栄誉と代価
001
アインクラッドではユニークスキルというものが存在する。
現在、ユニークスキルで確認されているのは、「瞑想」、「対術」の2つだけである。
どちらもクエストで取得できるため、比較的簡単に入手することができる。
しかし、それ以外のユニークスキルは現在のところ発見されていない。
もし、クエスト以外でも、ユニークスキルを手に入れることができれば、
それが一体どんな条件で取得できて、どんな強さを秘めているのか。
願わくば、自分だけのユニークスキルを手に入れたい。
そんなプレイヤーがアインクラッドには数多く居る。
とまぁ、そんなことを考えながら、狩りでもしようと、宿屋から出た時だった。
「号外~。号外~。号外だヨ」
ビラをばら撒くのは、おヒゲがチャームポイントの『鼠のアルゴ』の姿だ。
「お~い、アルゴ」
と呼びとめたが、そんなことは聞く耳もたずのようだ。
彼女は一瞬で俺の前を吹き抜けていった。
「一体、なんなんだ。今日は・・・」
俺は彼女が去った後に残った記事の1枚をすくい上げた。
「ん?!これって!」
俺は驚いた。だって、そこには見慣れた顔の男が記事に写っていたからだ。
そして、記事にはこう書かれていた。
「ついに未だ誰も見たことのないユニークスキルを持つ男現わる」と。
俺は慌てて、街の中央広場に向かったが、既にすごい人だかりが出来ていた。
「もう、こんなに人だかりが・・・」
ちょっと恥ずかしいが、仕方がない。今は一刻も早く会う必要がある。
「お~い、クライン!」
俺は大きな声で叫んだ。
「お~い、キリト~」
人だかりの中から、手を振るのが見えた。
趣味の悪いバンダナに逆立った赤髪に、
アルゴとは違う可愛くないヒゲを生やした男は、群集の中を掻き分けて俺に近づいてきた。
俺も、早く会いたい思いから、群集を掻き分け、クラインの元にやっとの思いでたどり着いた。
「まだ生きてたか。クライン」
「お前もな」
「しかし、すごい人の数だな」
「へへっ。すごいだろ」
とそこにクラインの横にもう一人やってきた。
それは・・・可愛いおヒゲを生やした方のやつだ。もう広場に戻ってきていたとは、なんて足の速さだ。
「ちょっと、ひどいじゃないヵ。今、競売の途中なんだかラ」
「もう、やってるのか・・。ちなみに今、何コルなんだ」
「今、20万コルだョ。キー坊」
アルゴはニッと笑って嬉しそうに答えた。
「20万コル?!」
俺は思わず、叫んでしまった・・・。
20万コルなんて、現在の最前線で一ヶ月狩っても、溜まる金額ではない。
それこそ、フリマでレアアイテムなどを売りまくらないと、溜まらない額だ。
「20万コル・・・」
小声でもう一度、俺は言った。確かに大金ではあるが、
だが、俺の現在の所持金は100万コルある。ここまで貯めるのは、死に物狂いだった。
露店という露店から、人気の品を買いまくり、相場を上げ、転売を行う。
この作業を永遠と繰り返し、貯めた額なのだから。いわゆる独占で儲けたわけだが、
独占を行うには、なんと言っても、資金源が重要とされる。
しかも、人気の品なら、なおさらだ。そんなことを考えてた時だ!
「30万コル!」
群集の中から、叫び声があがった。
クソッ!考えてる場合じゃない!
「50万コル!!」
叫ぶと同時に、俺はアイテムポーチから、50万コルが入った金袋を取り出した。
群集を威圧するためにわざわざ、出しただけのことはあった。
誰もが沈黙したのだ。だが、安心もつかの間だった。
「60万コルや!!」
その叫び声は、サボテン頭が特徴的なキバオウだった。
「ビーターなんかには負けへんで!!」
キバオウが憎らしい。第1層からそうだったが、この男とは出会う度に、
なにかしら揉め事があったような気がする。今回も、まさにそうだ。
死闘の末、俺は、キバオウに勝利した。だが、全財産の9割近くを失った・・・。
大変な痛手だ・・・。だが、痛手は大きいが、見返りもでかい。
「キリト。お前、やっぱすげぇなぁ」
クライン!そんなことはどうだっていいんだ!!
「早く教えてくれ!そのユニークスキルの取得条件を!」