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(差分)クロッカスとチューリップ

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「おや、伏見くん。何をしてるんですか」
「……いえ」

 うっかり立ち止まっていたことに気づいて急いで上司の三歩後ろまで追いかけようとしたのに、青の王・宗像がわざわざ引き返してきたのでそうもいかなくなった。仕事中なのだから副長のように無駄な行動を排除して欲しい。副長は小うるさいが、対処に困る言動をしない分宗像よりもやりやすい。

「ほう……この寒い中、花ですか」

 通りかかった花壇に控えめな黄色い花が咲いている。丈の低い花だから、他の花に囲まれたらすぐに埋もれてしまうだろう。

「……クロッカスです」
「伏見くんが花に詳しいとは意外ですね」
「詳しい訳じゃありません」

 顔を背けて舌打ちをしても宗像は気に留める様子もない。これだから王というヤツは。

「黄色いクロッカスの花言葉は、青春の喜び。信頼。それから…………裏切らないで。」
「――――」
「そういえば、以前タンマツでこの花の写真を見てましたね」
「…ッ、何で知ってンすか!」
「たまたまですよ。ぼんやりしてる君の後ろを通りかかったもので」
「…………やめてください。プライバシーの侵害です」

 これは失礼。と悪びれもせず笑った宗像はあっさりと花壇を離れた。
 今年の冬は長引くと天気予報でいっていた。
 黄色い花の上に白い雪がわたのように軽く舞い降りる。寒い土の上で、ほんの二週間ほどでこの花が終わるのを俺は知っていた。