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My heart is running away

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…2…
トキヤのことを好きになってしまったと気付いてから、俺はすぐに翔に相談した。翔とは会った瞬間から意気投合した仲で、普段から何でも話している。翔は俺のトキヤへの気持ちを聞くと、暫く黙っていたが、勘違いだろうと言った。お前はトキヤにちょっと優しくされて勘違いしてるだけだ、と。
 そうなのかな…と思った。
 勘違いでも、こんなに胸がドキドキするものなのかな…。見つめられただけで息が出来なくなってしまうくらい?
 そう訊くと、翔は困ったようにがしがしと髪を掻き回して、一言、男だぞ、と言った。
 お前もトキヤも男なんだぞ。普通、男ってのは女を好きになるもんだろうが。なんで男なんだよ。
 そう言われて、わかんない、と答えると、翔は呆れてしまって大きな溜息を吐いた。
 わかんないよ。だって俺、トキヤが好きなんだ。
 そう言った途端、胸をコツンと拳で殴られた。翔は少し怖い顔をしていた。
 お前、俺以外にその話するなよ。那月にも、誰にも。内緒にしとけ。男が男を好きになるなんて普通じゃないんだからな。
 絶対だぞ、ときつく約束をさせられた。そのうちに那月が部屋に戻ってきて、話はそこで終わってしまった。翔と別れて自分の部屋に戻りながら、俺はトキヤのことを考えていた。
 普通じゃないから、トキヤを好きになっちゃいけない。
 翔の言った、普通じゃない、と言う言葉は俺の心に重く残った。子供の頃、それで苛められたことがあるからだ。
 親がいないのは普通じゃない。施設で暮らしているのは普通じゃない。
 じゃあ、何が普通なんだ。両親がちゃんといて、自分の家がちゃんとあって、女の子を好きになることが普通なのか。
 それなら俺はずっと、普通じゃなかったことになる。
 だから、トキヤを好きになったんだろうか。
 俺が普通じゃないから。
 誰もいない部屋に戻ってそんなことを考えていると、トキヤが帰ってきた。おかえりと声をかけると、只今戻りましたと言って、荷物を置き洗面所に入っていく。
 手を洗ってうがいをする音。洗面所から出てキッチンへ行ったトキヤがコーヒーを入れる良い匂いが漂ってくる。いつもならば自分の分だけを淹れてキッチンから出てくるトキヤが、珍しく俺の名前を呼んだ。
 音也、あなたも飲みますか。少し多めに作ってしまいました。
 そう言ってキッチンから顔を出したトキヤに、ブラックコーヒー飲めないからいいよと返事をする。トキヤはにこりともせず、そうですか、と短く言って顔を引っ込めた。
 トキヤも俺を普通じゃないと思ってるのかな…。
 そう考えると怖くなって、椅子の上でぎゅっと膝を抱えた。
 あの頃みたいに、小さな子供じゃないのに。それにトキヤは俺を苛めたりなんかしない。そう分かっていたけれど、トキヤにそう思われるのが嫌で溜まらなかった。
 落ち着け落ち着け。普通にすれば大丈夫…。
 心臓が大きく跳ねるのを必死になって抑える。そうして目を閉じてじっとしていると、音也、とまた名前を呼ばれた。顔を上げ、トキヤの方を見る。トキヤはカップをふたつ持っていて、それをテーブルへ置きながら、こちらに来なさいと俺を呼んだ。
 のろのろと立ち上がり近付いていけば、カップのひとつは柔らかな色をしたカフェオレだった。
 ミルクと砂糖を入れたので、これならあなたも飲めるでしょう。
 そう言ったトキヤに、俺は何か返事をしようとして口を開いて、でも上手く声を出すことが出来なかった。喉が引っ付いてしまったようにみっともない嗚咽が唇から漏れる。目が熱くなって、涙が零れた。次から次に溢れてくる涙を耐えることが出来ず俯く。唇を噛んで耐えていた声は、トキヤが俺の頭をそっと押さえたことで、零れ落ちた。
 ただ悲しくて怖くて、それ以上に自分でもよく分からない激しい感情に振り回されて、声を上げて泣いた俺を、トキヤは馬鹿になんかしなかった。小さく息を吐いて、俺を椅子に座らせると、濡れたタオルを持ってきて俺の顔に押し付けた。
 何か話したいことがあるなら聞きますが、と言われて俺は首を振った。トキヤはそうですかと言ってそれ以上は俺の涙のわけを訊こうとはせず、冷めてしまう前に飲みましょうと言ってカップを差し出してきた。
 トキヤが淹れてくれたカフェオレは甘くて、温かった。
 カフェオレを飲み終わった後、どうして俺が落ち込んでるって分かったのかと訊くと、トキヤは少しだけ困ったような顔をした。じっと見つめた俺に、トキヤは答えを出さないまま、そんなことはどうでもいいでしょうと言って、自分のカップを手にキッチンへ入っていってしまった。
 それから時々、トキヤは俺にカフェオレを作ってくれるようになった。それは決まって俺が落ち込んでいる時で、そんな時トキヤはいつも、多く作りすぎてしまったので、と素っ気無く言った。
 そんなわけはないのに…なんだか特別扱いされているようで、俺はすごく嬉しかった。


(2012年01月23日~)
作品名:My heart is running away 作家名:aocrot