春動く
「竹谷先輩!鶏はどうなりましたか!」
「殺されちゃうんですか?」
走りながら声を上げる一年生に、八左ヱ門が笑う。
「大丈夫だ。学園長先生が貰い手を探して下さることになった」
大きく手を広げた八左ヱ門の肩に「やった!」と二人が飛びついた。
「お前たちもお願いしてくれたんだろう。ありがとうな」
ぎゅうと二人を抱きしめて八左ヱ門が言った。
まるで父親のようだなぁと思い見ていると、三郎が肩を叩いてきた。
「兵助、他人事のように見ている場合ではないぞ」
「うん?」
「一年は組がじょろじょろと集まってきた」
三郎が手を広げて笑う。その視線を追えば、長屋の廊下を一年生が駆けてくる姿が見えた。
「五人で受け止めきれるか?」
雷蔵が困ったように言って、勘右衛門が「どうにかなる」と笑った。
「友達と後輩に恵まれたなぁ、八左ヱ門」
兵助はそう言って八左ヱ門の頭をくしゃくしゃと撫でてやった。八左ヱ門は虎若と三治郎を抱えたまま、兵助を振り返り「ああ」と目を細めて笑った。