黄金の太陽THE LEGEND OF SOL
男は焦げ茶色の長髪を後ろで1つに束ね、革を基調とした衣服を身にまとい、左側にだけ掛かるマントを身に着けている。顔には全体を覆う悪魔を彷彿とさせる仮面をつけていた。
仮面のせいでとても誰なのか判断できない。
「………」
男はただ沈黙し続けている。しかし仮面越しの目は確かにある人物を見据えていた。
ジャスミンである。
「どうやら三つのエレメンタルスターは手に入れたようだな。のこるはあの赤いやつか…」
サテュロスは言った。
「やつら何をモタモタしておるのか、さっさととってしまえばよいものを」
サテュロスは珍しく苛立ちを隠そうとしない。
「ふん、そりゃあ取れんさ。なぜならマーズスターを取るには一旦ここに戻らんといかんのじゃからな」
言葉はスクレータにより発せられた。
スクレータもまた腕を後ろで縛られている。
「おや、お目覚めかなスクレータ殿」
サテュロスは穏やかな様子で言ったが、明らかにそれは作られたものだった。
「お主ら、年寄りをこんな目に遭わせておいてただではすまんぞ!」
スクレータはサテュロスをきっ、と睨み付けた。
「ふ、うるさいじいさんだ。もう一度眠っててもらおうか…」
サテュロスは手元に炎を発生させた。
炎はサテュロスの手の中でゆらゆらと揺れている。
「な、何をする気じゃ…」
答えは決まりきっていた。
「寝ていろ…!」
サテュロスは手に発生する炎をスクレータに向け、放った。しかし、
『クエイク!』
周囲の大地が揺れ、岩がサテュロスの周りに落ちてきた。これによりサテュロスの炎はスクレータを逸れて消えた。
サテュロスはエナジーの発動した方を見た。そこには金髪碧眼に火山の如く頭をした2人の少年がいた。
「ロビン、ジェラルド!」
スクレータとジャスミンが同時に言った。
「ふん、貴様らに破壊のエナジーが使えたとはな。思わなんだぞ」
サテュロスが言う。
「エレメンタルスターは取ってきてくれたのか?」
ロビンは頷いた。
「そうか、ならばこちらに渡してもらおうか?」
ロビンは首を振った。
「仲間がどうなってもよいのか?」
サテュロスはまた手元に炎を出し、スクレータの目の前にやった。
「ロビン、そうじゃぞ渡してはならぬ」
スクレータは目の前に炎を近づけられても物怖じ一つしない。
「貴様は黙っていろ。それで、渡さぬのか?」
サテュロスは炎をさらに近づけた。
「…スターは…」
ロビンが囁いた。
「エレメンタルスターは無い!」
囁きは大声に変わった。
「無い、とはどういう事だ?」
サテュロスは目を細めた。
「何だか知らないけど水色の髪をした変な奴に盗られたんだ。それで、そいつは消えちまった」
答えたのはジェラルドだった。
「私の事ですよ。サテュロス…」
どこからともなく聞き覚えのある声が聞こえた。そう、あの男である。
男はロビンとサテュロスの間の空間から現れた。
「アレクス、何をしていた?遅いぞ」
度々空間消滅を繰り返していた男の名はアレクスというらしい。
「ここに来るまで私は彼らを偵察していたのです。その内に彼らが神殿の仕掛けを解いてくれたのであなた達を呼びに行こうとしたら見つからず、捜しましたよ」
アレクスは説明した。
――あの時何度か感じた視線はこいつのものだったのか…!――
ロビンはアレクスを見やり、思ったが、口にはしなかった。
「ふん、そんな事よりもエレメンタルスターはどうした?」
「そんなに焦らずとも…」
アレクスは手を出した。すると一瞬光が生じたかと思うと、そこにはロビンが持っていたいたエレメンタルスター入りの袋があった。
「ここに有りますよ」
アレクスの力は最早尋常なものではないだろう。
「それで全てか?」
「いいえ、後一つです」
アレクスは言った後ロビン達を見やり、
「彼らに取ってきてもらいましょう」
この言葉にロビン達は驚愕した。
「ふざけんな、何でオレ達が行かなきゃなんねーんだ!」
ジェラルドは怒鳴った。
「行ってはくれぬか、人質はこのじいさん1人ではないのだがね」
メナーディ、とサテュロスが呼ぶと奇抜な化粧の女がジャスミンの襟首を持ってやって来た。
「これでもまだ行ってくれないのかしら?」
ロビン達は言葉を詰まらせるしかなかった。
「ロビン、ジェラルド行くことなんてないわ!」
ジャスミンは捕らわれの身となりながらも強気な気持ちをなくさなかった。
「うるさい小娘が、やはり少しばかり痛い目にあってもらおうか」
メナーディは手先にエナジーを集中させた。エナジーは空気の刃と化した。
メナーディはそれをジャスミンに突きつけた。
「よせ、メナーディ」
言葉は意外にもサテュロスによって掛けられた。
「人質は傷つけないということが奴との約束であろう」
サテュロスの言う奴、とは仮面の男のことである。
「そういうことで人質には決して手を出さない。だから行ってくれぬか?」
サテュロスは再度頼んだ。
「奴とジャスミン達の関係もよく分からないのに、信用できるか!」
ジェラルドの答えは変わらなかった。
「残念だよ、私達はこれほどまでに信用されていないとは…」
サテュロスは溜め息混じりに言った。
「しかし、これを見てもまだそんな事が言えるかな?」
サテュロスは仮面の男に手を向けた。すると、
『フューム』
サテュロスの手より、炎がほとばしる。それは仮面の男の顔に迷うことなく命中した。
ロビン達は驚きのあまり絶句していた。しかし、その後彼らが思うような状態にはならず仮面が破壊されただけだった。
「そ、そんなまさか…」
ロビンが。
「あ、あいつは…!」
ジェラルドが、ただただ驚いていた。というのも男の顔はジャスミンに似通った所があり、ロビン達にもよく分かっていた顔であったからだ。
「ガルシア兄さん…」
仮面の男はジャスミンの兄、ガルシアであった。
ガルシアも最初はロビン達同様驚いていた。いや恐れていたのかもしれない。
しばらくの沈黙が流れた後ガルシアには表情がなくなっていた。
ガルシアといえば、三年前の嵐の際に川に流され、今は死んでいるはずの人間である。それはロビン達もよく分かっている事だ。
それなのに彼は今確かにロビン達の目の前に存在している。
「どうして…」
沈黙を破ったのはジェラルドであった。
「どうして生きているんだガルシア!?」
サテュロス達を除く全ての者が欲している疑問を投げつけた。
また数秒の沈黙が流れた。その後、ガルシアは答えた。
「あの時、俺が助かったのは奇跡としか言いようがない」
ガルシアの声はロビン達の記憶に残っていたものとはだいぶ違うものとなっていた。
なおもガルシアは続けた。
「大岩の直撃の後、川の水圧が上がり、流され、下流で水を沢山飲んで気を失って死の淵に立たされていた俺を、彼らが助けてくれた…」
ガルシアは掠れたような声で経緯を話してくれた。
「兄さん、どうして…、生きているならどうして帰って来てくれなかったの?私、ずっと1人だったのよ…」
ジャスミンは涙声で言った。
「すまない、ジャスミン。寂しい思いをさせたな、でも…」
ガルシアが何かを言おうとした時、
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 作家名:綾田宗