黄金の太陽THE LEGEND OF SOL
「感動の再会は後でたっぷりすればよかろう」
苛立ったサテュロスによって遮られた。
「これで我々が人質に手を出さないという保証ができたであろう。さあ、さっさと行ってまいれ」
サテュロスはロビン達の睨みを無視して言った。
「ロビン、ジェラルド俺からも頼む。行ってきてくれ…」
意外なガルシアの言葉にロビン達は驚いた。
「ほら、ガルシアもこう言っているんだ。はやくおしよ!」
メナーディも苛立っていた。
ロビン達はガルシアの言葉に心が揺らいでしまっていた。
「どうする、行くかロビン?」
ジェラルドが訊ねてきた。
「奴らの言いなりになるのは嫌だけど、このままじゃガルシアまでも危険に晒されるかも…」
ロビンの答えは決まりかかっていた。
「それじゃあ…」
「いこう、ジェラルド」
かくして彼らは崖を飛び越え始めた。
※※※
「ジャスミン、聞いてくれないか…」
ロビンとジェラルドがマーズスターを取りに行ってしばらくしてからガルシアが言った。
「何、兄さん?」
「俺達の父さんと母さんは、生きている」
「え…!?」
ジャスミンは絶句した。
「さっき言いかけたことなんだが…」
--……ハハ、オレもう死んじまうんだろうな…--
ガルシアの霞んだ視線の先には森が、丘が流れていた。正確には彼自身が流されているのだが。
--ふう、まあいいか。死んでも多分母さん達には会えるだろうさ。なにせ、母さん達は大岩に直撃したんだからな…、オレよりも先に死んだだろう--
また水を飲んでしまった。もはや咳き込む力もない。
--さようなら。ジャスミン、一人でも頑張れよ--
目覚めればそこは天界だと思った。そこは苦しみも悲しみも何もない所であると思った。しかし、ガルシアがいたのは現実の世であった。
--ここは…、一体どこだっていうんだ?--
ガルシアは一般的なベッドの上に寝ていたようである。
辺りを見回してみれば、これまた質素なつくりの部屋が広がるのみである。
ガルシアに分かったことは1つ。
--オレ、生きてる!--
自分が生存していることに喜びを覚えた。
ガチャッ、部屋のドアが開かれた。ガルシアは扉に目を向けた。蝶番が軋み、ドアが開ききる。
現れたのは一人の青年。
「ふん、起きたか…」
それは戦士風の服に身を包み、青い人外の顔色をした青年であった。
ガルシアは警戒の眼差しを向けた。
「そう警戒するな。なにも取って食おうというつもりではない」
男の声色はとても鋭いものであった。なのでガルシアの警戒心を解くには至らなかった。男は溜め息をつき、
「邪魔をしたな、食事は後で持ってこよう」
と男は部屋を出ようとした。
「あんた、何者なんだ?」
ガルシアは口を開いた。
すると男はガルシアの方を向き直った。
「なんだ、話せるのか。ならば教えてやろう、私の名はサテュロス。ハイディアの川で溺れている貴様を助けたのは私だ」
サテュロスは続けた。
「それと貴様の親も私の仲間が助けた」
ガルシアは一瞬自分の耳を疑った。
--母さん達が、生きている?--
思いはすぐに声になった。
「父さんと母さん生きてるのか?」
「ああ、生きてはいるさ」
サテュロスの答えは妙な言い回しである。
「お前とは別な所でお休み頂いているよ。どうやら神殿の罠を彼らが受けたらしく、ずっと目を覚まさないのだ」
サテュロスから驚くべきことが伝えられた。
「そんな…!?」
ガルシアは絶望した。
「まあ、まだ諦めるのは早い。神殿の謎を解けばあるいは…」
サテュロスからほんの少しの希望がもたらされた。
「そうすれば母さん達、目覚めるのか?」
サテュロスは笑みを浮かべ、
「恐らくな」
と答えた。
「なら…」
ガルシアは一瞬俯いた後再度サテュロスを見やった。
「オレも神殿の謎を解く」
--母さん達を、助けるんだ!--
決意を固めるのだった。
「好きにするがいい」
サテュロスはきびすを返した。
彼の口元には不敵な笑みがこぼれていた。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 作家名:綾田宗