【カイハク】機械仕掛けの神
城の屋根、一番高い場所にカイトは立つ。
広大な空と、一面に広がる森と、森の端にある人々の営み。それらを、冷静な瞳が見渡していった。
何の感想も沸かない。それはきっと、まだ自分が知らない感情なのだ。
この城にガルムが現れて十年、多くのことを学んだ人形は、新しいパートナーから、更に多くを学ぶだろう。
『お前を残して逝くことを、許しておくれ』
死の間際にそう言い残した魔道士は、今の状況を喜ぶだろうか。
孤独を求め、孤独を愛し、誰よりも孤独を恐れていたから。
むしろ、己の命が尽きたことを悔しがっているかもな、と、カイトは考えた。
完成を見届けるには、人の命は短すぎる。完成する時が来るとしたら、だが。
私には、この世界は広大すぎる。
今はまだ、ガルムとハクがいればいい。
カイトは空に向かって両手を伸ばし、魔道士から伝えられた呪文を口にした。
詠唱と共に、空から大量の花弁が舞い降りて、世界を覆い始める。
はらはらと。はらはらと。
舞い散る花弁とともに、世界は眠りについた。
しんとした世界に、音もなく花弁が舞い落ちる。
世界が目を覚ました時、城に関する記憶も伝承も、そこに暮らす人形達のことも、何もかもが消えていた。
地に落ちて消えた花弁と共に。
ホールで待つハクとガルムの元に、カイトが戻ってくる。
「これで、城のことも私達のことも、全て消えた。悲しいか?」
ガルムはハクの肩から降りると、黙って二階へ向かった。
階段に前足を掛けた時、ハクがカイトへと話しかける声が聞こえる。
「あなたの側にいることが、私の幸せです。永遠に」
その先は耳に入れないようにして、ガルムは急いで駆けあがった。
終わり
作品名:【カイハク】機械仕掛けの神 作家名:シャオ