二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

be my baby

INDEX|1ページ/7ページ|

次のページ
 

AM6:00



ゆさゆさと、肩を揺すられる感覚で目が覚めた。ゆっくりと覚醒していく意識の中で、誰だろうと考える。
 音也ではない。音也は大抵トキヤより遅く起きるし、もし早く目覚めてもトキヤのことを起こしたりはしない。一応、音也なりに気を使っているのだろう。それに肩を掴むこの手は、音也にしては弱々しかった。
 そんなことを考えながらまどろんでいる間に、肩を揺さぶる力がだんだん強くなってくる。
「…何ですか、一体…」
唸るように言って、目を開ける。自分の肩を掴んでいる手を見ると、随分小さい。
 子供…?
 ここに子供などいないはずだ。
 怪訝に思いながら体を起こし小さな手の主を見つけ、トキヤは言葉を失った。
 ベッドの上にぺたりと座り込んで自分を見上げていたのは、音也にそっくりな子供だった。
 色素が薄く、赤みがかった髪と瞳。柔らかな頬はまだ丸みをおびていて、仄かに赤く染まっている。着ている服も確かに昨日の夜、音也が着ていたものと一緒だった。
 じっと見つめていると、子供が口を開いた。
「トキヤ、お腹空いたよ」
子供らしい高い声は少し鼻にかかっていて、甘えているように響く。
「…音也?」
顔を覗きこんで訊けば、音也はにこりと笑って「うん」と頷いた。
 ああ、この顔。音也に違いない。毎日見ている笑顔と同じだった。
「ええと…ちょっと待って下さい。少し考えます」
目の前で起こっていることに、頭が混乱してくる。
 寝る前は確かに、いつもの音也だった。じゃれついてくるのをキスであしらって、眠らせた。音也は少し不満げにしていたが、特におかしなところなど無かったように思う。
 目を閉じて、昨夜のことを思い出すが、こうなってしまうような原因などもちろん思い浮かばなかったし、それに…これはどう考えても普通じゃない。
 人間が一晩にして小さな子供になってしまうなど、常識的に考えてそんなことが起こるはずがない。自分はもしかして夢を見ているんじゃないだろうか…。
 半信半疑で頬を抓ってみる。すると皮膚に鈍い痛みがあって溜息を吐いたところで、キッチンの方から何かが落ちたような姦しい音が聞こえてきた。
 慌てて目を開けてみれば、先程まで目の前にいた音也の姿が無い。ベッドを降りてキッチンに行くと音也がシンクによじ登っていた。床にはフライパンや、ボウルが落ちている。
「何やってるんですかっ」
包丁に伸びようとしていた音也の手を掴み、叱る。脇の下に手を差し入れて抱き上げると、小さな体は想像以上に軽かった。
「トキヤ、ご飯」
小さな手をトキヤの顔に伸ばし、音也が言う。鳥の雛のようにぱかりと開いた大きな口を見て、トキヤは溜息を吐いた。
 とりあえず、落ち着くことが先だ。
 音也の体を床に下ろし、冷蔵庫を開け朝食の材料を取り出す。狭いキッチンの中で音也が足に纏わりつくようにして付いて回るので、グラスにミルクを入れて持たせてやると、大事そうに両手で持ってキッチンを出て行った。ミルクを零さないようにしているのだろう。そろそろと足を踏み出す様子が背中から見て取れて、「転ばないようにしなさい」と思わず親のように注意してしまう。
 フライパンを火にかけ、ハムと卵を落とす。蓋をし表面を蒸している間に、トースターで食パンを二枚焼き、コーヒーを落として、生野菜を切ってサラダを作る。
 少し悩んだ結果、音也の嫌いなピーマンはスライサーで透けるほど薄くしてサラダに混ぜた。
 綺麗に焼けたハムエッグとサラダを皿に盛り付けテーブルに運ぶ。音也を見ると、ミルクで口の周りが白くなっていたので、タオルで拭ってやった。
「パンはバターで良いですね?」
「いちごジャムが良い!」
「いちごジャムですか…確か前に贈り物で頂いたものがありましたね」
シンクの上の棚から未開封のまま置いてあった可愛らしい瓶を見つけ出し見せてやると、音也が目を輝かせる。トースターの中から取り出した狐色のパンにジャムを塗り、残ったもう一枚にはバターを塗った。音也の待っているテーブルにコーヒーとパンを運んで、自分もいつもの通り音也の前の席へ座り音也を見ると、テーブルの上に顔しか出ていない。
「………」
子供用の背の高い椅子などもちろん無いので、底上げするものを探して、トキヤは結局自分と音也の枕を持ってくると、抱き上げた音也の尻の下に重ねて置いた。
「これで良いでしょう」
席に戻り、向かい合って「頂きます」と手を合わせる。音也も小さな手を合わせ「いただきます」と元気良く言った。
 食べている間は少し考え事が出来るだろう、と音也の顔を見ながらコーヒーを口に運ぶ。すっきりとした苦味が広がり、頭が落ち着いてくる。やっと目が覚めた感じがした。
 だが、冷静になれたのはそこまでだった。
 子供というのはとにかく食べ散らかす生き物だった。目玉焼きの目玉を破って黄身で皿の中身をぐちゃぐちゃにして遊んでいると思うと、ジャムのついたべとべとの手でテーブルや自分の服を触り、サラダに混ぜてやったピーマンをぺっと吐き出す始末。食べ物は皿から零れ落ち、テーブルどころか床も汚していく。
「音也、遊んでいないでちゃんと食べなさい。汚れた手でそこらじゅうを触らないで下さい。なんでピーマンを残すんですか。好き嫌いをすると大きくなれませんよ。…ああ、ほら、急いで食べるからむせるんです。良く噛んでゆっくり食べなさい」
一時も目を離せず注意をしていると、自分の食事どころではなくなってしまう。注意をしても音也が皿からものをぼろぼろと零すので、結局椅子を音也の隣に移動させて、食べるのを手伝ってやった。
 パンを小さく千切ってやり、ハムエッグとサラダも少しずつ口に運んでやる。ピーマンは叱りながら、どうにか三切れだけ食べさせた。
 ああ、これでは本当に雛に餌を運ぶ親鳥のようだ。
 音也の食事を終えた頃には、すっかり自分のコーヒーは冷め、パンは固くなっていた。食べる気など失せてしまい、皿に残したままシンクに運ぶ。
 テレビの前で大人しくしている音也の手や口を濡らしたタオルで拭いてやっていると、セットしていた目覚ましが鳴った。
 仕事のことを忘れていた。休日で、いつもより遅い時間だが番組の収録がある。用意をして行かなければならない。
 音也をどうしようか…。この様子では留守番をさせるには不安だ。一人置いていくわけには行かないし、かといって連れていくわけにもいかない。
 那月の顔を思い浮かべる。子供好きだし、面倒見も良さそうだ。だが、トラウマを植えつけられそうで不安だ。翔は面倒見は良さそうだが子供っぽいところがあるので、一緒に部屋を汚しそうだ。レンは…駄目だ。妙なことを教えられても困る。
 絨毯に出来たジャムの染みを拭いながら、トキヤは携帯に入っているアドレス帳をスクロールさせ、出てきた名前をクリックした。
「…もしもし…おはようございます。一ノ瀬です」

作品名:be my baby 作家名:aocrot