ただの高校生なので。
静寂を破ったのは、いつも率先して俺たちをからかっている男だ。
実はアイツはゆりっぺのことが好きで、毎日毎日からかっているのも実に青春真っ盛りな男子らしい理由だということも知っている。
そいつにも、他の奴らにも聞こえるように、はっきりと告げる。
「俺ら、付き合うことになったんで。こいつに手ぇだすなよ〜?」
直後、教室内は騒然となる。
「きゃぁぁぁ!」
「はぁ!?嘘だろ!?」
「付き合ってねぇって言ってたじゃねぇかよぉぉ」
「日向のアホー!」
主に野郎どもからの非難が多い。こんなの予想していたことだ。
「ちょっとゆり!どういうこと!?聞いてないわよ!!??」
ゆりっぺの親友であるひとみちゃんが駆け寄ってきてゆりっぺに詰め寄ったことで、ようやく硬直していた思考と身体が動き出したようだ。
「あ、ああああああたしだって聞いてないわよ!!??こ、こここここ、んな…」
真っ赤になって狼狽するゆりっぺも想定内。
男友達に祝福と恨みとを込められつつた羽交い絞めにされつつも、ゆりっぺの方を気にしていると、思いっきり睨まれた。
まぁそうだろうな。
からかわれていただけでも照れていたゆりっぺに、突然の公開宣言だ。きっと後で死ぬほど怖い目に合わされるだろうと覚悟はしている。
だけど、皆の前で言わなきゃ意味がなかったんだ。
俺だってやきもち焼いてんだよ。
羽交い絞めから逃れ、ゆりっぺの前に立つ。
「ま、そんなわけで、改めてよろしくな、彼女のゆりっぺさん?」
右手を差し出し、ゆりっぺの返事を待つ。
「ほら、ゆり!早く返事しないと!!」
ひとみちゃんに背中を押され、俺に向き直ったゆりっぺは、顔をそむけたまま、ゆっくりと手を差し出した。
「よ…よろしくっ…」
差し出されたその手をしっかりと握り締めると、またもや教室中から歓声が上がった。
控えめに向けられたゆりっぺの視線に、俺は精一杯の笑顔で返した。
こうして、お互い好きとも言わずに、俺たちの新しい関係は始まった。
作品名:ただの高校生なので。 作家名:涼風 あおい