こらぼでほすと 再来3
翌日、前日と同じようにリハーサルして、準備万端となる。毎年のことだから、スタッフも慣れたものだ。ニールは、あまり動き回らないように、坊主とトダカが見張っている。全員が、衣装をつけてスタンバイ状態となると、やはり、ダコスタとハイネに視線が向けられる。
「なあ、ダコスタ。」
「何も聞きたくないですよ? ニール。これだけは誤解しないでください。俺が選んだわけじゃありません。ハイネが、二人で、と。」
ダコスタは衣装を着けた時から、複雑な顔をしている。そらそうだろう、と、ニールも頷く。ダコスタは、どっちかといえば、堅実な性格で、こういうお茶ら気は出来ないタイプだ。強引に打ち合わせで指名されてしまったらしい。
「うん、それはわかってるよ。俺も、正月はやられるからさ。」
「いや、ニールのは似合ってますよ。俺、お化けなんて初めてで。」
お化けとは、業界用語で賑やかし担当ホストを意味している。いつもは、キラや悟空たち年少組が請け負っているのだが、今回は、コンセプトの加減で、そちらが担当できなかったから、こういうことになった。
「なぁーに、燻ってんだよ、ダコスタ。こういうのは勢いだぜ? 最初に、お客様にウケりゃあいいだけだ。存分にハッチャけろ。」
そこへ、ダコスタと同様の格好のハイネもやってきた。ニールでも、うっわぁーと思うほどの破壊力はある。トダカは酒瓶が並ぶ棚のほうに向いて、くくくくくくっと肩を震わせている。
「ほら、見ろ。じじいーず筆頭のトダカさんを笑わせられるぐらいのインパクトだ。これはおいしい。」
「いやいや、俺は、こういうのは苦手です。次からは勘弁願います。」
「そうだよ、ハイネ。こういうのは、ダコスタには向かないぞ。」
「じゃあ、次回はママニャンと俺でコンビでやろうぜ。」
「はあ? 」
そう、次に、こういうミッションとなるのは、秋の特別貸切だけだ。その時に、と、ハイネは言ったわけだが、坊主が、「おまえ、それを、うちのにやらせたら、あいつに殺されるぞ? 」 と、ツッコミはした。
「確かに、あのお客様は、ママのこういう姿は望まないな。」
虎も、傍にやって来て、うんうんと頷く。秋のお客様は、ニールが普通の接待するだけで十分満足という方だ。逆に、ニールで笑いをとったら、「企画したヤツ、ちょっと表に出ろや。」 と、握り拳を作りつつ爽やかな笑顔でおっしゃるであろうと予想は出来る。
「ハイネ、やるなら、ライルだ。それなら、バッチリだぞ。」
「あ、そうか。そういや、そうだったな、鷹さん。忘れてたよ、イロモノ担当マイスターを。」
「え、いやいやいやいや、ハイネ? それは・・・」
「大丈夫、大丈夫、ママニャン。あいつは、こういうのを楽しめるタイプだ。クラウスに、そういうことやってるからな。」
「はあ? 」
昨年の特別ミッションの時に、クラウスへの連絡に、自分の痛い映像をつけていたから、ロックオンは逆にノリノリでやるだろうと、ハイネが言うと、ニールの笑顔が引き攣る。何やってんの? うちの実弟・・・と、こめかみに手をやっている。
「ママニール、そろそろ配置についてください。」
そんなところへ、アスランが声をかけてきた。そろそろ、お客様の来店の時間だ。アスランが、「スタンバイ。」 と、一声上げると、みな、配置に着く。
はい、と、アレルヤがだっこしていたミニティエを配達に来た。ミニティエも正装だ。
「可愛いなあ、ティエリア。」
「にーりゅはカッコいいにゃ。」
「そうか? あはははは・・・ありがとさん。」
「うん、まあ。中身さえ気付かれなければ、ニールはイケメンだもんね。」
庶民派貧乏性なおかんという中身さえ知らなければ、ニールは上背もあるしスタイルもいい。黙っていれば、ホストとしても売れるだろうという容姿ではある。中身さえ知らなければ、だ。
「中身は、ただのおっさんだからなあ。」
「うーん、それも違うと思うよ。中身は、ただのおかんが正解。」
「・・・・そうかなあ。アレルヤも、そうやってるとイケメンだな。」
「ありがとう。」
欧州貴族世界の衣装を身に纏っているアレルヤも、かなり美しい仕上がりだ。筋肉があるから、服に負けないのだろう。ニコリと首を傾げると、男らしさの中に可憐さなんか見え隠れするから、お客様には喜んでもらえそうだ。最終確認に全員が、自分の台詞をカンペで確認していると、さて、と、沙・猪家夫夫が動き出す。では、第一陣、行ってきまーす、と、優雅に扉の外へ出陣した。
出迎えは、熟年いちゃこら夫夫だ。どちらも、黒のモーニングで、襟はベルベット、手には白い手袋なんて、いかにも屋敷の執事という格好だ。珍しく、悟浄が髪をオールバックに固めている。
「じゃあ、いちゃこらと出迎えますか。」
「ええ、エスコートしてください、悟浄。」
外へエスコートされて、八戒が出る。時間は、きっちり予定時刻だ。内ポケットから懐中時計を出して、確認する。その隙に亭主は腰に手を回していたりするが、女房のほうもされるがままだ。いちゃこらした出迎えというオーダーなんだから、これぐらいはやらないといけない。
「そろそろですね。」
「これ、買取りしておまえごと持ち帰るってーのは、どうだ? 」
襟を持ち上げて、亭主が、バカなことを言うので、女房のほうは、メガネの弦を持ち上げて呆れた、という顔をする。
「脱がせたいなら、スーツを着て差し上げますよ。」
「いや、こういうフォーマルっていうのがな。着ることないだろ? 」
「脱がせる楽しみの為に買取りするっていうのも酔狂で、悟浄らしいといえばらしいかもしれませんけどね。僕は中身だけで十分満足です。」
「ほおう、熱烈な告白には、今夜、熱烈な返事をさせてもらうぜ、八戒。・・・来たぞ。」
冗談なんだか本気なんだか、よくわからない攻防戦を切り上げて、店の前で停車するクルマの後部ドアを、恭しく悟浄が開く。そして、八戒は、そこから伸びる手に優雅に手を添える。
「いらっしゃいませ、橘様。」
「お久しぶり、八戒。」
ゆっくりとクルマを降りたお客様をエスコートして、店の扉を開く。エントランスには、白いモーニングのキラと悟空がお出迎えしている。
「ようこそ、『吉祥富貴』へ、橘様。本日は、橘様のお屋敷という趣向ですので、ゆっくりと寛いでください。ここからは、あなたのお屋敷です。なんなりと、僕たちに申し付けてください。」
キラが口上を述べて、恭しくお辞儀して、それから悟空と共に両側に控えると、奥のホールにはホストたちが勢ぞろいして、その真ん中に執事服姿のアレルヤが立っていて、「おかえりなさいませ、橘様。」 と、揃えた声で挨拶される。八戒によってエスコートされて、ホールまで到着すると、今度は、白のスーツ姿の親子猫が歩いて来た。
「おかえりなさい、橘様。待たせていただいておりました。本日は、ティエリアをパーティーに招待していただき感謝の言葉もございません。・・・・・ティエリア、ご挨拶して。」
腕に抱っこされているティエリアは、親猫と同じダブル仕立てのスーツだが、足元は半ズボンで、綺麗な膝が揃えられている。この膝がつるつるのぴかぴかで、お客様は、そこを凝視だ。
「なあ、ダコスタ。」
「何も聞きたくないですよ? ニール。これだけは誤解しないでください。俺が選んだわけじゃありません。ハイネが、二人で、と。」
ダコスタは衣装を着けた時から、複雑な顔をしている。そらそうだろう、と、ニールも頷く。ダコスタは、どっちかといえば、堅実な性格で、こういうお茶ら気は出来ないタイプだ。強引に打ち合わせで指名されてしまったらしい。
「うん、それはわかってるよ。俺も、正月はやられるからさ。」
「いや、ニールのは似合ってますよ。俺、お化けなんて初めてで。」
お化けとは、業界用語で賑やかし担当ホストを意味している。いつもは、キラや悟空たち年少組が請け負っているのだが、今回は、コンセプトの加減で、そちらが担当できなかったから、こういうことになった。
「なぁーに、燻ってんだよ、ダコスタ。こういうのは勢いだぜ? 最初に、お客様にウケりゃあいいだけだ。存分にハッチャけろ。」
そこへ、ダコスタと同様の格好のハイネもやってきた。ニールでも、うっわぁーと思うほどの破壊力はある。トダカは酒瓶が並ぶ棚のほうに向いて、くくくくくくっと肩を震わせている。
「ほら、見ろ。じじいーず筆頭のトダカさんを笑わせられるぐらいのインパクトだ。これはおいしい。」
「いやいや、俺は、こういうのは苦手です。次からは勘弁願います。」
「そうだよ、ハイネ。こういうのは、ダコスタには向かないぞ。」
「じゃあ、次回はママニャンと俺でコンビでやろうぜ。」
「はあ? 」
そう、次に、こういうミッションとなるのは、秋の特別貸切だけだ。その時に、と、ハイネは言ったわけだが、坊主が、「おまえ、それを、うちのにやらせたら、あいつに殺されるぞ? 」 と、ツッコミはした。
「確かに、あのお客様は、ママのこういう姿は望まないな。」
虎も、傍にやって来て、うんうんと頷く。秋のお客様は、ニールが普通の接待するだけで十分満足という方だ。逆に、ニールで笑いをとったら、「企画したヤツ、ちょっと表に出ろや。」 と、握り拳を作りつつ爽やかな笑顔でおっしゃるであろうと予想は出来る。
「ハイネ、やるなら、ライルだ。それなら、バッチリだぞ。」
「あ、そうか。そういや、そうだったな、鷹さん。忘れてたよ、イロモノ担当マイスターを。」
「え、いやいやいやいや、ハイネ? それは・・・」
「大丈夫、大丈夫、ママニャン。あいつは、こういうのを楽しめるタイプだ。クラウスに、そういうことやってるからな。」
「はあ? 」
昨年の特別ミッションの時に、クラウスへの連絡に、自分の痛い映像をつけていたから、ロックオンは逆にノリノリでやるだろうと、ハイネが言うと、ニールの笑顔が引き攣る。何やってんの? うちの実弟・・・と、こめかみに手をやっている。
「ママニール、そろそろ配置についてください。」
そんなところへ、アスランが声をかけてきた。そろそろ、お客様の来店の時間だ。アスランが、「スタンバイ。」 と、一声上げると、みな、配置に着く。
はい、と、アレルヤがだっこしていたミニティエを配達に来た。ミニティエも正装だ。
「可愛いなあ、ティエリア。」
「にーりゅはカッコいいにゃ。」
「そうか? あはははは・・・ありがとさん。」
「うん、まあ。中身さえ気付かれなければ、ニールはイケメンだもんね。」
庶民派貧乏性なおかんという中身さえ知らなければ、ニールは上背もあるしスタイルもいい。黙っていれば、ホストとしても売れるだろうという容姿ではある。中身さえ知らなければ、だ。
「中身は、ただのおっさんだからなあ。」
「うーん、それも違うと思うよ。中身は、ただのおかんが正解。」
「・・・・そうかなあ。アレルヤも、そうやってるとイケメンだな。」
「ありがとう。」
欧州貴族世界の衣装を身に纏っているアレルヤも、かなり美しい仕上がりだ。筋肉があるから、服に負けないのだろう。ニコリと首を傾げると、男らしさの中に可憐さなんか見え隠れするから、お客様には喜んでもらえそうだ。最終確認に全員が、自分の台詞をカンペで確認していると、さて、と、沙・猪家夫夫が動き出す。では、第一陣、行ってきまーす、と、優雅に扉の外へ出陣した。
出迎えは、熟年いちゃこら夫夫だ。どちらも、黒のモーニングで、襟はベルベット、手には白い手袋なんて、いかにも屋敷の執事という格好だ。珍しく、悟浄が髪をオールバックに固めている。
「じゃあ、いちゃこらと出迎えますか。」
「ええ、エスコートしてください、悟浄。」
外へエスコートされて、八戒が出る。時間は、きっちり予定時刻だ。内ポケットから懐中時計を出して、確認する。その隙に亭主は腰に手を回していたりするが、女房のほうもされるがままだ。いちゃこらした出迎えというオーダーなんだから、これぐらいはやらないといけない。
「そろそろですね。」
「これ、買取りしておまえごと持ち帰るってーのは、どうだ? 」
襟を持ち上げて、亭主が、バカなことを言うので、女房のほうは、メガネの弦を持ち上げて呆れた、という顔をする。
「脱がせたいなら、スーツを着て差し上げますよ。」
「いや、こういうフォーマルっていうのがな。着ることないだろ? 」
「脱がせる楽しみの為に買取りするっていうのも酔狂で、悟浄らしいといえばらしいかもしれませんけどね。僕は中身だけで十分満足です。」
「ほおう、熱烈な告白には、今夜、熱烈な返事をさせてもらうぜ、八戒。・・・来たぞ。」
冗談なんだか本気なんだか、よくわからない攻防戦を切り上げて、店の前で停車するクルマの後部ドアを、恭しく悟浄が開く。そして、八戒は、そこから伸びる手に優雅に手を添える。
「いらっしゃいませ、橘様。」
「お久しぶり、八戒。」
ゆっくりとクルマを降りたお客様をエスコートして、店の扉を開く。エントランスには、白いモーニングのキラと悟空がお出迎えしている。
「ようこそ、『吉祥富貴』へ、橘様。本日は、橘様のお屋敷という趣向ですので、ゆっくりと寛いでください。ここからは、あなたのお屋敷です。なんなりと、僕たちに申し付けてください。」
キラが口上を述べて、恭しくお辞儀して、それから悟空と共に両側に控えると、奥のホールにはホストたちが勢ぞろいして、その真ん中に執事服姿のアレルヤが立っていて、「おかえりなさいませ、橘様。」 と、揃えた声で挨拶される。八戒によってエスコートされて、ホールまで到着すると、今度は、白のスーツ姿の親子猫が歩いて来た。
「おかえりなさい、橘様。待たせていただいておりました。本日は、ティエリアをパーティーに招待していただき感謝の言葉もございません。・・・・・ティエリア、ご挨拶して。」
腕に抱っこされているティエリアは、親猫と同じダブル仕立てのスーツだが、足元は半ズボンで、綺麗な膝が揃えられている。この膝がつるつるのぴかぴかで、お客様は、そこを凝視だ。
作品名:こらぼでほすと 再来3 作家名:篠義