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パラレルワールドストーリー

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「立夏」

開校三周年を迎えたばかりの早乙女学園。四月になり三期生となる新入生を迎え入れ、どうにか生徒数が百五十名に届こうかという新設校だ。神宮寺、聖川という二大財閥の援助を受けた校舎は最新の設備を取り入れている。もちろん全ての教室にエアコンやスクリーンが完備され、情報処理ルームには最新のパソコンが並ぶ。図書館はさながら貴族の館のようで、蔵書の種類や数では他の高校に劣らない。制服も有名デザイナーのもので女生徒にも人気が高く、年々入試の倍率が上がっている。そんな早乙女学園の生徒には個性豊かな人間が多く、校長自ら願書を確認し試験の結果に関わらず気に入った生徒を入学させているというまことしやかな噂が流れるほどだった。
 馬鹿馬鹿しい…。
 自分が入学した頃はそう思っていたが…。
 トキヤはふと溜息を吐いて、目の前のソファで転寝しているレンを見た。一期生で、神宮寺財閥の跡取りでもあるこの男はこの学園の生徒会長だ。生徒会長と言っても特別なことをするわけではない。回覧される書類は全て副会長であるトキヤに任せっきりで、大抵はこのソファで寝ているか、中庭で女生徒との語らいを楽しんでいる。
 生徒会長のくせに制服をだらしなく着崩しているが、それがまたセクシーなのだと女生徒には絶大な人気を誇っている。その一方、男子生徒からの支持は低い。
「トキヤくん、少し休憩にしましょうか」
レンを睨んでいると、隣にいた書記の那月が声を掛けてきた。レンと同じ一期生で、こちらは人当たりが良く、真面目な性格だ。ひとつ欠点があるとすれば…。
「僕、クッキーを焼いてきたんです」
そう言って那月が鞄の中から可愛らしい包みを取り出した。那月がピンク色のリボンを解き包みを開くと、そこには何やら黒い物体が入っていた。漂ってくる刺激臭に、トキヤはひきつった笑いを浮かべ「いえ、甘いものは好みませんので…申し訳ありませんが、お気持ちだけで結構です」と断る。
「そうですか…」
那月ががっかりしたようにクッキーらしきものを見つめたその時、生徒会室の扉が開き会計の真斗が入ってきた。
「あ、真斗くん!こんにちは」
新たなターゲットを見つけ、那月が目を輝かす。真斗が異臭に気付き、トキヤをちらりと見てきた。那月にばれないよう小さく頷いて、危険を知らせる。
 真斗は神宮寺と並ぶ財閥である聖川家の跡取りで、会長のレンとは幼馴染の仲だ。とはいえ、特別レンと仲が良いわけではない。幼い頃は一緒に遊んだりしていたらしいが、年齢を重ねるにつれお互いの立場もあって、距離を置くようになったのだと聞いた。トキヤと同じ二期生で、次期生徒会長とも噂されている。性格はいたって真面目で、トキヤの唯一の理解者でもあった。
「クッキーを食べませんか?」
那月がにこりと笑って差し出したクッキーに、真斗は「いや、すまない。腹が減っていないのだ」と生真面目な声で応えた。那月がまた、がっかりした顔をするので、トキヤは「レンが起きたら食べたがるでしょう」と励ました。
 真斗が自分の席に鞄を置いて、生徒会室に備え付けられているキッチンに入っていく。生徒会室は無駄に豪華な作りで、キッチンには冷蔵庫やポットはもちろん、オーブンレンジ、IHクッキングヒーターなどが揃っている。トキヤは真斗を追いかけてキッチンに入ると、キッチンボードからコーヒー豆を取り出した。
「タイミングが悪かったですね」
隣で緑茶を入れている真斗に話しかける。
「四ノ宮には悪いが、あれは人間の食べるものではないな」
「レンは毎回喜んで食べていますが」
レンの名前を出すと、真斗は呆れたように溜息を吐く。
 コーヒーを落としている間に、那月のカップを出しミルクを入れてレンジにかけた。
 真斗は先にキッチンを出ていき、那月と何かを話している。
 コポコポと柔らかな音を立て落ちていくコーヒーを見ていると、不意に生徒会室が騒がしくなった。すぐにその原因に思い当たって、トキヤはそっと額を押さえ溜息を吐いた。
 騒音の原因は、この春入学したばかりの一年生二人だ。一人は那月の幼馴染である翔、もう一人は生徒会とは全く関係は無いが、翔と意気投合していつの間にか生徒会室に入り浸るようになった音也。
 五月になるとレンは二人を生徒会に招き入れた。それまでは無かった庶務という役職を作って。
 色々と問題はあれど、トキヤにとって静かで居心地の良かった生徒会室は、この二人の出現によって秩序を乱しつつあった。
 それでも翔はまだ良い。年齢の割りには物分りがよく、空気を読む才能に長けている。
 問題は…。
「あ、ここにいたんだ、トキヤ。何作ってんの?またコーヒー?俺、コーヒーやだ。甘いのが良いなぁ」
キッチンの入り口にひょこりと顔を出した途端、大きな声でそうしゃべりだした音也に、トキヤはまた長い溜息を吐いた。トキヤとしてはその溜息で気持ちを汲んで欲しいのだが、音也にそれは通じない。
「また溜息吐いてる。ねぇ、トキヤ、知ってる?溜息吐くと幸せが逃げてくんだよ」
気の毒そうな表情をした音也にそう言われ、トキヤは溜息を飲み込んで「余計なお世話です」と低く唸った。
「それと、私の名前を呼び捨てにしないで下さい。仮にも私はあなたより一学年上なのですから、」
「えー、だってレンが呼び捨てで良いって言ってたもん。生徒会は家族みたいなものなんでしょ?だから敬語も使わなくて良いってそう言ってたよ」
そう言われてしまえば、返す言葉も無く、キッチンの入り口から見えるレンの頭を睨みつける。音也はそんなトキヤを気にした様子もなくキッチンに入ってくると、チンと音を立てて止まったレンジの中を覗き込んだ。
「あ、もしかして那月のココア?俺もココアが良いな」
「な…自分で入れれば良いでしょう。私はあなたの召使じゃないんですよ」
「翔は何飲むー?トキヤがココア入れてくれるって」
「ちょっと待ちなさい、音也っ…」
トキヤの制止の声も聞かず、音也はキッチンを出て行ってしまう。その背中に伸ばしかけた手をぐっと握って、トキヤはシンクへ腰を預けるようにして寄りかかった。
 ああ、頭痛がする…。あんな子供に振り回されて、最悪だ。いつか音也には思い知らさねばならない。秩序を好む自分と、無秩序とも言える音也は、全く種類の違う人間なのだと。
 そう思いながら、その日もまた秩序を取り戻すための最善策が見つからないまま過ぎていくのだった。