(差分)クロッカスとチューリップ
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入学から一度目のグループ分けは席順だった。
でも、一ヶ月もしたら「好きなもの同士組め」と言われるようになって、好きなヤツも組みたいヤツもいなかったからあてもなく周囲を見回した。そこでたまたま目があった気の弱そうな男子は慌てて視線を逸らして他のヤツの陰に隠れた。
(誰もお前に声かけたりしねーよ)
誰彼かまわず殴ったりしないし同い年の連中にガキって言われるほどガキでもない。でも、教室の壁で囲われた中にいるみんな、何故か俺のことをそういう風に噂しあって関わらないようにしてた。
あっと言う間に孤立した。
「おい、誰か八田と組んでやれ。偶数いるんだからもう一人余ってる奴がいるだろ」
教師にそんなことを言われて、得意の体育でもサボればよかったと思った時、隣に立っていた教師が少し焦った顔をした。
集団の中からダルそうにメガネの男子が歩み出る。見るからに根暗でガリ勉メガネのひょろっとしたヤツ。俺が周りからバカにされてペアにあぶれるのは納得行かないけど、この根暗は納得だった。小学校でも友達がいなかったに違いない。
「伏見も相方が見つからなかったなら、悪いが八田と組んでやってくれるか」
なんだその言い方。俺と組むのがとてつもない貧乏くじみたいじゃないか。体育のペアでドッジボールは顔面でキャッチしそうな根暗ガリ勉と組む方が罰ゲームだろ。
根暗が嫌がろうとも俺が嫌がろうとも他に残っているヤツはいないのだから拒否るするすべがなかった。
そこで誤算だったのは、根暗メガネが運動音痴のガリ勉じゃなかったってこと。
「うわっ」
わざわざ敵の頭の脇をかすめるように投げられたバスケットボールをゴール付近でキャッチして軽く踏み切って腕をバネのように伸ばす。ゴールネットをストンとくぐり抜けたボールを悔しそうに敵が拾うのを見て鼻を鳴らした。
性格の悪さが滲み出るようなパスを寄越した伏見猿比古は俺の得点シーンにも敵の悔しがる様子にも興味なさそうに黒縁メガネを押し上げた。俺がシュートを決めたのが当たり前のように、猿比古の放ったボールがビシッと狙った場所に届くのも当たり前だった。根暗メガネは運動神経が良かった。
走りで俺が負けたことはないが、猿比古を完全に置いてきぼりにできたこともない。器用さがモノを言う球技では互角だったし、体の柔らかさは猿比古の方がちょっとだけ上だった。そんな猿比古と張り合っているうちに、体力測定の記録はぐんぐん伸びた。
教室でも俺たちはお互い一人で、くじ引き制の席替えで隣になった女子が何もしてないのに俺を嫌がって半泣きだったおかげで気づいたら猿比古の隣に替わっていた。俺の隣に座りたくないって言わなかったのがコイツだけだったから。
それから俺たちはふたりぼっちだった。
作品名:(差分)クロッカスとチューリップ 作家名:3丁目