黄金の太陽THE LEGEND OF SOL
第4章 旅立ちの日
なんど崖を飛び越えただろうか。もう既に百を超えているだろう。
初めは、一つの崖を飛び越すのも恐ろしかった。しかし今はそんな気持ちは微塵もない。
ロビンには思うことがあったからである。
--ガルシア…--
三年前に死んだはずだった友のことである。
彼とは、子供の時いつも一緒にいた。ほぼ毎日ハイディアの森、洞窟、アルファ山の草原に行って泥だらけになって帰ってきては一緒に怒られもした。
そんな彼と、別れを余儀なくされたのは、忘れもしないあの嵐の日。川で溺れている彼に、大岩が襲いかかった。それによって、流され、ついには水死体までも見つからないほど遠くまで流された、かに思えた。
しかし、実際には違っていた。
ガルシアは今こうして生きている。どうして助かったのか、ロビンには分からない。すっかり変わってはいるが、生きていることには驚いたが同時に多少なりとも喜びもあった。
でも、どうしてかその喜びは束の間でしかない。また、離れ離れになってしまうような気がしてならない。いや、これは考え過ぎであろう。今はただ、マーズスターを手に入れるのみ。
「ロビン、着いたぜ…」
ロビンとジェラルドはマーズスターのある崖にたどり着いた。今までと同様に女神像の胸の前にある手の中に、マーズスターは輝いていた。
ロビンはそれに手を伸ばし、マーズスターを手にした。すると、ロビンの目の前に、エナジーの光が発生し、水泡が人の形をなしていく。
「お疲れ様でした。ではそれをこちらに渡してもらいましょうか?」
アレクスが現れたのである。
しかし、ロビンはアレクスにマーズスターを渡すのをためらった。
「どうしましたか?早くそれを私に…」
「本当にこれを渡したらみんなを解放してくれるのか?」
ロビンは鋭い目をしている。
「もちろんですとも」
アレクスは微笑みながら言った。
「分かった…」
ロビンはアレクスにマーズスターを手渡そうとした、その時だった。
………ゴゴゴゴゴ………
「っ!?何だ!」
地響きとともに辺りが震えだした。
揺れは段々強くなっていく、もはや立っているのも辛い。
「な、なんだ、何が起こってんだ!?」
ジェラルドは大声でわめき散らしている。
「あ、大変だ!崖が…!!」
大きな揺れの影響でロビン達が飛び越してきた崖が崩れてしまった。
「うわ、これじゃもう帰れねえぞ!」
ジェラルドの喚き声はさらに高まった。
「チッ!」
アレクスは舌打ちをすると宙に浮かび始めた。そしてなにやら特殊な事を始めた。
『リードテレパシー』
遠くにいるサテュロス達の心とアレクスの心とがそれぞれの声を伝える。
『大丈夫ですか?皆さん』
アレクスは心で伝えた。
『その声、アレクスか?一体この揺れはなんなんだ!?』
アレクスの心の中にメナーディの声が返ってきた。
『恐らくエレメンタルスターをすべて取ってしまったことでバランスが崩壊したのでしょう。ここはマーズスターは諦めて脱出しましょう』
『なんだと、マーズスターは手に入れていないのか?』
今度はサテュロスの声が返ってきた。
『彼らが持っていますが、今は取り返すことは出来ません。今はすぐにここから出ることを考えましょう。ここで死んでは、元も子もないでしょう』
サテュロスは憤った。
既に揺れは収まったが、いつまた起こるか分からない状態であった。
「何だったの、今の揺れは!?」
ジャスミンは恐怖に顔をひきつらせていた。
「大丈夫だ、ジャスミン。お前は俺が守る」
ガルシアはそんなジャスミンを宥めた。
そこへアレクスが現れた。
「さあ、逃げましょう。ご老人にお嬢さんも一緒に」
アレクスはサテュロス達のもとへと現れた。
「ちょっと待て、スクレータとジャスミンまで連れていくのか?」
ガルシアは食い下がった。
「置いていくとでもいうのですか?」
アレクスは驚いた様子だった。
「そうではない、これからの旅にも二人を連れていくのかと言ってるんだ」
これにアレクスは、
「致し方ないでしょう」
答えた。
「ふざけるな。約束が違うぞ、妹には危険な目に遭わせないというな!」
ガルシアは怒りを露わにしている。
「約束の時とは状況が違う。妹さんを助けたいなら連れていくしかありません」
アレクスの言葉にガルシアは言葉を失った。
「そういうことよ、さあぐずぐずしてないで早くしな」
メナーディはジャスミンの背を押した。
「きゃっ!」
ジャスミンは小さな悲鳴を上げた。これを見たガルシアは再び怒り、
「妹に乱暴するな!」
怒鳴った。
「あんた、誰に口利いてんのか分かってんのかい」
メナーディはガルシアに食い下がった。
「よせ、喧嘩なら後にしろ、それよりも早くここを脱出するぞ。頼むアレクス」
サテュロスはアレクスの背に手を置いた。他の者も同様にした。
「お任せを」
アレクスは何か念じ始めた。すると、アレクスに触れている者達に光が生じ始めた。
やがて一同は光に包まれ、この空間から姿を消した。
――マーズスター、私は決して諦めませんよ!――
消えながらアレクスは思うのだった。
※※※
崩壊していく崖の中に、2人の少年が取り残されていた。
彼らはアレクスのように瞬間移動の能力を持ち合わせていない。さらにあげれば、空中に浮かぶような能力も勿論無い。しかし彼らの立っている場所は切り立った崖であり、周りには飛び越せそうな足場もない。文字通り八方塞がりである。
しばらく呆然と立ち尽くしていた二人だったが、ジェラルドが口を開いた。
「ヤバい事に…なったな?」
なんとも愚問である。
しかし、ロビンは
「そうでもないさ」
精一杯の強がりを言った。
「無理すんなよ。本当はヤバいと思ってんだろ?」
図星である。
「…こうなったらもう強がりでも言うしか無いだろ!」
ロビンは少し怒鳴ってしまった。
「そう怒るなよ、どうせオレたち死んじまうんだから…」
ジェラルドは完全に諦め、その場に座り込んだ。
ロビンも同様にした。もはや本当に選択肢は死しかなかった。このまま一歩も動けないのでは、いずれ起こるであろうアルファ山の揺れに巻き込まれ、生き埋めになるのか、それとも餓死するのか、それとも別な何かで死ぬのか、いずれもやはり死しか待っていない。
――くそう、もう本当に死ぬしかないのかよ!?――
ロビンは握った拳を力一杯地面に叩きつけた。しかし、鈍い痛みがやってくるのみだった。
更に拳を叩きつけた。もう彼の拳は血まみれであった。
「ろ、ロビン…」
ジェラルドが何かに驚いたように呼びかけた。
「なんだよジェラルド」
ロビンは苛立ちを隠さずに答えた。
「あ、あれ…」
ジェラルドは前方を指差した。ロビンもその方向を見た。すると、
「な、なんだあれ…」
ロビンも驚愕した。自分の目を疑った。
大きな岩が彼らの前方にふわふわと浮かんでいたのだ。さらに中心部には一つの目まである。
岩は言った、
「アルファ山の噴火活動、始まった…」
続けざまに言った。
「四つのエレメンタルスター、なくなってバランス崩れた。もう直ぐここは崩れ落ちる…」
岩とロビン達の目が合わさった。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 作家名:綾田宗