こらぼでほすと 再来3
「おたんじょうびおめれとうごじゃいましゅ、たちばなしゃま。」
ぺこんとお辞儀したティエリアに、お客様は、わなわなと肩を震わせている。横からアレルヤがお辞儀して案内を申し出る。
「おかえりなさいませ、お嬢様。席へ案内いたします。」
ゆっくりと優雅にオールバックにしたアレルヤが手を差し出す。まだ、お客様は一言も発しない。あんまり設定が凄すぎて、言葉にならないらしい。ホールの中央にあるソファへ誘導されて、そこへ座ると、すかさず、ティエリアが花束を差し出す。うっすらと紫がかったバラの花束だ。ミニティェが持ちやすいように小さな花束になっている。
「あにゃたのためにえらんだにょら。」
そして、お祝いのシャンパンが運ばれてくるにあたって、とうとう、お客様が吹き出した。メイド役は、四人。シンとレイはいいとしよう。紺色のシックなワンピースに白いフリフリエプロンで頭にはヘッドレスが似合っている。凄いのは、ダコスタとハイネだ。ちゃんと、頭に飾りまで載せて、シンたちのものよりペチコートたっぷりのメイド服で、シャンパンを運んでいる。
「なんじゃぁーーーそらぁーーーっっ。やるなら、キラとか悟空じゃないのっっ?」
「俺だって、そこそこ似合うだろ? 橘様。ダコスタにも新しい世界を体験させてやってんだから褒めてやってくれないとさ。」
「やめてやれやーかわいそーだろっっ。」
「ありがとうございます、橘様。俺も、そう思ってました。」
泣き真似をしつつダコスタも同意する。どう考えても、自分には似合わないと思っていたのだ。そう肯定してもらって、ダコスタは嬉しい気分だ。
「これは、橘様の相方様からのリクエスストだったんですよ。笑いとツッコミどころは用意してくれ、とのことでした。」
冷静に、八戒は場を捌いて、シャンパンの入ったフルートグラスを笑っているお客様の前に差し出す。
「そんな笑いはいらないってーのっっ。てか、この設定すごいわねぇー。確かに、執事でお出迎えとはリクエストしたけどさ、ここまでやってくれるとは思わなかったわ。」
「お客様のリクエストには全力で対応させていただくのが、うちの店の基本でございますよ。」
全員が、ほぼ黒か白のタキシードで執事役だけがモーニングという拘りようは、さすがだ、と、お客様も満足げに頷く。
「おい、ばばあ、後が閊えてんだよ。乾杯しようぜ。ちんたらやってんじゃねぇーよっっ。」
側で控えているはずの執事が、いきなりハレルヤにチェンジして暴言だ。だが、お客様は、きゃあーーーハレルヤ、もっと叱ってぇぇぇーーーと大喜びする。
「だから乾杯させろやっっ、ババア。」
「はいはい、今年は誰が音頭とってくれるのかな? ハレルヤ。」
お客様もグラスを手にして、ニコニコと尋ねる。すると、ちょこまかと大きなグラスを手にしたティエリアが、対面のソファに立ち上がる。支えているのは、ニールだ。
「たちぃばなしゃま、おたんじょうびおめれとうごじゃいましゅ。あにゃたのことしいちねぇんも、みにょりおおきとしとなりましゅようにおいわいもうしあげましゅ。かんぴゃいっっ。」
ほぼ棒読みだが、乾杯の言葉に全員が声を揃えて、一部クラッカーなんかも打ち上げられる。ごくりと冷えたシャンパンを飲んで拍手が大きく広がる。
「おめでとうございます。」
「今年もよろしくぅー橘様。」
「さらに深みのある美女になれよ? 」
などというホストたちのお祝いの言葉に、にっこりお客様は微笑まれる。お祝いのセレモニーが終わると、八戒が本日の予定を説明する。まずは、気功波で施術して、それから軽い食事とデザートでお祝いということになっている。
「八戒、頼みがあるんだけど。」
「はい、なんなりと。」
「写真撮らせてくんないかな。八戒と悟浄のツーショットと、アレルヤとミニティェの。」
「それなら喜んで。」
「それと、ミニティェにお膝であーんさせたい。」
「はい、それも。」
「それから、アレルヤの膝にミニティェであーん。」
「お安いご用です。」
「キラとアスランも。」
「はいはい。」
「ああ、忘れてた。おかんのプリンはある? 」
「もちろんです。他にもいくつか用意してもらいました。それから、お食事は食用花をふんだんに盛り合わせた季節の会席風にしてございますが、他にリクエストがあれば、そちらも用意いたします。」
「坊主にウーロン茶係させつつ、ヤツにはアルコールというのはオッケー? 」
「あはははは、ああ、そんなことは簡単です。口説かれ役の御指名は?」
「やっぱり、ここは・・・・クククククク・・・・鷹さんかな。」
お客様は思いつく限りのリクエストを並べて、「あーん、パラダイスゥゥゥ~」 と、大変感激なさって、その夜一晩を過ごされた。基本、春のお客様は、アレハレルヤ、ティエリア、アスラン、八戒、レイが指名だから、そこいらが取り囲んで接待すれば大喜びなので、他のスタッフは、適当に顔を出す程度ということになる。
最初のオープニングだけ、全員が揃っているが、そこからは適当に事務室に下がったり、カウンターで待機になる。ニールは、挨拶だけすると事務室に鷹と一緒に下がった。
「後は、ここいらで適当に俺と遊んでな、ママニャン。」
「爾燕さんのほうは手伝わなくていいんですか? 」
「ああ、あっちには紅が行ってるから大丈夫だ。俺たちじじいーずは、カウンターの背景をやらんといかんから、適当に交代する。休憩の相手をしてくれ。」
それ以外は呼ばれたら顔を出すという程度だから、気楽なものだ。まずは、施術だから、他のものも戻って来た。
「とりあえず、小一時間は施術するから、各人、適当に休憩しててくれ。」
フロアマネージャーと経理部長が、引き続き、ホールに出張ったままだから、虎がスケジュールを口にし、事務室のソファに、どっかりと腰を下ろした。
「音楽は、ヒーリングな自然音にしといたぜ。エンドレスだから、次の食事まで、そのまんま。」
メイド姿のシンが、音楽担当なので、そこいらを説明する。で、突っ立ったままで会話していたニールの腕を掴むと、ソファに座らせた。
「座っとけ、ねーさん。食事の時に顔だけ出さないといけないからさ。」
「おまえ、上着脱いどけ、ママニャン。皺になる。」
はいはい、お着替え、と、同じくメイド姿のハイネがニールの上着を脱がせる。お茶でも用意しようか? と、ニールが立ち上がると、虎に腕を掴れて引き戻された。
「そういうのはメイドの仕事だ。」
「いや、これぐらいは・・・・」
「座ってろって、ねーさん。今日はプリン作ってたから昼寝してないだろ? あんま動くとダウンすんだかんなっっ。」
ニールお手製のスイーツを、と、いうリクエストだったので、家庭的なお菓子をいくつか用意した。それも、年少組も相伴できるように、かなりたくさん用意していたので、昼寝する暇がなかったのだ。すっかり年少組も用意されたものの量で、かかる時間も把握しているから、昼寝してないかしているかも判断がつくようになっている。
作品名:こらぼでほすと 再来3 作家名:篠義