Wizard//Magica Wish −7−
「久しぶり、恭介。おみあげ買ってきたよ」
「ハルトさん!…よっと…お久しぶりです!」
見滝原総合病院のとある病室、ハルトがその病室に入るとそこにはベッドでバンドを用いてリハビリをしていた上条恭介の姿があった。ハルトの姿を見るといなや、掛け布団を引き払い、かなり麻痺から回復した両手でベッドの端を掴みながら足を地面へと下ろす。手すりに捕まりながら軽く身体を震えさせ、その場に立ち、ハルトを歓迎した。
ちなみにこの病室は個人別、自分達しかいない。一人用の別室のため部屋がやけに広く感じた。
「わぁ…こんなにいっぱい、本当に良いんですか?」
「もちろん、恭介のために買ってきてあげたんだから」
「じゃあ一緒に食べましょ?実はさっき昼食を食べたばかりで、今はそんなに食べられる気はないんです。けどせっかくハルトさんが僕のために買ってきてくれたんだし…」
「そっか、じゃあ俺もちょっといただこうかな?なんなら全部食べてもらっても良かったんだけど」
「ははっ!流石に空腹の時でもこんな沢山のドーナッツ食べられませんよ!」
「えっ…あぁ、そうだね」
どうやら杏子ちゃんと一緒にいる時間が多かった為か、分量の加減がおかしくなってるらしい。そりゃ毎日あんな量を沢山食べる杏子ちゃんと一緒に生活してれば麻痺してくるか…。正直、冗談のつもりで言った訳じゃなかったが…ま、いいか。
俺は沢山の種類の中からプレーンシュガードーナッツを取り出してベッドを椅子替わりに座る。その横に恭介も座り、大量のチョコレートでコーティングされたドーナッツを食べ始めた。
「んっ、美味しいですね?どこのドーナッツですか?」
「ん~と…ほら、商店街の隅っこにある、ちょっとお姉系の男の人が店長のドーナッツ屋だよ」
「あ、あそこか…そういえば入ったことなかったなぁ」
久しぶりに何もなく、ただゆったりとした時間が過ぎていく。
こう言うのもあれだが、俺の周りにはキャラが濃すぎる人達が沢山いるので、恭介みたいに、男の友人と過ごせる時間がとても心地良かった。そういえば俺の周りって女の子、しかも年下の子達ばかりだ。第3者からいえば、まさにあの状態はハーレム…だが、実際は違う。あの中で優一まともだと言える存在が まどかちゃんぐらいだ。さやかちゃんに至っては今だにアンタ呼ばわりで敵対心丸出し。ほむらちゃんは、あの時まどかちゃんが契約したお陰で現在まで夜間に襲撃されることは無くなったが、隙あれば容赦しないって状態。杏子ちゃんは…もう説明はいらないだろう。
とにかく、毎日がてんやわんやなのだ。嫌では無いのだが。
「ハルトさん、何だか疲れてません?」
「あはは、…ちょっとね」
気分転換に病室を見渡す。病室といってもよく地方にある何もない病室を想像してはいけない。恭介の病室は意外に豪華なのだ。看護師曰く、この見滝原総合病院は患者が退屈しないように、ところどころ工夫されており、内装もかなり凝っている。一見、病院だとしらない人がここに入れば少々値が高いホテルだと勘違いしてもおかしくないぐらいだ。
「あ、これ…」
「それ、僕のCDプレーヤーです。聞きます?」
「何かあるのかな…お、これって銀爆のLife is showtimeじゃん。聞いて良い?」
「もちろんですよ!はい、これイヤホンです」
俺はイヤホンを両耳に装着し、再生ボタンを押す。すると最初にドラムが入りアップテンポの曲が流れ始めた。次第に曲に身体が乗ってきて歌詞を口ずさむ。そんな感じで俺は他に良さげなCDがないかラックを拝見させてもらった。ジャンルは様々だ。R&BからJ-pop、ヘビメタルからテクノポップ、さらにはアニソンから演歌…まさにオールジャンルだ。その中でも一番多かったのがクラシック。まさに恭介らしい。こんな大量のCDを恭介は一人で買っていたのだろうか?
「それ、僕の幼馴染が見舞いに来るたびに買ってきてくれるんですよ」
「へぇ~良い奴じゃん…『運命のDive 無茶しても~』」
「本当に良い人なんですよ!僕が頼まなくても欲しいCDを買って来てくれるし、絶対に興味がなさそうな曲でも喜んで一緒に聞いてくれるですよ!」
「大事にしろよ?そんな人、自分が生きる人生じゃ極数人しかできないんだから。『宝石にタ~ラタララララ~…』」
「ぷっ…ハルトさん、歌詞うろ覚えなんじゃないですか!」
「しょうがないじゃん、そんなに曲を聞く暇ないんだから…ふぃ~、次何を聞こうかな?」
「これなんてどうです?GlariSの新しいアルバムですよ」
「お、…よし、ルミナス。どれどれ~…」
CDを取り出し、また新たなCDをプレーヤーに入れ再生ボタン押す。先程とは打って変わり、最初にピアノから始まり壮大なオーケストラへと繋がっていく。歌声は透き通った綺麗なハーモニーが耳の中で響き渡り、疲れた心が少しずつ癒されていく。何気無い気持ちで曲目を見ていくと「コネクト」という曲に目が止まった。…あれ、どこかで見覚えがあるような、まぁ偶然だろうか。
「この曲、僕の幼馴染が大好きなんですよ。僕も毎回聞くたびにだんだん好きになって…ははっ!」
「確かに良い曲だね。恭介の幼馴染が好きになる気持ちわかるよ」
「あ、そういえばこの曲もよく聞くんだよなぁ、ハルトさん、是非聞いて見てくださいよ!」
「あぁ、………。」
それからお互い身近に起こったこと、面白かったことなど、何の他愛もない日常の話しがずっと続けられていった。
けど、その話の中で俺はどうしても気になる点が一つだけあったのだ。それは、先程から
恭介はやたらとその幼馴染の話を持ち込んでくる、ということだ。彼の表情を見る限りかなり仲良しらしい。こちらがちょっとでも幼馴染の話題に触れるとどこか楽しそうに心のそこから嬉しそうに熱弁してくる。これは…多分。あれだ。
「恭介」
「はい、なんですか?ハルトさん」
「もしかしてお前、その幼馴染のこと、好きなのか?」
ちょっと意地悪く突っ込んでみる。その前に幼馴染の性別が男女どちらなのか自分でも理解していなかった。ところが、恭介の反応は自分の想像以上のものだったのだ。
「な、ななっ!何を言っているんですか!!ただ僕は、昔からの長い付き合いっていうか…それに、その…ほら!幼馴染の事を好きになるってほとんどないじゃないですかっ!!もう、からかわないでくださいよっ、ハルトさん!!」
「あ、あぁ…悪かった」
まさに、ドンピシャだった。悪いが恭介。そんなに熱く否定されても全て顔に出ているぞ。真っ赤にしながら何度も両手を横に振るう。昔からある典型的なパターンだ。反応を見る限り、その幼馴染の性別は女性、完全に惚れているらしい。
「第一…僕は…その…」
「ん、なに?」
「えっと…僕には…もう…」
−上条くん!そろそろリハビリの時間よ?−
「あっ、…もうこんな時間か…」
「え?…嘘、4時過ぎてるじゃん」
丁度良いタイミングで看護師が病室に入ってきた。俺は腕のデジタル時計を覗くと、短針は既に4の数字を過ぎていた。気づかない間に空は夕暮れ、いつの間にか長時間居座っていたらしい。そろそろ帰らないと恭介にも悪いだろう。俺はジャケットを手に取り、帰る準備を始めた。
作品名:Wizard//Magica Wish −7− 作家名:a-o-w