こらぼでほすと 再来3
そこへ、裏口からイザークが顔を出した。依頼を受けたケーキを運んで来たらしい。ケーキ本体は、厨房の冷蔵庫に放り込んできたので、カジュアルなスーツ姿だ。現在、イザークとディアッカは、歌姫様の護衛を勤めているから、本日の特別ミッションには招聘されなかった。
「虎さん、ケーキは冷蔵庫だ。小振りなものを五種類、用意してある。お客様に選んでもらってくれ。」
「ご苦労、イザーク。オーナーのほうはいいのか? 」
「ああ、しばらくは、特区周辺だけだから、俺が抜けるぐらいは問題はない。・・・・ニール、おまえの作ったプリンをひとつ味見させてくれ。」
「お安い御用だ、イザーク。」
イザークが頼むと、ひょいひょいとニールが厨房へ走る。それを見送ると、イザークは、「ニールのイベントについての打ち合わせを、オーナーがご所望だ。アレハレの誕生日が終わったら、店に顔を出すそうだ。」 と、さらりとおっしゃった。
「それ、キラに伝えておけば良いか? イザーク。」
「いや、キラにはメールが届いているはずだ。おまえらも、何か考えておいて欲しいんだろう。伝えたぞ。」
ニールの席を外させたのは、この用件があったかららしい。ふう、と、息を吐くと事務椅子に座り込む。そして、ダコスタを発見して、ぶぶっと、イザークも吹き出した。
「おお、イザークにもウケたぞ。喜べ、ダコスタ。」
「複雑です。」
「・・・ダコスタ、世の中には理不尽な要求には拒否権というものが存在する。どうせ、ハイネが言い出したんだろう。無理しなくていいぞ? 」
ダコスタの格好で、それらに気付くイザークも、流石と言えば流石だ。ダコスタの性格からして、自発的とは思わない。
「俺も拒否したんですが、キラが、それもいい、と。」
「あいつは・・・俺から注意しておく。確かにインパクトはあるがな。」
そんな話をしていたら、ニールと紅がスタッフ用の軽食も運んで来た。市販のお菓子やらサンドイッチ、菓子パンなんかもある。おお、と、すぐにシンが手を出す。
「はい、イザークの口には合わないんじゃないか? 」
紅茶と一緒に、プリンも出された。まだ、器から外していないので、とんでもないものに入っている。
「おい、ニール。」
「プリンの型が足りなくてさ。うちの茶器を使ったんだよ。」
寺の客用湯のみに入ったプリンには、上からキャラメルソースも入っているが、セレブなイザークには驚愕の器だったらしい。お客様用のは、ちゃんとプリンの型で作っているが、スタッフ用のは適当なことになっている。この辺りが、庶民派貧乏性たる由縁だ。文句を言っても、どうにもならないので、イザークは器を取上げて、スプーンで一口、運ぶ。不思議と、キラの母親のカリダの味に近いものだ。
「なるほど、母親が作ると、懐かしい味になるものなんだな。」
「イザーク? 作ったのは、俺なんだが? 」
「おまえは、うちのおかんだろ? 間違っていない。・・・・ふむ、これなら、俺にも食える。なかなか、おいしい。」
もしゃもしゃと食べて、紅茶で口を洗うと、イザークは、「うまかった。」 と、感想を述べて、さっさと裏口から帰ってしまった。
作品名:こらぼでほすと 再来3 作家名:篠義