こらぼでほすと 再来7
その一部始終を眺めていたアスランが、慌てて止めに入る。だが、ちょっと遅かった。けけけけけと笑っていたミニティエの足首を掴まえて、不機嫌そうにキラが起き上がった。
「子猫の分際で、僕を起こすなんて・・・・万死だよ? ティエリア。」
そのまま、ミニティエの足首を持ってキラは立ち上がる。つまり、ティエリアは、逆さづりの状態になっている。ずんずんと廊下を出て行くので、アスランとアレルヤが慌てて止める。
「キラ、キラ、ちょっと待って。」
「アスランまで、僕に逆らうの?」
「いや、どうするつもりなんだ? 」
種割れバーサーカーモードだと気付いたので、迂闊なことは言えない。それとなく、次の行動に付いて尋ねてみた。
「うん、風呂にでも、このまま落下させてあげようと思うんだ、きっと、ティエリアも寝惚けてるんだろうからね。覚醒させるなら、それぐらいは必要でしょ? 」
ふふふふ・・・・お寝坊さんだね? と、笑っている顔が怖い。ティエリアも言葉を失っている。それは、まずいと、アレルヤが、ティエリアを力ずくで奪って、回廊を一目散に逃げ出した。あれ? と、手からブツがなくなって、キラは苦笑する。
「しょうがないなあ。アスランで我慢したげる。僕、シャワー浴びてすっきりしたい。」
「それは、家に帰ってからだな。とりあえず、帰って、俺で我慢してくれる? 」
「うん、したげるよ。だけど、急いでね。」
「はいはい。」
荷物だけ片付けると、三蔵に声だけかけて、キラをだっこして、アスランは慌てて帰って行った。坊主も、天然電波の破壊力は熟知しているから、一件落着とばかりに新聞に目を通す。ただ、「おい。」 と、言っても、お茶が出てこないのが面倒だとは思っている。
日曜からニールが熱を出しているから、アレルヤたちとティエリアも夕刻に店に出て来た。留守番は、実は役に立たないが、ニールが安心して寝ていられる坊主がやっている。他の者がいると、その世話をしようと起き上がるからだ。月曜日は、割と予約がないことが多い。本日も、そんなわけで、予約なしで、ホストたちも店で、のんびりとしているのだが、歌姫様が、唐突にいらっしゃって、「これから、明日の打ち合わせをいたします。」 と、宣言した。
「明日って、うちのねーさんのはぴばやるってやつだろ? オーナー。それなら、もう段取りはできてるじゃん。」
その宣言に、シンがツッコむ。すでに、明日の予約客は、十一時までで終わるようにアスランが調整しているし、イザークがケーキの手配もしたし、爾燕が、料理のほうも準備している。これといって、今更、打ち合わせする必要はないだろう。
「どうやって、ママを、ここまで連れて来るつもりです? シン。それから、プレゼントを手渡す順番は? 」
逆に、歌姫様から、そこをツッコミ返されて、シンが、あーと頷く。ただいま、ニールは、『吉祥富貴』には出勤していないし、そんな遅い時間に起きていることもない。普通に手伝いで呼び出したら、深夜枠の時間なんて舟を漕いでいるはずだ。
「長めに昼寝してもらうとか、そういうことか? ラクス。」
「それ、難しいんじゃないですか? アスラン。ニールは、悟空のおやつを作るから、その時間には動いてますよ。」
そして、長めのお昼寝をさせようにも、身体は、起床時間を覚えているから、夕刻までには起き出してしまうのだ。そこを、八戒が指摘する。
「それなら、先に連れ出して、俺がデートでもして寝かせておくというのは? 」
「それこそ、怖いわっっ。」
鷹の提案は、ハイネが一刀両断した。連れ出すのは、いいが、疲れさせるのに、何をするつもりだ? と、さらに、虎がツッコむ。
「うーん、じゃあ、どっかでお昼寝させられればいいんだよね? ラクス。」
「そういうことですね、キラ。ですが、なかなか妙案が浮かびません。」
「そんなの簡単だよ。お昼ご飯の後で飲んでるクスリに細工すればいいんじゃないの? いつもより多目に寝てもらうようにすればさ。」
一応、遺伝子情報は正常に戻っているが、その前に生成されている細胞は遺伝子異常を引き継いでいるので、以前よりは減らしているものの、同じクスリは服用している。それに細工をすれば、いいんじゃないか? と、キラは気楽に提案した。
「「「「「おい」」」」」
キラの提案には、全員がツッコミだ。そんなことしたら、体調を崩す原因になる。しかし、八戒のほうは、ぽん、と、手を叩いた。
「漢方薬でしたら、それは可能ですよ、みなさん。化学的なクスリほど、身体に影響はありません。竜骨なら、調整しやすいので、夜まで寝かせておけます。習慣性もないし、一度限りならですが。」
「ほら、簡単じゃない。」
東洋医学分野のクスリなら、人体の影響は少なくて済む。それなら、調合は八戒の得意分野だ。滋養のクスリと偽れば、ニールは大人しく飲むはずだ。
「では、八戒さん、それでお願いいたします。明日、飲ませていただけますか? 」
「ええ、そこまでは、僕が担当させていただきましょう。」
ちょうど、ただいま疲れて熱を出しているので、言い訳がしやすい。だから、八戒も、ふたつ返事だ。
「あと、プレゼントか? だが、オーナー、別に俺たちはブツは贈るつもりはないんだが? 」
基本的に、誰の誕生日でもプレゼントは、あまりしない方向になっている。まあ、ちょっとしたものは用意するが、大袈裟に順番を決めるなものではない、と、虎が言う。
「大体、トダカさんなんか、すでに渡しただろ? ママニャンの靴、新品だったよな? 」
「あれは、誕生日祝いじゃなくて、ただの贈り物だよ? ハイネ。きみも、何か渡してただろ?」
そして、当日ではなくて、わからないように贈り物をしている面々もいる。誕生日プレゼントなんて限定して渡すと、お返しをされてしまうから、ハイネやトダカは、それとなく渡している。
「俺は、ママニャンへの貢物だ。」
「ラクスは、何か渡すつもりなの? 」
「いえ、私は花束です。ママは、私がお金を使うと叱りますので。」
ニールのほうから、年少組には、きつく言われているので、高価なものは贈れない。だから、毎年、本とか花、お菓子なんかが主流だ。それを聞いていたアレルヤとティエリアは、ふたりして手を挙げた。
「あの、僕たち、ニールに何か贈りたいんですが? 」
「あにょひとにょ、しゅきそうにゃものをおしえりょ。」
その言葉に、全員が苦笑する。毎年、リクエストの受付はしてみるのだが、毎年、「ありません。」 と、すげなく返事されているからだ。年少組が働いて稼いだお金は自分のために使いなさい、というのが、ママニールのご意見だ。
作品名:こらぼでほすと 再来7 作家名:篠義