こらぼでほすと 再来9
「三蔵、いつの間に呑んだんだよ? もう。」
悟空は慣れたもので、氷水を渡して飲ませている。ちょっと酔いが覚めれば元に戻るので、放置する。
「でも、女房を口説いてんだから、間違っちゃいないんだけどな。」
ニールが贈られたガーベラを軽くヒモで纏めつつ、悟浄がツッコミをひとつだ。しかし、ハイネが片手を横に振って否定の態勢だ。
「いや、あれはないわぁー。俺でも怖いぞ? 悟浄。」
「ニールはノンケですからね。いや、あれで押せば、どうにかなるんですかね? 悟浄。」
「どうにかって・・・そんなことになったら流血の大惨事だぞ? 八戒。下準備もなく、つっこまれたらさ。」
「あ、そうですね。三蔵は、女しか抱いてないでしょうから、そうでしょうね。というか、入らない? 」
「入らないだろうな。確実に。」
夫夫だけなら、日常会話かもしれないが、ノンケも若いのもいるところでは破壊力抜群の爆弾発言だ。周囲も絶句するし、ニール当人も顔色が青くなる。
「・・・・おまえら、そういう生々しい話は、俺たちに聞こえないとこでやってくれないか? 」
聞きたくねぇーとハイネが両耳を覆うようにして、沙・猪夫夫に注意する。ニールのほうは、カウンターまで避難している。ふしゃあーと威嚇しつつ、沙・猪家夫夫を睨んでいるし、その背後にはニールの守護神みたいなトダカが苦笑しつつ冷酒を口にしているし、ニールの前にはミニティエとアレルヤも庇うように立っている。
「まあまあ、娘さん。落着きなさい。・・・・とりあえず、ロウソクを用意しませんか? オーナー。」
場の空気を変えるように、トダカが、わざとのんびりしたトーンでオーナーに声をかける。
「そうでしたわ。お祝いの席ですのに、最初のセレモニーさえ忘れているなんて。イザーク、ケーキをお願いいたします。・・・・ママ、野獣は放置して、まずはロウソクを吹き消してくださいな? 」
悟空がカウンターへ、ひょいと坊主を移動させて、再度、ホールの真ん中の席に案内される。
「ダメだ。俺、素面では付き合えない。」
「まあ、それはおいおいに、で、よろしいじゃありませんか、ママ。アレルヤ、ティエリア、ママのとなりにいらしてくださいませ。」
あの口説き文句に絆されることはない。どう足掻いても、ニールも亭主に身体を貸してやるのは無理そうだ。囁かれる台詞が怖すぎる。
「にぃーりゅ、おりぃがまもるにゃ? 」
「ほんと、ダメなんだね? ニール。・・・・その気になったら言ってね? 僕、教えるから。」
そして、さらにアレルヤの爆弾発言が続いて、歌姫様を抱き締める。こういう場合は、女の子の身体で癒されたい。とはいうものの、歌姫様には、そういう気分は盛り上がらないから、とりあえず気持ちを落着けるために他人の体温を借りているだけだ。
「ママ? 私でよければ、今夜は添い寝させていただきますよ? 」
「そこまでじゃないんだけどさ。・・・・やっぱり、女の子はいいなってぐらいだ。体温、貸してくれ、ラクス。」
「というか、その台詞を、オーナーに吐けるおまえが最強だとは思うんだがな。」
イザークがケーキを運んできて、大笑いする。天下の歌姫様の体温を貸せ、とか、普通は言えない。普通なら、護衛陣に阻止されるし、歌姫様だって逃げる。しかし、歌姫様は逃げないどころか、ぎゅうぎゅうと背中に手を回して積極的に体温を貸している状態だ。ついでに、ミニティエとアレルヤも背中にへばりついて体温提供に勤しんでいる。
「だって、イザーク。ヒルダさんに抱きついたら、セクハラだろ? 」
「いや、そこじゃない。」
「なんだい、あたしの身体でよければ貸すよ? ママ。」
「すいません、ヒルダさんも怖いです。」
「アタシもオーケーよ? ニール。」
「アイシャさんに抱きついたら、虎さんに殺されます。」
「抱きつくぐらいで殺すとこまではいかんぞ? まあ、殴るぐらいだな。」
「うわぁー愛妻家の面目躍如。」
「うるさい、ディアッカ。さっさとロウソクをつけろ。」
そういう気分にならなくなって久しいニールにしてみると、生々しい体温は苦手になりつつある。だから、子供たちで、ちょうどいい。ふう、と、息を吐いて歌姫様を解放すると、背後のティエリアをだっこする。
「もう一度、はぴばソング。レイ、ピアノよろしくね? 」
ロウソクに灯が点ると、レイの伴奏が始まる。周囲は、適当にはぴばソングの合唱だ。廻らない舌で、ティエリアも大声で歌っている。それを聞くと、ニールも、また生きて一年経過したんだなあ、と、考える。
「誕生日、おめでとう、ママ。さあ、吹き消して? 」
歌が終わって、キラが勧めると、ティエリアとアレルヤに視線で一緒に、と、伝えて、ニールがロウソクを吹き消した。
作品名:こらぼでほすと 再来9 作家名:篠義