備出来ないの?」
 シェルスの妻、アンが子ども達に問いかけた。
「オレは準備できたよ」
 最初に来たのは兄のガルシアの方だった。
 ガルシアの髪には先程まで寝ていたのであろう、幾つか寝癖が出来たままだった。
「待ってよ兄さん」
 続いて妹のジャスミンが後ろに付いてきた。手にはぬいぐるみがあった
「ジャスミン、そんなものを持ってたら逃げ遅れるでしょ。置いていきなさい!」
 アンにはやはり怒られてしまった。
「いや!これは私の大切なものなんだから!」
 ジャスミンはぬいぐるみを離そうとしない。
「ジャスミン…!」
「まあまあ、いいじゃないか。特に大きなものというわけでもないし、それに大切な物を持てって言ったのは君じゃないか」
 今にも怒りそうなアンをシェルスが宥めた。確かにアンはそのようなことを言っていた。それでは仕方のないことであろう。
「それにもう時間も無い、早く逃げなければ」
 なだめすかされたアンはそうね…、と答えた。
「ドリーさん、準備は出来ました」
「では、行きましょう」
 先程よりも風が強くなっていた。たとえ人でも飛ばされてしまいそうだ。
「皆さん、気を付けてしっかり一歩ずつ歩いてください」
 ドリーがその場にいる全員に注意を促す。
 不意に突風が吹き付けた。
「あぁ!」
 叫び声をあげたのはジャスミンだった。
「どうした?ジャスミン」
 そばにいたガルシアが問いかけた。
「私のお人形さんが…」
 見ると風に飛ばされてしまったのだろう、川の中に突き出した杭にぬいぐるみが引っかかっていた。
「どうしたんだガルシア」
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 作家名:綾田宗