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ココアとホストとハンカチと。

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『えっ…どういうことですか?』



それから帰るまでの間、私はそ~まさんと他愛ない話を続けていた。
仕事の愚痴も、元彼への不満も、そ~まさんは受け止めてくれた。

お店を出る頃にはすごくすっきりした気分になっていて、
いくらなのかはわからないけど最悪足りなければまた払いに来ようと
財布を出すと、「お代は結構です」と言われてしまった。



「僕が無理矢理連れ込んでしまったようなものですから。
 それに、今日はお誕生日でしょう?
 お金のことなんて気にせず、幸せな気持ちのまま帰って下さい。
 くれぐれも、危ないキャッチには引っ掛からないように。」

『でも…』



そんなこと言われても、私の気が治まらない。
何とかして少しだけでも出そうとしても、やんわりと断られてしまう。



『お金ならあるから大丈夫です!
 ほら、結婚資金用として貯めてたの、無駄になっちゃいましたし。
 だから、やっぱりきちんと払わないと申し訳ないです。』



何度もの応酬を繰り返した後、
名案を思い付いたというようにそ~まさんがポンと手を打った。



「じゃあ、こうしましょう。
 先程、僕がお貸ししたハンカチを今度返しに来てください。
 1年後の今日。あなたの誕生日に。
 その時、今より幸せでいること。それをお代とします。」

『そんなっ…!』

「あなたが貯めたお金は、あなたが幸せになるために貯めたお金です。
 そのお金は、ホストクラブではなく、あなたを磨くために使ってください。
 そうして自分を磨いて、今よりもっと素敵になった姿を見せてください。
 それこそ、あなたを振った元彼さんが、後悔するくらいに。」



いたずらっぽくそ~まさんが微笑む。
私は渋々財布をカバンにしまって、深く頭を下げた。



『本当に、ありがとうございました。
 来年、きっと返しに来ます。』

「えぇ。お待ちしています。
 来年もまた、お祝いさせてくださいね。」



手にしたハンカチをぎゅっと胸元で握り締めて、
そ~まさんとウェイターさんに見送られながら店を出た。
きっと腫れてしまってはいるけれど、私の目にはもう涙は浮かんでいなかった。

悲しくないと言ったら嘘になるけれど、
思っていたよりもフラれたショックを引きずってはいない自分に驚いた。
それはきっと、あのあったかいお店のおかげだ。



『さーってと。また頑張りますかー!』



新しい自分に生まれ変わったような気持ちで、大きく腕を広げて背伸びをした。
遠くでネオンの灯りが1つ、また1つと消えていった。