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金木犀のティアラ

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トキヤとの待ち合わせはきっかり一時間後。通話を切った携帯電話の画面で時間を確認して、音也は窓ガラスに近寄った。
 那月と翔は買い物に行くと言っていた。真斗は先生に呼ばれてどこかに行ってしまった。
 レンは…。
 見下ろした渡り廊下に女生徒に囲まれて歩くレンの姿を見つけ肩を竦める。
 あの華やかな輪の中に入っていくのは、さすがに気が引ける。
 トキヤは音也が図書館へ来るのを嫌がって終わったら迎えに来ると言ったけれど、一時間もどうやって時間を潰そうか。
 そう思いながら窓を開けた。途端に吹き込んでくる冷たい秋の風に思わず目を閉じると、ふわりと甘ったるい香りが鼻腔を擽った。この匂いなら良く知っている。
 金木犀だ。
 育った施設の庭にも大きな木があって、毎年秋になれば橙色の可愛らしい花をたくさん咲かせていた。きっとこの学園内にも咲いているのだろうと庭を見渡すが、それらしい木が見当たらない。
 そうだ。トキヤとの約束の時間まで金木犀を探しに行こう。
 そう決めて窓を閉め、音也は廊下を階段へと足早に歩いた。
 校舎を出ると、空は気持ち良く晴れていて乾いた風が吹いていた。
「どこに行くんだいイッキ」
レンに声を掛けられ「秋を探しに行くんだ」と応えた。レンは不思議そうな顔をしたが「頑張って」と手を振って見せた。
 昼寝も出来る芝生の広場を抜けて、小さな梅園に入る。学園内は広くて、他に桜の咲く丘や、牡丹園や菖蒲園などもあった。
 葉が落ちた梅の木の間を抜け、小さなイングリッシュガーデンに咲き残ったバラの花を見ながら、時折風に乗って届く香りに鼻をひくつかせ、方向を変える。
 まるで犬みたいだな、と思いながら、背を伸ばしたローズマリーの植え込みをひょいと飛び越えると噴水があった。
「へぇ、こんなところに噴水あったんだ」
思わず声に出してしまってから、誰もいない空間にいやに大きく響いた自分の声に笑った。
 噴水の中央には水瓶を抱えた女神がいたが、水瓶から水は出ていない。それを少し残念に思いながら落ち葉の浮いた水面を覗くと、そこへ写り込んだ自分の顔と、その向こうに広がる青空が見えた。
 風に吹かれゆらゆらと流れてくる、橙色の小さな花。不意に濃くなった、甘く、そして懐かしい香りに、音也は顔を上げ背後を振り向いた。そこにはたくさんの花を咲かせた金木犀の大木があった。
 見つけた…。
 ゆっくりと金木犀に近付き、どっしりとした幹に両手を着く。どこからか降りてきた蟻が音也の指に当たり、迷惑そうに避けていった。目を閉じて、花の香りを胸一杯に吸い込む。一度では足りず、二度、三度と深呼吸を繰り返した。
 施設の金木犀も今頃花を咲かせているだろうか。
 みんな元気かな…。しばらく会っていない。今度の休みに会いに行こうか。チビたちにお菓子を持って。先生には何をお土産に持っていこう…?
 仲間の笑顔を思い浮かべると、自然と笑みが溢れた。
 音也は金木犀の幹から手を離し、大きく枝を広げる木を見上げた。
「また来るからね」
音也がそう言うと、タイミング良く吹いた風が枝を揺らした。ザワリと葉が擦れ、木が返事をしたように聞こえた。
 音也は笑って、その場を離れトキヤのいる図書館へ向かった。約束の時間まであと二十三分。図書館までは十分かからないが、トキヤはきっと十分前には図書館を出てくる。
 早く会いたい。
 そう思うとどうしても歩く足が早くなり、その内に駆け出していた。
 図書館の前は芝生の広場になっていて、昼寝にちょうど良い日溜まりが出来ている。音也はサクサクと落ち葉を踏んで進むと、図書館の階段の横へと座り込み、欠伸を噛み殺しながらトキヤを待った。
 予想通り、トキヤは十分前に図書館を出てきた。音也に気付かず階段を降りて、芝生の上で一度立ち止まり空を仰ぐ。そんな何気ない仕草でもトキヤがすると様になった。
 綺麗な横顔をいつまでも見ていたいような気もしたが、振り向いてくれないのは寂しいので名前を呼んだ。
「トキヤ」
トキヤが驚いたように振り向いて、音也を見つけると少しだけ怒ったような顔をした。
 来なくて良いから待っていろと言われたのに、約束を守らなかったからだ。
 そう分かって、音也は笑ってしまいながらトキヤの元に駆け出した。
 少しでも早く、トキヤの傍に行きたくて。
 トキヤは音也のそんな顔を見ると仕方がないように、唇を綻ばせ静かに微笑んだ。

(121228)
作品名:金木犀のティアラ 作家名:aocrot