【カイハク】機械仕掛けの神
「お嬢さあああああああん!! 心配したんですよおおおおお!!」
「ガルムさん! ごめんなさい、勝手なことをして」
ドレスの裾にしがみつく黒ネズミを、ハクはそっと手で掬った。
「ああ、良かった。本当に良かった。あたしがどれだけ心配したか」
「少しは痩せるだろう」
「旦那!! 余計な口利かないでください!!」
ガルムに怒鳴られても、カイトはいつもの調子で、
「ハクを連れて帰ったぞ」
「ああ、本当に良かったですよ。これでやっと気が落ち着くというもので、ちょっと、旦那!?」
カイトはガルムの背中を摘むと、目の高さまで持ち上げる。
「ハクを連れて帰ったぞ」
「分かってますよ! いいから降ろしてください!」
「連れて帰ったら、許すと言っただろう」
「は? あ、ああ。何ですか、そんなこと気にしてたんですか。嫌ですよ、旦那。あたしが旦那に怒ったことなんて、今までありましたか?」
「数え切れないほどあった」
「分かってんなら、悪戯をやめてください!」
相変わらずの掛け合いに、ハクはくすくすと笑いを漏らした。カイトの肩に乗せられたガルムは、せっせと毛づくろいしながら、
「・・・・・・あの、城に来た男は、村に帰しましたからね。もう来ることもないでしょう」
ハクは目を伏せ、「ごめんなさい」と呟く。自分のせいで、カイトにもガルムにも迷惑を掛けてしまった。
ガルムが、慌てた様子でハクに手を振ってくる。
「いいんですよ。お嬢さんが気にすることじゃありませんや」
「あいつが見つけられたくらいだから、他にも来ないとは限らないな」
「旦那、今そんなこと言う必要ないでしょうが。お嬢さんもお疲れでしょうし」
「ハクは、この世から居場所がなくなったら悲しいか?」
「え?」
ハクが顔を上げると、カイトから真っ直ぐに見返された。
「この城以外の居場所がなくなったら、悲しいか?」
「いいえ」
目を逸らさずに、ハクは答える。
「私の居場所は此処ですから、他には必要ありません」
「そうか。なら良かった」
「旦那、一体何をする気です?」
ガルムを肩から降ろしながら、カイトは平然と言い放った。
「この世界から、城の存在を消す」
作品名:【カイハク】機械仕掛けの神 作家名:シャオ