その手を取ってしまったから
気が付くと骸の姿はなく、クロームがうつむいた綱吉を気遣うように立っていた。
「ボス」
「……ありがとう、クローム」
骸の言葉を届けてくれて。
骸とオレを、繋いでくれて。
クロームはううん、何でもないわと首を振った。
その小さな唇で、骸さまのためだから、と大切に言葉を乗せる。
そう、骸はオレ以外からもこんなにも思われているのだ。
「―――ボス。骸さまはボスのことがずっと気になってたの。だから私を通してボスのこと、ずっと見てた」
「えっ?」
「それでもボスがボスだから、骸さまは助けてって言う気になったんだと思うの。ボス。骸さまを、助けて」
「……うん」
その言葉は縋るようだった。初めて彼女に、こんな声で骸について願われた。
綱吉は、骸を一番に慕う少女の信頼も勝ち得ていたのだと知った。
おそらくは、今ここにいない二人からも。
こんなに見てくれている人がいるのだ。
敵ばかりを作ってしまう、失うものばかりを作ってしまう、この道を誤りではないと支えてくれる人が。
綱吉は彼女にしっかりと宣言した。
「助ける…!!必ず」
それに、うん、と一つ頷いたクローム。
そして淡い笑顔と共に、思いも寄らないことを言った。
「大好きなボスに助けてもらえれば、骸さまもきっと嬉しいわ」
彼女は、骸の想いをオレよりもかなり昔から気付いていたらしい。
四肢の自由を奪われ、
視覚も皮膚感覚もない。
微かな音だけが支配する死の牢獄。
開かれることを忘れ、錠前さえ錆付いたはずのその扉が、今ゆっくりと開こうとしていた。
作品名:その手を取ってしまったから 作家名:加賀屋 藍(※撤退予定)