君がため
「…ああ、そうだ。今日は中在家先輩に呼ばれていたんだった。図書室へ行かないと」
空の月に向かい、呟く。
「そうなのか?」
「うん、ごめん。三郎を頼む」
勢いよく立ち上がり手を振って、雷蔵は自分を見上げている八左ヱ門と、それをしっかりと腕の中にしまいこもうとしている三郎に背を向けた。
「…全く、三というのは複雑な数字だ」
思わず零れ落ちた声は八左ヱ門の耳に響いたようで、「なんのことだ」と訊かれたが、雷蔵はその声は聞こえなかったふりをして回廊を歩き出した。
いつか、自分が手を繋がせてやらなくても、あの二人は勝手に手を繋いで歩いていってしまうんだろう。
そう思うと少し複雑で、少し寂しかった。