その手を取ってしまったから
骸が幽閉されるのは咎あってのことだ。
しかし、その咎とは随分限定されたものだった。
いわゆる殺人罪ではない。『マフィア』を殺めた罪、だった。
復讐者が裁くのはマフィアに害意のあるものだけ。人の世の法や理などは斟酌されない。
骸の忌み嫌う『無法者の法』に触れたために、骸はその存在のほとんどを“この世界”に奪われている。彼に許されているのは、生き続けていることだけ。マフィアにとって骸はもう人ではない。
償うためでなく嬲られるために彼は生きている。
彼に先に手を上げたのは、マフィアの側だというのに、そんな事情を鑑みられることもなく。
「それっておかしいんじゃないか」
その、たった一言をオレはずっと言えずに今の今まできてしまっている。
マフィアになる以前は声高に叫ぶだけの力と方法がなく、マフィアになった今はもう、同じことを胸を張って言えるほど、オレはお綺麗でも物知らずでも果敢でもなくなってしまっていた。
……世の中は上手くいかないものだ。いつもいつも。
だから目を閉じて世界を遮断した限られた時間の中だけで、オレは骸が外に出ることを考えるのだ。
エゴイストと笑うものさえもいない、守られた天蓋の中で。
骸とオレとの関係はとても微妙だ。
クローム、犬、千種の三人が未だボンゴレの庇護下にある以上、骸はオレの守護者をしていなければならない。
復讐者からの執拗な追及を、ボンゴレの力を持たずしてかわすことはできないから。
それにボンゴレとしても骸を野放しには出来ない。何せ、閉じ込めて尚、油断ならない危険人物である。
けれども脱獄でなく復讐者から堂々と出たいと思うなら、骸にある手札はそんなオレとの交渉くらいになる。
何故なら、密かにオレの身体を乗っ取りたくても、禁弾である憑依弾無しに骸はオレの身体を奪い取ることはできないからだ。
無法者(マフィア)からも異端だと締め出された、憑依弾の入手はそう容易ではない。
ああ、なんて絶望的な確率だろう!
骸が復讐者を生きて出られる確率はとても低いのだ。骸を解き放てる可能性が一番高いのが、手をこまねいているだけのオレであるくらいには。
そして同時に、骸がどんなに外へ出たくとも、綱吉との積極的な交渉に臨む可能性は無いようなものだと思う。
あいつはオレに「助けて下さい」なんて言うような殊勝なヤツじゃない。
だって、マフィアを潰すことに人生を掛けてしまえる男が、その代表ともいえるボンゴレのボスに頭を下げるわけがないんだ。
そう、眠る前の日課として訳もなくそんなことを考えていた俺には、想像だけはとうの昔からあった。
だから、骸はあんまりにも想像通りというか。
「僕をここから出しなさい」
彼が外に出たいと思ったその時……もう、えっらそうな命令口調で言いやがったんだ!
作品名:その手を取ってしまったから 作家名:加賀屋 藍(※撤退予定)