その手を取ってしまったから
……そう。これが全ての過ちの始まりだった。
骸の解放は、マフィア界で大きな波紋を呼び、ボンゴレの周囲は随分と騒がしくなった。
けれどボンゴレのブレーンになると言うだけあって、名の使いどころを心得ている本人は、こちらの優位になるように交渉を進めるプロだった。
仲間内にはその力を火種と危惧する声の方が大きかったが、綱吉が全ての保証をし、その心配を押さえ込んだ。
それに骸はもう、綱吉を契約させ、ただの傀儡にすることを望まなかったのだ。
君の身体は君自身が使っている方が魅力的で、使い道があります―――なんて嘯いて。
そのうちに、骸がボンゴレにとって有益であるということがわかってきた。
本来どんな手を使うことも厭わない彼であるが、二度と幽閉されないよう、ボンゴレの意志を最大限に汲み取って動いたのだ。
そして綱吉の望みと同じ、マフィアの解体を水面下で進めることにとても精力的だった。
その力は大きく、綱吉は理想のパートナーを手に入れた。
だから、問題なのはそこじゃない。
それは解放された骸が放った第一声とも関連している。
「差し出されたものに見合う分、僕は君のものになりましょう。
といっても僕は高いので……そうですね、君の心まるごとないと足りないですが」
(この時点で何かを察するべきだったのだ!)
たとえば、ある夜のこと。
その手に何で三叉槍が握られてないんだろうと思うような殺気を振りまいてなお、笑顔の骸曰く。
「綱吉くん。クロームが教えてくれたんですが……また、男と二人で飲みにいったそうですね?」
「いや、その……それは仕事だからっ!(クロームなんて余計なことを!)」
「黙りなさい。先週に続いてまたですか。そろそろ君の恋人は誰か、もう一度体に教え込んであげます」
「ちょっ、やめっ……骸ぉ!……ん…っ…」
解放された骸は嫉妬の塊で、今のオレは毎日、大変、大変、苦労している。
でも、もう骸を離すこともできない。
オレは差し出されたその手を取ってしまったのだから。
END
作品名:その手を取ってしまったから 作家名:加賀屋 藍(※撤退予定)