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一緒に食べよう

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仕事を終え、部屋に戻るとすぐ、シャツの胸ポケットに入れていた携帯が震えた。ブ、ブ、ブと短く震えるのは音也からの着信音だ。少し目を離した隙に音也が勝手に設定したそれを、何度か初期設定へ戻したこともあったが、その度に音也に設定し直され、今では諦めている。
『今から帰るから時間合うなら一緒にご飯食べよ』
文末に笑顔の猫と、ハンバーガーの絵文字がぴかぴかと点滅している。返信画面を開いていると、今度はブブブブブと手の中で携帯が震え、電話の着信を告げた。音也の写真を映した携帯電話を耳に当てる。
「…はい」
『トキヤ?メール見た?』
「ええ」
『返事が来ないから電話しちゃったよ』
メールの着信から一分も経っていないと言おうとして、止める。言ったところで音也には何の意味も無いからだ。
「残念ながら私はもう戻ってきてしまいましたので、外食するのなら他の方を誘って食べてきて下さい」
『そうなの?』
音也があからさまにがっかりした声を出し、黙る。いつもならばここで、じゃあいいやと会話が終わるはずだったが、いつまでも音也が黙っているので、溜息を吐いた。
「…すぐに帰ってくるなら、夕食を作っておきますが」
『ホント?』
「ええ。ついでですから」
『やった!じゃあ急いで帰る。じゃあね』
音也はそう言うと、トキヤの返事を待たず電話を切ってしまった。ツーツーと聞こえてくる電子音にもう一度溜息を吐いて通話を終わらせると、トキヤは携帯を胸ポケットに戻した。
 ダイニングの椅子にかかっていたエプロンを腰に巻き紐を結ぶ。
 そういえば…学生時代から長く使っているので紐の先が解れ裏地が出てしまっているのを、普段は細かいことを気にしない音也がいやに気にしていたのを思い出した。新しいのを買えば良いのに、と言って紐を弄っている音也を、まだ使えますと諭して、どこか不満げに尖った唇に口付けたのは三日前の出来事だった。あの日も朝、音也にねだられて朝食を作ってやった。
 最近少し、甘やかし過ぎている自覚はあった。それを音也も分かっているのだろう。甘えるのが上手になった。
 手を洗いながら、全く困ったものだと思う。あれほど自分の生活に他人を踏み込ませるのが嫌だったはずなのに、音也はいつの間にか傍にいた。突き放し、距離を置いてみたこともあったが、その度に音也は怒ったり、泣いたりして、トキヤの手を握った。大好きだから誰よりも傍にいたいんだよと笑われた時、音也の手を離すのを諦めた。鬱陶しいと思っていた、音也の子供のように高い体温にも、もう慣れた。自分ではない誰かの存在に慣らされていくというのは不思議な感覚だった。
 買い物袋の中から手羽先と長ネギを取り出す。うどんを作る予定だったが、音也はそれだけでは足りないだろう。冷凍庫に凍らせてあった肉を解凍し、調味料に漬け置いておく。肉に味が馴染むまでの間に、手羽を煮て取った出汁に味付けをして長ネギを適当な大きさに切って入れた。別の鍋に湯を沸かしうどんを用意していると、玄関からバタバタと慌しい音がした。
「ただいまー!」
無駄に大きな声がして、すぐにキッチンに音也が顔を出した。
「トキヤ、ただいま」
「何度も言わなくても聞こえています。…手を洗ってきなさい」
「うん」
「うがいも忘れずに」
「うん、分かった」
そう言って洗面所へ走っていく音也を「静かに」と叱る。「分かってる」と大声で返事が戻ってきた。
 溜息を吐き、沸騰した湯の中にうどんをほぐしながら投入し茹でる間に、火にかけたプライパンで肉を焼いた。肉のつけ合わせにキャベツを刻み、ミニトマトのヘタを取る。
 暫くして音也がまた顔を出したので、焼きあがった肉を渡しテーブルに運ぶように言った。
 茹で上がったうどんを深皿に盛り、作っておいた出汁を掛け、手羽と葱を乗せる。トキヤが手羽先の位置に拘っている間に、音也が冷蔵庫からウーロン茶を取り出していった。
「トキヤもウーロン茶で良い?」
「ええ。お願いします」
出来上がったうどんを運んでいくと、音也がテーブルに箸を並べていた。
 向かい合って席につき、「頂きます」と声を合わせる。
「美味しそう」
「これは全部食べて良いですよ」
肉の皿を音也の前に押し出してやった。音也は「やった」と歓声を上げて早速肉を口へ運び、まるでハムスターのように頬を膨らませ「美味しい」と言って笑った。
 こうして向き合って食事を取る時は大抵、音也が一人で話している。その日一日にあった出来事や、お気に入りの音楽の話、翔とやったゲームやスポーツの話。その間、トキヤは適当に相槌を打ちながら食事を進める。音也は食べるのが早いので話していてもトキヤと同じくらいに食事が終わる。
「ねぇトキヤ、こうやって二人きりで夕飯食べるの久しぶりだね」
最後に残した手羽先に齧り付きながら、音也が言った。
「そうですか」
「そうだよ。だってさ、仕事の時間合わないし、会う時は嶺ちゃんがいたりしてさ。最近全然一緒にいれないじゃん。実は今日さ、朝から狙ってたんだよね。嶺ちゃん地方ロケでいないし、トキヤも撮影夕方までだっただろ。だからさ、ご飯一緒に食べれるかなって思ってたんだ」
そんなことを言うので、ふと寿嶺二の顔を思い浮かべた。
 マスターコースに進み同室で暮らすようになった寿嶺二に、音也は良く懐いている。傍から見ていて、少々妬ましく思えるほどに。
 嶺ちゃんが担当で良かった。俺、嶺ちゃんが大好きだよ。
 そう言って笑う姿をもう何度も見てきた。だから、音也がそんなふうに思っているとは気付かなかった。
 手羽の骨を口の中から取り出して皿に置くと、「ご馳走様でした」と音也は手を合わせた。食べ終わった皿を下げ、洗い物を始めた音也の隣に立ってキッチンを片付ける。
「…音也、さっきの話を寿さんの前でしないように。また大袈裟に傷付きますよ」
ふと思いついてそう注意をした。音也は不思議そうな顔をしてトキヤを見たが、言葉の意味に気付いて笑った。
「別に嶺ちゃんが邪魔だって言ってるわけじゃないよ。ただ、たまにはこうやってトキヤと二人でいたいってだけ。俺、嶺ちゃん大好きだもん」
音也の唇から転がり出た言葉に、「そうですか」と応えた声は、不機嫌に聞こえただろうか。音也が少し首を傾げて
悪戯っぽく目を細めた。
「トキヤは?」
「何がですか」
「俺と一緒にいたいって思ってくれてた?」
そう言って擦り寄ってくる音也の肩の温もりを腕に感じ、じっと顔を見つめれば、音也はトキヤに寄りかかるようにして首を伸ばし、キスをしてきた。泡だらけの手がシャツを掴むのを見て溜息を吐きながら音也の体を抱き寄せる。
 そういえば、こうしてゆっくりとキスを交わすのも久しぶりな気がした。
 角度を変えて何度も唇を重ね合わせ、音也の柔らかな舌を吸う。
「…片付け、後でも良いよね?」
キスに潤んだ目で、そうねだられて。
「仕方ないですね」
トキヤは少し笑った。
 音也の手を洗わせ、キスを交わしながら服を脱がせて、ラグの上に寝転んだ。
「明日、何の日か知ってる?」
トキヤの体の下に四肢を投げ出しながら、音也が言った。
 少し驚いた。誰の誕生日でも音也は何かしら企みをしていて、誕生日当日までは知らん顔で黙っているのに。
作品名:一緒に食べよう 作家名:aocrot