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Wizard//Magica Wish −8−

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さやかちゃんは、最近学校に登校していないらしい。
これは まどかちゃんから聞いた話だ。とある日、まどかちゃんは さやかちゃんと一緒に帰ろうと声を掛けたのだが、丁度その時に さやかちゃんの携帯にメールが届いたらしい。流石に内容まではわからなかったのだが、そのメールを見た さやかちゃんの表情が険しくなり、急いで一人でどこかに行ってしまったという。
そして次の日、まどかちゃんはいつもどおりの待ち合わせ場所で さやかちゃんを待っていたという。…だが、そこに現れたのはいつもの さやかちゃんではなかった。
髪はボサボサ、酷く目の下にクマができており、どこか生気が抜けていたという…まさに、いまの状態の さやかちゃんだった。

「本当に、どうしちゃったんだろう…さやかちゃん」

俺は、カフェの窓際で雨の振りやまらない外を見続けながらストロー越しに永遠にコーヒーを飲み続けていた。実は、自分自身もそこまで心は晴れていなかった。この状態を、一言で表すとなんというか…あ、わかった。
「『鬱』…だな」
鬱。まさに今の自分の状態だ。
今まで笑い合っていた日常が今ではほとんどといってない。杏子ちゃんも、まどかちゃんも、あのさやかちゃんの一件以来から笑顔を表に出したことは少なかった。ほむらちゃんはいつもどおり至って平常心を保っているようだが、本心はどう思っているのか。絶対にこんなことはならないと思っていた自分が心の片隅に居たのだが、どうやらそれは幻想だったようだ。

「………。」

あぁ、次第に考えるのも面倒になってきた。
そんなことを思っていたら、俺に眠気が襲ってきた。
どうする?ここはカフェだが…まぁ良いか。
別に時間制限があるわけでもない。閉店時間前に起きれば、なんとかなるか。

瞼が重い。いっそ閉じてしまおう。
そうすれば、全て楽になる。

あぁ…また見るのか。
もう何度目になるのかもわからない。

…悪夢を。




・・・

・・






「…俺の、秘密」

「そうだよ。君のことは大体理解した。まず、今まで敵対していたことをこの場で謝らせてもらうよ。操真 ハルト」

俺の目の前に突然姿を現したインキュベーターは、俺を路地裏に勧誘し、自分達以外の誰もいない場所へと映った。雨が降り始めて次第に俺の髪と服が濡れていく。それは奴も同じだった。
この地球外生命体とこうやって話すのは今回が初めてだ。
今までは何があってもこうして対面することだけは避けていた。
自分の秘密が知られてしまうからだ。
…だが、俺は見滝原で長く過ごしすぎてしまったらしい。
奴らは、この短期間の間で俺の正体を知ってしまったのだ。

「敵対していたこと?俺はお前と和解した覚えはないけどね」
「別にそれでも僕は構わないさ。ただ、僕が謝りたいのはね、君の特性を知らずに何度も魔法少女の人間化を阻止していたことを謝りたかっただけだ、これは大きな過ちだった」
「…どういう風の吹き回しだ?」
「まぁまぁそんなに睨みつけないでよ。さて、本題に入る前に、魔法少女と僕たちの関係を総復習しようじゃないか」

キュウベぇはゴミ箱の上に飛び乗り、俺を凝視した。その赤い目が、全てを見透かされている感じがして気味が悪い。俺は黙って奴の話しを聞くことに決めた。奴らは、俺についてどこまで理解しているのか…。まぁ今更逃げても手遅れだろう。別に奴らに知られても何もすることはできない。聞かせてもらおうじゃないか。

「僕たちインキュベーターは有史以前から君たちの文明に干渉してきた。数え切れないほど大勢の少女がインキュベーターと契約を交わし、『希望』を叶え、時に歴史に転機をもたらし、そして最後は皆、『絶望』に身を委ねていった」

「まさに、祈りで始まり呪いで終わる…悪魔のような脚本だな。皆、お前達インキュベーターの策略によってな」

「う~ん、ちょっと訂正してほしいね。それじゃあまるで僕達が彼女達を絶望させたような言い分じゃないか。今まで魔女になっていった魔法少女達はね、皆が『自分自身の祈り』に裏切られたんだよ」

「…っ…」

「どんな希望も条理にそぐわないものである限り必ず何らかの歪みをもたらす、やがてそこから災厄が生じるのは当然の摂理だ」

「…お前」

「そもそも、それを裏切りだと言うのなら、最初から希望や願い事なんてする方が間違いなのさ」

「『コネクト』プリーズ」
「いい加減にしろよ…俺もそろそろ黙っちゃいないよ?」

俺はウィザーソードガンをインキュベーターに突きつけた。しかし奴は全く動揺せず、じっと俺を見続けた。…それもそうだ。いくら個体を失ったって、変わりは沢山存在するんだ。俺がいくら奴らを倒そうが無駄な体力を消費するだけなんだ。

「まぁ落ち着いてほしい。話しはまだ終わってないよ?それにね、僕はそれが愚かとは言わないよ。そうやって過去に流された全ての涙を礎にして今の君たちの暮らしは成り立っているんだから…さて、ここからが本題だ」

俺はウィザーソードガンを下ろし息を呑む。
インキュベーターは全てを悟っているかのようにその赤い目を輝かせた。俺は思わず後ずさりした。
「まず最初に、君のその力は僕と君が直接契約して生み出された力ではなく、僕と契約した『第3者の存在である魔法少女の願い』で生み出された代物だね?この仮定にたどり着くまでにはそんなに時間はかからなかったよ」
「まぁ、俺もすぐにばれるとは予想してたからさ…どうした?もしかしてお前達が知った俺の真実ってのはそれだけか?」
「次に、その指輪はウィザードリングって言ったね?その指輪は魔法少女達が自分の願いによって生み出されたソウルジェムっていうことに間違いはないよね?」
「あの時見ただろ?何を今更…」
「なら、『因果』は全て、君が引き継いでいることになるんだね?よかった、僕はてっきりそれすらも消し去っていると勘違いしていたよ!これで確信を得た!」
「…っ!!」
この時、俺は初めて感情をインキュベーターの目の前に出してしまったかもしれない。もう、後戻りは出来ない。奴らは、本当に自分の全てを知っているのだ。

「因果っていうのはね、元々は魔法少女の潜在能力の数値を意味しているんだ。もちろん、個体によっては因果の量が多かったり、少なかったりする。君たちの歴史上の人物にたとえると、マリー・アントワネットやジャンヌ・ダルク、卑弥呼…等、彼女達は計り知れない因果の量を持っていたんだ」

「…ははっ…俺、馬鹿みたいだからちょっとわかん…ないな」

「いいや、君自身が一番よくわかっている筈だよ。君は今日に至るまで魔法少女から闇雲にソウルジェムをウィザードリングという形質に変換してきた。けど、それはあくまで『形を変えただけ』だ。実際の君が使う魔法は『魔法少女を人間に戻す』という魔法ではなく、『ソウルジェムから彼女達の命を取り出しそれを体内へ返還させ、残った穢れや因果を全て自分の中に取り込む』…これが僕達が得た仮定さ。何故この仮定に辿り着いた理由はね、君の中の因果の量がヒントだったんだよ」
作品名:Wizard//Magica Wish −8− 作家名:a-o-w