Wizard//Magica Wish −8−
インキュベーターは俺の周りをぐるぐると周り、一切口を休まずに持論を続けた。俺の額から汗が流れ落ちる。俺の中に次々と衝撃が走り、奴の口から出てくる言葉に一切の間違えはなかった。全て、事実だった。
「本来、極平凡な人生を送っていた筈の君が何故あんなに強力な魔法を永遠に使えるのか、それがまず一つの謎だったんだ。けど、とある仮定を得た時にあっさりと謎は解けたよ。そもそもノーリスクで強力な魔法を使える、という固定概念自体が大きな間違いだったんだ。ハルト、ひょっとして君はソウルジェムをウィザードリングに形質変化させるたびに強力な魔法になっていったんじゃないか?」
「…っ!」
「やっぱりね。君は何度もウィザードリングを生み出していると同時に魔法少女達の因果が君の中で螺旋状に束ねてしまったんだろう。その結果、絡まる筈のない魔法少女達の因果線が全て君の中に繋がってしまったとすれば、君の計り知れない魔力係数にも納得がいく。そして、それと同時に君の中に穢れも溜まっていった…しかし、君は人間のとある行動により穢れを取り除いていたんだ。そう、それが『睡眠』さ」
「お前…そんなことまで…」
「君は睡眠することによって、自分の体内に溜まる穢れを消化していたんだ。魔法少女達の絶望を自分の夢、いや『悪夢』として表現することによってね。これでまず永遠に魔法を使えるという謎は解明できた、けど、君は一つ大きな過ちを犯しているんだよ」
「何?どういうことだ!?」
心臓の脈が早くなり、血液の流れるスピードが早くなる。
奴は俺の真実に限らず、俺が知らないことまで知っているというのだろうか…。
「残念ながら、君の中の因果が増える度に穢れが溜まる速度は早くなっているはずだ。もちろん、いくら睡眠で消化できるとは言え、大量の穢れを一回の睡眠で消化することなんて出来る訳がない。つまり、少なからずとも穢れは君の体内の貯蓄している筈なんだ。それが少しずつ積み重なっていったらどうなると思う?もちろん、君の身では抑えきれないだろうね。そう、君はなろうとしているんだよ。体内から抑えきれずに溢れだした穢れと莫大な因果が重なりあった…」
最強の『魔女』にね。
お手柄だよ、操真ハルト!
君は沢山のソウルジェムを取り込んで、自ら最強の魔女になろうとしているんだよ!
頭上で雷が落ちる音が響き渡り、雨がより一層激しくなった。
俺は声も身体を動かすこともできない。
絶対に、誰にも知られたくなかった『真実』と『結末』を…知られてしまった。
「……あぁ……!」
「次にもう一つ、何故君が男の身でありながら魔法を使うことができるのか。この謎に僕は悩まされた。けど、僕はある確信を得たんだ。それが君の中に溜まる因果と穢れの意味が導いてくれた。これで全ての謎が繋がり、納得が着く。さっきの仮定から君の中に因果と穢れが溜まっているという答えは出た。だがそれと同時に新たな謎も生まれたんだ。何故、人間という個体に因果と穢れが溜まるのか…。けど、僕は勘違いしていたんだ」
「…は…ぁ…っ!!」
まさか…あの事実も知っているというのか?
奴らは……本当に全てを…。
「何も、君を『人間』と決め付けていた事が根本的に大間違いだったんだ。第3者である魔法少女が願った願い、そして君の中に因果と穢れが溜まる理由…そう、答えは至ってシンプルだった。操真ハルト、君の…」
−…く…さま−
君の正体は…。
−おきゃ…さま!−
−お客さま!!−
・
・・
・・・
「お客様!起きてくださいお客様!」
「っ!!……はぁ…はぁ」
目が覚めると、窓の外は完全に日が落ち、時間は夜9時を過ぎていた。店員は何度も俺の肩を擦り起こしていたらしい。俺は軽く頭を下げ、そそくさと店を後にした。
外に出ると霧雨が降っているせいか湿気っぽく、生暖かかった。
「…正体がバレたからって、ずっと落ち込んでいる訳にはいかないでしょ…」
俺は自分を励まし、とりあえず杏子ちゃん達がいるマンションへと重い足取りで帰ることにした。
作品名:Wizard//Magica Wish −8− 作家名:a-o-w