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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL

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第1章 その後の日常


――あの嵐の悲劇から三年の時が過ぎ去った――
    ※※※   
 今日のハイディア村は雲一つ無い青空、心地よく照りつける太陽、まさしく快晴であった。
 ある者は川で洗濯を、またある者は畑仕事を、幼き子供達は元気に走り回っている。
 まさしくこれが平和というのであろう。
 村に唯一ある川から少し離れた所に一軒家がある。そこで一人の少女が洗濯物を干していた。
 彼女はジャスミン。赤っぽい茶髪を後ろで一つに束ねて、厚めの布地の服を着ており、薄い赤色のスカートを履いていた。全体的に赤茶色の、彼女の名と同じ植物の色と同じ格好をしていた。
「さて、洗濯終わりっと!」
 ジャスミンは洗濯を終え、一息ついた。大きく手を伸ばし背伸びをする。初め大変だと感じていた家事だったが、今では楽しいものだと感じるようになっていた。
―今日は兄さん達が亡くなった日ね…―
 ジャスミンは三年前に起こった事故を思い出す。
 ――兄さん達は川に流されて死んでしまった。でも哀しんでばかりいてはだめ、いくら哀しんでも、いくら涙を流しても兄さん達は戻ってはこない。それに兄さん達だって哀しむ私を見たくないはず。私が助かった事を喜ばなくちゃ――
 内心まだ哀しみが少し残るジャスミンであったが、このように気丈に振る舞うことで哀しみを乗り越えていた。
「今日はロビン達といっしょに神殿にお祈りしに行くんだったわね」
 ジャスミンはこの三年間兄たちの命日の日には神殿で彼らが無事に天へ召されたことを祈っていた。
 言った後ジャスミンは身支度を整え、カーネーションの花束を携え家を出た。
    ※※※   
 ――ふう、今日は汗ばむくらいの天気だな。まだ春なのに…暑いなぁ――
 ある家の屋根の上で少年が寝転びながらぼんやりと空を眺めている。 少年は金髪を無造作に作っており、上下ともにほぼ青色に統一した服にマントのように大きなマフラーを身に付けていた。青空よりも青い綺麗な目は誰でも親しみやすい汚れのないものであった。
「ロビン、屋根の修理は終わったの?」
 家の下から女性の声がかけられた。
 ロビンと呼ばれた少年は二日前の大雨の影響で穴が空いた所を修理していた。
「ああ、もう少しで出来るよ!」
 ロビンは大声でかえす。互いに知っている様子と女性の声が若くは無いことから2人は親子であろう。
 もう少しなどとは言ったが今まで休んでばかりいたので殆ど出来ていない。
「今日はお友達と約束があるんでしょ?早くすませるのよ!」
 おっとそうだった、危うく忘れるところだった。
「分かってるよ!」
 ロビンは忘れかけていた事を棚に上げて返事をした。
――しょうがない、さっさと終わらせるか――
 ロビンは念じた。
『キャッチ』
 エナジーの力が材料の藁をもってくる。
「よしっと」
 ロビンはそれを穴に組み込む。
「もう一度」
 ロビンは詠唱する。
『キャッチ』
「よっと」
 別の穴に組み込む。
「これで終わりかな」
 ロビンは最後に念じた。
『キャッチ』
 エナジーが働く。
「これでよしっと!」
 ロビンは手の汚れをはたき落として、その場に再び寝転んだ。目の前には快晴の空が広がっている。
――あの日とはウソみたいな天気だなぁ――
 ロビンは昔の事件を思い出す。
――オレがもっと早くにみんなに、父さんに伝えていればあんな事にはならなかったんだろうか――
 ロビンの心に罪悪感がよぎる。
――いや、オレはまだマシな方か…、ジャスミンは家族全員を失ったんだから、ガルシアも…――
 快晴の空が滲み始めた。三年前の出来事を思い出すと、哀しみと一部の悔しさでいつも涙が溢れてしまう。
「いけない、いけない、もう過ぎたことじゃないか」
 しかし涙はとめどなく溢れ出る。ロビンは乱暴に目をこすった。その時
「キエエェェェェ!」
 突如どこか遠くから蛮族の如き叫び声が聞こえてきた。
 ロビンは驚きの余り屋根から落ちそうになった。
――またアイツか…。もう慣れたと思っても驚くよなぁ…――
 ロビンには声の主がよく分かっている。
「キエェェェェ!!」
 先程よりも高音の耳をつんざく声が響きわたる。
「ふふ、ジェラルドったらまたエナジーの練習ね」
 屋根の下から聞き覚えのある少女の声がした。
「あぁ、ジャスミン、来ていたのか」
 ロビンは屋根の下に顔を出して言う。
「あら、ロビン。ひょっとして泣いてたの?」
 確かにロビンの目は赤く腫れている。指摘されたロビンはまた目をこすり、言った。
「な、泣いてなんかいない!屋根の修理をしてて藁が目に入っただけさ!」
 ロビンは悟られないように声を荒げたが、これでは逆に悟られてしまうだろう。
「キエエェェェェ!」
?
 またしてもあの声である、全く空気の読めない奴だ、ロビンは思う。声の主には悪気はないのだろうが。
 ジャスミンは1つ短いため息をして苦笑し、言った。
「あんなに大声出さなくてもいいのにねぇ」
「全く、いい迷惑だぜ…」
 ロビンはムスッとしている。
「それじゃ私あの騒音公害呼んでくるわね」
 言うとジャスミンはきびすを返してジェラルドの家に向かおうとする。
「あ、それならオレも…」
「いいって、ロビンはやることがあるんでしょ?」
 確かに屋根の修理をしていたがそれはもう終わった。
「それならもう済んだよ」
「穴、こっち側にも空いてるわよ」
 ロビンはジャスミンが指差した所を見に行った。すると案の定大きな穴が空いていた。
「あっ…」
「ジェラルドとまた迎えに来るからそれまでにすませておくのよ」
 言ってジャスミンはさっさと走り出した。
――母さんみたいなこと言うなぁ…、一人暮らししてるとああなるのか?――
 ロビンはジャスミンを強い人間だと改めて感じるのであった。
    ※※※   
 ――もっと…、もっと集中するんだ。オレは出来る。オレにはこんな大岩どうってこと無い――
「キエエェェェ!」
 少年が草原でエナジーの練習をしていた。少年の目の前には縦にも横にもとてつもなく大きい岩がある。それに少年は手をかざしている。
 彼は3年前の出来事の後ずっと何かにとりつかれたようにエナジーの練習に励んでいる。
 ――オレはあの時の事を何も覚えていない。ただ、オレはあの時何も出来ずに倒れた。いや、誰かに倒されたんだ!これだけはうっすら覚えている。悔しい、とても悔しい。だからオレは強くなりたい。どこまでも!――
『ムーブ!!』
 体中に溜め込んだエナジーを一気に解き放った。
 とても大きなエナジーの光がジェラルドの目の前の大岩にぶつかる。
「くっ!」
 ――流石にきついか、いやまだだ、まだ――
「はああああ!」
 さらに気合を込めると大岩が動いた。
 地面と摩擦する音を立てて岩は前進する。だいたい5メートルくらい進んだ所でエナジーが消えた。
「や、やったぜ…」
 うう…とうめき声を上げてその場によろけた。そしてそのまま草の上に仰向けになった。肩で呼吸をしている。
 少年の名はジェラルド。大層汗を掻いているのにも関わらず真っ赤な逆立った髪は火山を彷彿させる。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 作家名:綾田宗