こらぼでほすと 再来2
こたつに並べられるおやつを目にして、悟空はぽりぽりと頭を掻いた。こちらとしては、いつもの味のほうがおいしいのだが、それをそのまんま言ってもいいのか迷うところだ。だが、ミニティエは容赦がなかった。
「ちあう、、いつものとちあう。にぎゃいっっ。」
「え? あー大人向きのキャラメルソースだからなあ。」
「うーん、これ、おいしいんだけど、なんか違うなあ。」
もちろん、アレルヤも容赦はない。やっぱ、そういう意見なんだよなあーと、悟空も声を出した。
「あのさ、ママ。俺も、いつもののほうが美味いと思う。ママの味は、やっぱあっちだ。これじゃない。」
「うーむ、そうか、小洒落たもんより、いつものほうがいいのか。じゃあ、明日は、いつものにするよ。」
「おい。」
話が一段落付いたら、坊主が、晩酌を要求する。はいはい、と、女房は、その準備に立ち上がる。明日のスウィーツは、いつも通りになるらしい。ハイネも、「なんか腹に溜まるもん食わせて。」 と、叫んで、こたつに転がる。
「リゾットでいいか? ハイネ。」
「おう、それでいい。あと、スープ。」
「わかめ? オニオン? 味噌汁? ラーメン? 」
「わかめでいい。」
「ママ、俺、ラーメンッッ。野菜焼き豚てんこ盛りでっっ。」
「おう、了解。アレハレルヤ、おまえらもラーメン食っとくか? 」
「うん、食べたい。それなら手伝うよ。」
「おりぃもっっ。」
「わかってるよ、ティエリア。危ないから、足元には来るな。」
「やにゃっっ。」
「あーもう。じゃあ、食卓の椅子に座れ。」
今日は衣装合わせなので、ニールも店に出勤する。夕食は、店で食べられるのだが、今頃は、ちょうど小腹が減る。だから、ちょいちょいと簡単なものを用意する。亭主の晩酌セットは、先に用意してあるから、それを出して、ハイネのリゾットは冷凍していたのをチンして、野菜を冷蔵庫から物色する。スープは市販のレトルトだから、お湯を入れれば完成するから、先に、それを出しておく。本日は、アッシーの仕事があるからハイネは晩酌には参加しない。
「アレルヤ、キャベツを適当にザク切りしてくれ。それともやしとニンジンをざっくり炒める。」
「了解。」
「悟空、シャワー浴びてこいよ? その間に用意できるから。」
「ああ、じゃあ。」
短期バイトはガテン系なので、この寒い季節でも汗だくだから、店に出る前にシャワーだけでも浴びせておかなければならない。
「にーりゅ、しぇかいいしゃんはたのしかったじょ。」
「おう、大聖堂なんかは大きいだろ? 」
「おおきかったにゃ。いちばんうえまでのぼったにゃ。・・・・でも、つかれた。じゅうりょくが憎いにゃ。」
「そう言われてもなあ。そればっかりは地上に居る限りは、どうにもなんないだろ? 」
何百年もかけて完成された大聖堂を見学したら、一日で廻れる代物ではなかった。大きいこともさることながら、装飾が至る所にあって、それを眺めるだけでも時間がかかった、と、アレルヤも笑っている。
「なんていうかさ、カエルとかカタツムリとかが柱の装飾になってて・・・なんかユニークで、おかしくってね。ちゃんとガイドブックを確認してなかったから見落としたのもあって、結局、三日くらいかかっちゃった。そこだけだよ? ニール。そこだけで三日もかかるんだ。もう、信じられない。」
アレルヤも、そのことを語り出す。手は動いているが、報告するのに忙しい。何カ国が廻るつもりだったのだが、結局、三カ国しか廻れなかった。それに、マリーやセルゲイとも顔を合わせる予定もあって、そちらへ顔を出したら、それでタイムリミットになったらしい。
「あちらさんの具合は? 」
「うん、随分、回復してたよ。まだ、車椅子で移動してるけど、今年中にはリハビリまで終わるみたい。マリーも、ニールに逢いたいって言ってたから、そのうち、こっちに連れて来る。」
「うん、特区は独特だから喜ぶんじゃないか。」
「かみしゃまへのいにょりのばしょなにょに、あくまもいたじょ? にーりゅ。」
「ああ? なんだって? 」
「だいせいどうのそうしょくにぃ、あくまもすわっていたにゃ。」
「そうなのか? 俺も実物は外からしか見たことないからなあ。」
「装飾にはストーリー性があって、いろいろと意味があるんだって。だから、天使もいれば悪魔もいるってことみたい。」
ざくざくと野菜が刻まれると、フライパンでさっと炒める。次に鍋でお湯を沸かしてインスタントラーメンを仕上げれば完成する。途中で、チンされたリゾットがハイネのところへ配達されているが、とりあえず会話は継続されているから、ぎゃあぎゃあと騒がしい。坊主は、けっ舌打ちしているが、女房が嬉しそうなので怒鳴りはしない。
「やっぱ、本物の子猫たちは、良く効くなあ、三蔵さん。」
ハイネも、カップスープを口にしつつ苦笑している。リジェネは本物に限りなく近いが、それでも、マイスター組のように元気づけることはできない。マイスター組だと、顔を見ているだけで具合が良くなるのか、ニールも顔色が良い笑顔だ。
夕刻より、『吉祥富貴』も騒がしかった。なんせ、衣装合わせやら言葉遣いやら、いろいろと打ち合わせすることが多かったからだ。予約がないので、爾燕が適当に食事を用意して、それを手の空いたものから食べるという状態だ。衣装合わせが終わったものから、食事に手をつけている。
「俺、そっちのほうがいいなあ。」
「まあまあ、鷹さん、我々じじいーずは、今回は裏方だから。」
ボーイ姿にされちゃってる鷹は、虎に宥められているが、その横で、「俺は代わってほしいですよ。」 と、ダコスタが項垂れていたりする。
大きなお屋敷の使用人という設定なので、執事以外は、メイドと使用人ということになっていているのだが、じじいーずは裏方を押し付けられて、それからすら除外されて、バックヤード担当のボーイ姿なのだ。
「僕と悟空で出迎えの口上を言って、それから、アレルヤの台詞。それから、ママだからね。間違えないでね。そこからは、アレハレの入れ替えは自由でいいから。」
「俺、台詞面倒だから、キラが全部言えよ? 」
「俺ら、キラさんの背後で笑顔でいいよな? 」
「それより、ママ、ティエリアは俺がだっこしましょうか? 」
「いや、レイ、これぐらいはなんともないから。・・・なあ、台詞噛んでも笑うなよ。おまえら、フォロー頼むぜ。」
「ママ、台詞はやりなおさないで、適当にしてもいいよ。どうせ、僕らのことなんて、お客様はアウトオブ眼中なんだから。」
「そう言われると楽だなあ。」
「ニール、ここの出番が終わったら、事務のほうお願いします。」
「なあ、八戒、施術もここでやるのか? カウチ運ぶか? 」
「いえ、ソファでやりますから大丈夫です。施術の間は、みなさん、ホールから引き上げてくださって構いません。ハイネ、それは笑いのためのネタなんですか? あんまりじゃないですか? 」
「うるせぇーよ。あんたは亭主に見蕩れてろ。」
作品名:こらぼでほすと 再来2 作家名:篠義