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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL

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川の方を見て固まっていたガルシアにドリーが声をかけた。
「あそこにぬいぐるみが引っかかったんです」
 ガルシアは杭を指差して言った。
 ドリーもそれを見た。杭が突き出している川は既に轟々たる濁流流れる危険な状態であり、普段あの杭は水上から二メートル程出ているのに今では50センチ位しか出ていないことから水かさも相当なものであった。
「無理だガルシア、今とりに行くということは死にに行くようなものだぞ」
 事態を把握したシェルスが言った。
「ジャスミン、だから置いてきなさいと言ったのに!」
 アンはジャスミンを叱責する。
「ジャスミン、残念だが諦めるんだ」
 ドリーも既に諦めていた。エナジーを使えば何とかなったかもしれないが、ここにくる途中に落石をどかすのにエナジーを使っていたのでもうエナジーが残っていなかった。
「やだよう!わたしのお人形さん!」
 ジャスミンは諦めきれず泣きわめいていた。
「よし、だったらオレが取ってこよう」
 この声に皆驚いた。なんとガルシアが取ってくると言い出したのだ。
「ガルシア、話をきいていなかったのか!?危ないと言っただろう!」
 最初に口を開いたのはシェルスだった。
「父さん、オレにはエナジーがある、その力を使えば何とかなる」
 もちろんエナジーを使うという方法はみんな一度は考えていた、しかし
「ここからじゃエナジーの効果が届かないぞ」
 そう、この距離では遠すぎるのである。しかし、ガルシアには考えがあった
「家のウッドデッキからならきっとエナジーは届くはずさ」
 確かにここよりは杭に近い分エナジーは届くだろう。しかし、それだけ川にも近づくことになるので危険も増すだろう。
「しかし、ガルシア…」
「行かせてあげましょうシェルスさん」
 なんとドリーがガルシアに賛成した。
「ドリーさん!?あなたまで何を…」
「これ以上言ってもガルシアは聞きませんよ。それにこんな妹思いな兄の気持ちを無駄にするものではありませんよ」
 ドリーに言われシェルスはそれ以上は何も言わなかった。
「なに、私も一緒に行きます。心配はないでしょう」
「分かりました」
「あなた…!」
 シェルスは了承したが、アンはそうでは無かった。
「ドリーさんがいれば大丈夫だよ」
 シェルスはアンをなだめた。
「よし、では行くぞガルシア」
「はい!」
 2人はウッドデッキへ行くべく家の中に入っていった。
 川沿いは遠くでみるよりもとてつもない状態にあった。
 ウッドデッキでは浸水した水によってあちこちで崩壊が始まっていた。
「気を付けるんだぞ、ガルシア」
「はい、おじさん」
 ガルシアは前方の杭に向かって手を向けた。
『キャッ…』
 エナジーを詠唱しようとしたその時だった。
 ザッパーン、遠くで大きな水のはじける音が聞こえた。それに続いて波が押し寄せてきた。
「大変だガルシア、向こうで落石が起きた!」
 そう、落石によって波が起きたのである。
「うわぁぁぁ!」
 身構える間もなくガルシアは波にのまれてしまった。
「ガルシアー!」
「ガルシア、頑張るんだ」
 ガルシアは先程人形が引っかかっていた杭に流されまいと掴まっていた。
「くそ…やっぱりさっき止めておくべきだった」
 シェルスが後悔の念を抱いていた。
「兄さん!」
「危ない、ジャスミン!」
 ドリーは川に身を乗り出そうとしたジャスミンを抱きかかえた。
 ドリーの腕の中でジャスミンは兄さん、兄さんと呼び続けている。
「ドリー!」
 ふと、少し離れた所からドリーの名を呼ぶ声が聞こえた。
「キニー!」
 キニーはこちらから向かい側にいた。
「ドリー、あっちの避難は終わったわ。それよりもコレはどうしたの?ガルシアは大丈夫なの!?」
 キニーが大声で問いかける。
「ガルシアが杭に引っかかったぬいぐるみを取ろうとしたら上流の落石で起きた波にのまれてしまったんだ!」
 遠くのキニーにドリーも大声でこたえた。
「ガルシア!」
「ガルシア!」
「兄さん!」
 シェルス達もウッドデッキにやって来た。
「ガルシア、絶対に杭を離すんじゃないぞ!」
 シェルスが大声で呼びかける。
「シェルスさん、エナジーを」
 ガルシアを助けるにはこれしか方法はないだろう、しかし。
「いえ、私のエナジーではどうにもなりません。ドリーさんは」
 シェルスのエナジー攻撃的なものが主体であり、とてもガルシアを助けるためには使えない。
「私はここに来る途中で落石をどかすのに使い切ってしまって使えません」
 こんな事になるなら残しておくべきだった。後悔の念がドリーの頭をよぎる。
「うわぁ!」
 突如ガルシアが悲鳴をあげた。すると川の中へ沈んでしまった。
「いやぁ、兄さん!」
 ジャスミンが悲鳴のような声をあげた。
「ぷはぁ!」
 ガルシアはなんとか川の中から顔をだした。
 これにジャスミンは一瞬安堵の表情を見せた。しかしガルシアの顔を見る限り体力の限界は顕著なものだった。
「母さん!」
 ふと呼ばれたキニーは振り返った。そこにはロビンと友達のジェラルドがいた。ロビンもジェラルドも大急ぎでここへ来たのだろう、息が絶え絶えだった。
「ハァハァ…、大変だよ母さん、や、山からお、大岩が落ちてくるって…ハァハァ」
 とても苦しそうな息づかいでロビンは報告する。
「あぁ!大変だぞロビン、ガルシアが川で溺れてるぜ!」
 ジェラルドは川での惨状を目の当たりにした。
 ふとキニーはある方法を思いついた。すぐにドリーの方を見、大声をあげた。
「ドリー、助けを呼びましょう!」
 声はドリーに届いたようだ。すぐに返答が返ってきた。
「私もそれを考えていたが、誰が呼びに行くのだ!?」
「それなら問題ないわ。ここにロビンにジェラルドがきたわ!」
 ドリーは息子達の存在を認識した。
「しかし、ガルシアは助けが来るまでもつだろうか」
 ガルシアは今にも流されてしまいそうであった。
「きっとガルシアは大丈夫です。ガルシアを信じましょう」
 シェルスとアンは助けを呼びに行くことに賛成していた。
「分かりました」
 ドリーはまたキニーを見た。
「キニー、助けを呼びに行くことに決まった。すぐに行ってくれ!」
 分かったわ。とキニーは答えた。
「いい?ロビン、ジェラルド。広場に行って助けを呼んで来るのよ」
 キニーがロビン達に助けを呼びに行くように促した、その時だった。
 これまでにないほど大きな地鳴りが響き始めた。今までも落石の度に聞いてきたが、今のはそれらの比ではない。
 音は次第に大きなものとなってきた。
 その場にいた一行は音のする方を見上げた。
「ま、まさかあれは…」
 ドリーの表情は徐々に恐怖の色が出始めていた。
 轟音を立てつつ岩が転がってくる、地鳴りの正体は先程ロビンの言っていた大岩であった。
 大岩は周囲の家々や木々をなぎ倒しつつ確実にこちらに向かってきていた。
―\ガッシャァァン!―

潰され、瓦礫と化した家々。

―ガッシャァァァン!―

決して勢いの衰えぬ大岩。

―ガッシャァァァァン!!!――
眼前に迫った大岩、もはや逃げる術などなかった。

――ドガッシャァァァン!!!――
    ※※※ 
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 作家名:綾田宗