その手を取ってしまったから
夜――といってもマフィアのボスとして、昼に眠って夜起きるいわゆる『夜型』でさえない不規則な生活をしている綱吉には定義し難い時間ではあるが――ともかく、全ての光を遮断して寝台の上に横になっている時間。
柔らかなリネンにくるまれ、落ち着いた色調の天井の壁紙だけを見て、身のうちにひたひたと満ちてくる眠りの海を感じて。
そうして段々と重みを増す瞼が完全に落ちきる前に考えることがある。
骸が復讐者に囚われて、もう幾年になるだろう?
自問する度、答えは簡単に出る。―――もう9年だ。
10年には辛うじて至っていない、ただそれだけの――長い月日。
「長いよな……」
呟いた声は静かな部屋にさえ響かず、ベッドの上に落ちる。飲み込んだため息の代わりかのように。
輪廻を通じてはどうなのかしらないが、今生では綱吉と一つ違いである骸は正真正銘まだ20代中頃。つまり人生のもう半分近くも、骸は復讐者の牢にいることになるのだ。
綱吉は日々の忙しさにかまけ、時が過ぎるほどに骸が幽閉されている現状に慣れかける。
幽閉された後も、本人と顔を合わせている奇妙な日常から錯覚してしまうのだ。
骸はここにいる、と。
しかし当人が、如何に自由に振舞っていようとそれは偽り。
骸は囚われ続けている。人が感じうる時の変化、そのほとんど全てを遮断された闇の中で。
綱吉は現状に慣れかけては、骸を一心に想う人たちを見て、その目が耐え切れないように伏せられるのを見て、このままではいけないと叱咤されることを繰り返している。
今、骸はどうしているんだろうか。
未遂も含め、脱獄を繰り返した前歴から、あまりに厳重に閉じ込められている現在、如何な骸といえど復讐者からの脱獄は困難を極めているようだった。
ここ数年は脱獄に対する表立った動きを見せない。
(水面下でどうしているのかはわかったもんじゃない。何せ骸だから)
きっと、常に策略は練っているはずだ。彼の憎むものを殲滅するために。
マフィアを滅ぼすために。
世を憎む骸の根底にある感情が、マフィアに対する憎悪であるのはわかりきっている。マフィアがのうのうと息をしていることを骸は許せない。
(マフィアでない一般の人々についてどう思っているのかは曖昧だ。大した興味を持っていないかもしれないし、世界丸ごと憎んでいると考えたら、彼の憎しみの対象であるかもしれない)
こうして眠る前の一人の時間に自問していることに、特別な理由などないけれど最近、また良く考えるのだ。
過去に何度も、何度も考えたことを。
―――骸のことを。
柔らかなリネンにくるまれ、落ち着いた色調の天井の壁紙だけを見て、身のうちにひたひたと満ちてくる眠りの海を感じて。
そうして段々と重みを増す瞼が完全に落ちきる前に考えることがある。
骸が復讐者に囚われて、もう幾年になるだろう?
自問する度、答えは簡単に出る。―――もう9年だ。
10年には辛うじて至っていない、ただそれだけの――長い月日。
「長いよな……」
呟いた声は静かな部屋にさえ響かず、ベッドの上に落ちる。飲み込んだため息の代わりかのように。
輪廻を通じてはどうなのかしらないが、今生では綱吉と一つ違いである骸は正真正銘まだ20代中頃。つまり人生のもう半分近くも、骸は復讐者の牢にいることになるのだ。
綱吉は日々の忙しさにかまけ、時が過ぎるほどに骸が幽閉されている現状に慣れかける。
幽閉された後も、本人と顔を合わせている奇妙な日常から錯覚してしまうのだ。
骸はここにいる、と。
しかし当人が、如何に自由に振舞っていようとそれは偽り。
骸は囚われ続けている。人が感じうる時の変化、そのほとんど全てを遮断された闇の中で。
綱吉は現状に慣れかけては、骸を一心に想う人たちを見て、その目が耐え切れないように伏せられるのを見て、このままではいけないと叱咤されることを繰り返している。
今、骸はどうしているんだろうか。
未遂も含め、脱獄を繰り返した前歴から、あまりに厳重に閉じ込められている現在、如何な骸といえど復讐者からの脱獄は困難を極めているようだった。
ここ数年は脱獄に対する表立った動きを見せない。
(水面下でどうしているのかはわかったもんじゃない。何せ骸だから)
きっと、常に策略は練っているはずだ。彼の憎むものを殲滅するために。
マフィアを滅ぼすために。
世を憎む骸の根底にある感情が、マフィアに対する憎悪であるのはわかりきっている。マフィアがのうのうと息をしていることを骸は許せない。
(マフィアでない一般の人々についてどう思っているのかは曖昧だ。大した興味を持っていないかもしれないし、世界丸ごと憎んでいると考えたら、彼の憎しみの対象であるかもしれない)
こうして眠る前の一人の時間に自問していることに、特別な理由などないけれど最近、また良く考えるのだ。
過去に何度も、何度も考えたことを。
―――骸のことを。
作品名:その手を取ってしまったから 作家名:加賀屋 藍(※撤退予定)