短文寄せ集め
「金木犀」
小雨の中ふらりと出掛けていった近藤は着物の袖に金木犀の花を詰めて帰ってきた。近藤が歩くたび、甘い香りが漂う。どうしたんだ、と訊くと、神社で集めてきたのだと言う。近藤は土方の部屋に入りぱさりと袖を振った。紺色の紬の袖口からいくつもいくつも、金色の花が降ってくる。どうだ綺麗だろうと得意気に言うので、誰が掃除すると思ってるんだ、と文句を言った。近藤が少し悲しげな顔をしたので慌てた。だってトシ、と首を傾げる仕草が子供っぽい。自分の前でしか見せないような顔を見せられ、思わずうん、と優しく先を促してやる。雨が降ると金木犀の花はあっけなく散ってしまうから。だから散る前に集めてきたんだ。まだ咲いたばかりなのに誰にも見てもらえず散ってしまうなんて寂しいだろう?と、顔に似合わず優しげなことを言う。そう言っている間にも金木犀は近藤の袖からぽろぽろと零れ落ち裸足の爪先を擽っていく。どこか懐かしく少しだけ鬱陶しいようなその小さな花の香りに、綺麗だなと呟いた。途端に近藤が嬉しそうな顔をしてそうだろうと笑った。それから金木犀の香りを抱いた腕を伸ばして、土方を抱き締めた。
小雨の中ふらりと出掛けていった近藤は着物の袖に金木犀の花を詰めて帰ってきた。近藤が歩くたび、甘い香りが漂う。どうしたんだ、と訊くと、神社で集めてきたのだと言う。近藤は土方の部屋に入りぱさりと袖を振った。紺色の紬の袖口からいくつもいくつも、金色の花が降ってくる。どうだ綺麗だろうと得意気に言うので、誰が掃除すると思ってるんだ、と文句を言った。近藤が少し悲しげな顔をしたので慌てた。だってトシ、と首を傾げる仕草が子供っぽい。自分の前でしか見せないような顔を見せられ、思わずうん、と優しく先を促してやる。雨が降ると金木犀の花はあっけなく散ってしまうから。だから散る前に集めてきたんだ。まだ咲いたばかりなのに誰にも見てもらえず散ってしまうなんて寂しいだろう?と、顔に似合わず優しげなことを言う。そう言っている間にも金木犀は近藤の袖からぽろぽろと零れ落ち裸足の爪先を擽っていく。どこか懐かしく少しだけ鬱陶しいようなその小さな花の香りに、綺麗だなと呟いた。途端に近藤が嬉しそうな顔をしてそうだろうと笑った。それから金木犀の香りを抱いた腕を伸ばして、土方を抱き締めた。